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宇宙探索サバイバルの完成形を目指す『Osiris: New Dawn』

少数精鋭の開発チームが手がける宇宙探索サバイバルゲームは『No Man’s Sky』の失敗を避けるために慎重な姿勢を保っている。
Written by Damien McFerran
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『Osiris: New Dawn』

『Osiris: New Dawn』

© Fenix Fire Entertainment

No Man’s Sky』は近年で最も賛否両論を巻き起こしたゲームのひとつとして見なされるべきだろう。制作発表から昨年のリリースまで、このゲームは数々の称賛とハイプを生み出してきたが、実際にリリースされた製品版はかなりの不出来で、デベロッパーのHello Gamesはいくつかの機能について誇張しすぎたと感じたファンもいた。そして、これこそが現在Steamの早期アクセスで公開されている、『No Man’s Sky』に近いテーマ性の作品『Osiris: New Dawn』を手がけるデベロッパーFenix FireのCEOを務めるゲーム業界のベテラン、Brian McRaeが避けようとしていることだ。
McRaeが新たに立ち上げたこのスタジオは小規模だが、本人のゲーム業界のキャリアは豊富だ。実に16年のキャリアを誇る彼は、これまでにHigh Voltage、Midway、Blizzardなどで働いた経験があり、Blizzardでは開発中止となった『StarCraft: Ghost』の開発に携わっていた。また、彼は『EVE: Online』や『Tuscany World』など、 Oculus Rift対応の多数のテックデモに携わってきた経験も持つ。
一度流行ったトレンドをすぐに追従することで知られるゲーム業界で長年経験を積んできたMcRaeは、自分の手がけるゲームと『No Man’s Sky』が比較される運命にあることを重々承知しているが、本人は、この2本はかなり違った方向性を持っていると強調する。
「『Osiris: New Dawn』と『No Man’s Sky』は宇宙空間でのサバイバルという意味では似ていますが、私たちのゲームはそれだけではありません。たとえば、こちらにはホラーの要素も組み込まれています。最初の夜を迎えればモンスターが姿を現すのです。また、『No Man’s Sky』は宇宙旅行と探索に主眼が置かれていますが、『Osiris: New Dawn』は自分がいる惑星を隅々まで活用した後で、入植可能な次の惑星へ移動するという部分に主眼が置かれています。この特徴は特にPvPとPvE両方のマルチプレイヤーオンラインモードでのゲームエクスペリエンスを素晴らしいものにしてくれます」
McRaeはHello Gamesが体験した各種問題に対して同情を寄せているが、『Osiris: New Dawn』の開発アプローチは同様の問題を回避するとしている。「Hello Gamesが大量の機能を約束している状態のまま『No Man’s Sky』をリリースしてしまったのは残念でしたね。正直に言えば、あそこまで大量の機能をリリース時に実装するのは、どのデベロッパーでもかなり難しかったはずです。Hello Gamesは小規模ですし、特に厳しかったと思います。一方、私は早期アクセスを利用してごく少数の機能からスタートし、それらをテストしたあとで、コミュニティのフィードバックを見ながら随時他の機能を追加していくという形を取っています。『No Man’s Sky』を批判しているわけではありませんが、たとえば、私たちは宇宙全体にいきなり取り組むのではなく、ひとつの惑星から取り組んで、終わったら次の惑星という形で開発を進めているんです」
プロシージャル生成の『No Man’s Sky』ではそれを活かすべく探索が主眼に置かれていたが、『Osiris: New Dawn』では探索よりもサバイバルに主眼が置かれている。「このゲームは『もし○○だったら』というアイディアからスタートしているんです。つまり、『もし異星人の住む世界に不時着して、そこでサバイバルをしなければならないとしたら?』というアイディアが元になっているんですよ。このアイディアが、『このゲームの世界で人類はどうやって宇宙に進出したのだろう?』、『どうやって新しい惑星に入植するのだろう?』などという他のアイディアと組み合わさりながら大きくなっていきました。私はアンディ・ウィアーの著作『火星の人』(編注:映画『オデッセイ』の原作)のアイディアが気に入っていたんです。人間に容赦ない厳しい環境の中にたったひとり取り残され、その中でサバイバルする方法を見出していくという、あのアイディアに影響を受けました」
『Osiris: New Dawn』は、基本的なツールと自分を守るための武器しか存在しない厳しい環境にプレイヤーを放り込むため、プレイヤーはアイテムをクラフトしたり、リソースを見つけたり、敵を遠ざけたりしなければならない。McRaeはゲーム内でプレイヤーが置かれるシチュエーションについて次のように説明する。「ある惑星に不時着したプレイヤーは、フェイスシールドが破損して酸素が漏れている状態からスタートするので、まずはそれを修復する方法を見つける必要があります。そのあとで、今度は不時着した宇宙船から物資を探し出すことになります。その物資の中には眠ったり、隠れたりするための空気注入式の簡易住居も含まれています。それらを見つけたあとは、基本的にはプレイヤー次第です。惑星を探索してツールやデバイス、より大きな住居をクラフトするための鉱物や金属を得るわけですが、惑星の地表ではアクシデントが起きる可能性が高いです。というのも、戦うか逃げるかの選択が迫られるような異星人との遭遇を色々と用意していますから」
厳しい環境がプレイヤーを待ち受ける

厳しい環境がプレイヤーを待ち受ける

© Fenix Fire Entertainment

ゲーム業界で15年以上の経験を持つMcRaeは、当然ながら『Osiris: New Dawn』の開発にあたって業界内外から様々なインスピレーションを得ている。「Blizzardで働いていた時は『StarCraft: Ghost』の開発に関わっていましたが、私は『StarCraft』シリーズのSF観が大好きでした。特に、それぞれがユニークな特徴を持ちながらお互いを補完しているTerranの建物や、種族間の三すくみのシステムなどが気に入っていましたね。また、『メトロイド』シリーズ、特に『メトロイドプライム』も私のお気に入りのゲームでした。ミステリアスで危険な異世界を探索している感覚を見事に再現していたゲームだと思います」
「基本的に宇宙や宇宙旅行に関するものが好きなんです。幼い頃に劇場で観たオリジナルの『スター・ウォーズ』が私をSFの世界に引き込みました。影響を受けた映画はこれ以外にも数多くありますよ。『スターシップ・トゥルーパーズ』、『エイリアン』、『ピッチブラック』、『イベント・ホライゾン』、『エウロパ』など枚挙に暇がありません。また、私は『Dungeons & Dragons』シリーズの熱心なファンでもあります。このボードゲームはサバイバルゲームに似ていると思っていますし、ここからも確実に影響を受けていますね」
『Osiris: New Dawn』の非常に優れている特徴は、このゲームが基本的にMcRaeとプログラマーのManny Floresの2人だけで生み出されているという点だ。McRaeは次のように説明する。「実は、私たちは休みを挟みながら5年間に渡って『Osiris: New Dawn』の開発を続けていたんです。ですが、準備が整ったと思えるまで情報を一切公開しませんでした」
「『次に組み込むべき重要な機能は何か?』と毎日自問しては、その機能をピアプログラム、つまり2人で一緒に開発していきました。このゲームの大半は、週の前半をピアプログラムで、後半は別れて作業という形で進めていきました。私がアート周りを、Mannyがインベントリの管理などのシステム周りを手がけています」
リソースの発見がサバイバルのカギになる

リソースの発見がサバイバルのカギになる

© Fenix Fire Entertainment

この2人体制は、McRaeが対処しなければならない最大の問題のひとつだったが、『Osiris: New Dawn』が2016年にSteamの早期アクセスでリリースされて徐々に話題になっていったことから、現在のMcRaeはその2人体制を崩している。
「現時点での最大の問題は、上手く機能する形を保ちながらチームの規模を大きくしていくことです。今の開発チームは急成長を続けています。私としては、開発環境に上手く順応してもらうことを踏まえると、1ヶ月に1名以上のスタッフは雇いたくないのですが、早期アクセスでの開発をスムースに進めるためにはその補充ペースでは追いつかないんです。ですが、幸運なことに、私は業界屈指のデベロッパー数名と非常に親密な関係を築いてきたので、この作品の存在を明らかにしたあとは、労せずに優れた人材を集めることができましたし、今は全員が期待通りのスピードで取り組んでくれています。また、コミュニティからのフィードバックにも上手く対応できています」
『Osiris: New Dawn』に対するプレイヤーとメディアからのポジティブな評価は、これまでの彼らの多大な努力が無駄ではなかったことを約束してくれている。McRaeは「Steam上のポジティブな評価を確認するのは本当に気分が良いですよ。パッチやアップデートでこちらがミスをしても、ファンはポジティブな姿勢を保ちながら、どこがミスだったのか、私たちにどう開発して欲しいのかをフィードバックで教えてくれます。現時点では3,200人以上のプレイヤーがレビューをしてくれていますし、最近の評価も “ほぼ好評” で安定しているので嬉しい限りです」
「昨年のPAXでの受賞もポジティブなものでしたね。情熱を注いできた5年間が受賞によって報われた感じでした。また、PAXは受賞以外にも素晴らしい経験ができました。自分たちのゲームを試遊して楽しんでくれている人たちの姿を見るのは最高の気分でした。自分たちのゲームを試遊した人が、仲間を連れて戻ってきて『ちょっとプレイしてみろよ!』と言っている姿を見れば、誰だって感動するはずです」
『Osiris: New Dawn』は完成からはまだ遠く、McRaeはコミュニティからのフィードバックを開発に組み込んで、製品版をできる限り最高の形になるように努力を続けている段階だ。McRaeは「『Osiris: New Dawn』はもはや “私たち” のゲームではないんです。これは “コミュニティ” のゲームなんです。彼らは開発を通じて私たちにフィードバックを提供してくれています」と説明する。
また、McRaeは「私たちはすべてのフィードバックに目を通し、どれが新機能や変更点として試してみる価値があるのかを精査します。そのあとで、開発に組み込んでいくんです」と続けているが、『Osiris: New Dawn』は丁度アップデートを終えたところで(2017年1月9日現在)、探索ができる荒涼な惑星Azielが追加された他、クラフト用の新しいツールや武器も追加された。Azielはプレイヤーが最初に探索できる惑星Proteus IIの約3倍の大きさを誇っているが、この事実はこのゲームを拡張していきたいというFenix Fireの意志が感じられる。
製品版のリリース日は未定だが、McRaeは『Osiris: New Dawn』をPC以外でもリリースする予定があると発言している。「他のプラットフォーム、特にPS4とXbox Oneでのリリースも考えていますが、今はPC版を自分たちの狙い通りに仕上げることに集中しています」
『Osiris: New Dawn』の開発に約5年間を費やしているFenix Fireを遅いと批判するのはフェアではないが、McRae率いる小規模なチームが時間をかけてじっくりと開発に取り組んでいるのは確かだ。製品版『Osiris: New Dawn』は待たされる甲斐がある内容になりそうだ。