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Awichが語る【RASEN in OKINAWA】最強の布陣、自分たちにしか出せない色

唾奇、OZworld、CHICO CARLITO。Awichが最強のラッパーたちとともにドロップした「Red Bull RASEN」は、2023年3月に公開され、またたく間にこの1年の日本のヒップホップシーンを象徴するバイラルヒットのひとつとなった——
Written by Tasuku Amada
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そして11月、激動の1年の集大成ともいえるワンマンライブ「Queendom -THE UNION-」のステージを終えた直後のAwichにインタビューを敢行。動画には収めきれなかった全文をここで紹介しよう。

ヤバい曲になる予感…それを超えていった4人の“色”

円を描いて回るカメラに囲まれた4人のラッパーがマイクをつなぎ、その円は高みを目指して上昇し“螺旋(らせん)”を形づくる。それが「Red Bull RASEN」シリーズのコンセプト。
沖縄から日本、日本から世界。常に高みを目指し続けるAwichが「Red Bull RASEN」への出演オファーを受け提示したテーマは、彼女の原点「沖縄」だった。それも、今までにない最強の「沖縄」。
 
Awich「Red Bull RASENのオファーをいただいたときに、せっかく出るならもう絶対に誰も勝てない、最強の座組みでやりたかった。だからがんばって唾奇とCHICOとOZを、口説いたというか、みんながやる気になってくれるようにちょっとずつ連絡を取り合って。そうやってがんばっても実現できなかったプロジェクトって今までもいっぱいあったし、特に沖縄の“さすらいのラッパー”みたいなやつらと一緒につくっていくのは本来とても難しいこと。だけど今回はすんなりといろんな条件が揃っていって出来上がったんです」
Awich「唾奇くんがいつも捕まりにくいというか——彼はいろんなことを深く吟味してやる/やらないを決める人なので、唾奇にまず最初に「やる」って言ってもらわないと進まないと思って、唾奇にいっぱい連絡してたんです。「こういうビートがあるけどどう?」みたいな。それで3つくらい送ったビートのなかのひとつが今のRASENのビートなんですけど。「これがいい」って言ってくれて、速攻でバースを乗っけてくれて。
CHICOとかOZに「唾奇乗っけてるぞ」みたいなこと言ったら「え、嘘でしょ?」って。それで私がそのあとに書いて。だから実は唾奇から最初で、その次に私が書いたんだけど、私(のバース)を前に持ってきて。その次にOZが書いてくれて、次にCHICOが書いてくれたって感じです。
これを世界中にバズらせようって思ってたわけではなくて、自分たちにしか出せない色を出そうってことだけを考えてた。自分たちのなかで一番最強のものをやれば、絶対に誰が見てもヤバいものになる、って思ってたら、予想以上にヤバくなったっていうか。だから自分たちの色を出そうとすることの大事さを実感した作品です」
Awich

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© Tasuku Amada

沖縄から日本を巻き込み上昇する“螺旋”の軌跡

「Red Bull RASEN」公開の2ヶ月後、同曲をあらたに録音したAwich自身のシングル曲として、沖縄を舞台にしたミュージックビデオ「RASEN in OKINAWA」が公開に。そこからは4人それぞれのフッドへの愛や、この土地と文化への敬意を感じ取ることができる。
唾奇、OZworld、CHICO CARLITOのそんな思いは、インタビュー動画のなかでこう語られている。
 
唾奇「僕ラップやってなかったらたぶん沖縄から生涯出る予定がなかったんですよ。飛行機に乗ってどこかに行くということもたぶんなかったと思うんです。外のものに全く興味がない子供で、沖縄がめっちゃ好きで、みたいな。音楽で出会った人はみんなひとつのものを作り上げる仲間。本当にすごい小さい規模で始まったことなんだけど、今だったら日本のみんながそれを聴いてくれてたりする」
 
OZworld「沖縄の古い民謡の『久高万寿主』っていう歌をサンプリングしました。くゆいぬ話ぬうーむっさー(今宵の話は面白い)っていう。なんでまだ沖縄に米軍基地があるの? とか、いまだに沖縄はずっと支配されていて、今も実質的には日本に支配されたままだよね、みたいなことを言っている歌があって。今回の曲の始まりに持ってくるにはめっちゃいいのかなって思って」
CHICO CARLITO

CHICO CARLITO

© Red Bull

CHICO CARLITO「沖縄の音楽はやっぱり独特で伝統的だし、沖縄にとって音楽は文化のうちのひとつかな。沖縄は僕にとっては生まれ育った場所でもあるし帰る場所でもあるし、そこで死にたいなという場所でもある。
俺は本当に沖縄への愛があるんで、っていうかありすぎる可能性があるんで、俯瞰的な見方を沖縄に対してするべきかなとは思いつつ、でももっといろんなことを良くできるだろうし、僕たち世代でさらに沖縄の音楽シーンを盛り上げられると思ってる」
 
OZworld「RASENって(4人のラッパーが)集まって、いい循環で回り始めたら、ヘリコプターと一緒で螺旋上昇するっていう、その意味合いで考えても、沖縄から4人が螺旋回転して北海道まで全部を巻き込んでいくことで、この時代において何かの火付けになるのかなって思う」
Awich

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© Tasuku Amada

集大成となるワンマンライブ、次に見据えるのは“世界”

そして満を持して11月、Kアリーナ横浜で開催されたAwichのワンマンでは、4人が再びステージに揃い、「RASEN in OKINAWA」がライブで披露された。
直後のインタビューではAwichはまだ興奮冷めやらぬ様子。
 
Awich「一瞬のことすぎてまだ終わった実感がなくて。家に帰ってタグ付けされてる動画とか見たり、みんなの感想をきいたりして、(このライブは)本当にあったんだなっていう実感が湧くんだと思う。
(前回のライブは)『QUEENDOM』っていうコンセプトがあって、いわば女王の座に即位して“国をつくった”んですよ。でも実はその国はひとつじゃないというか、みんなにとってそれぞれの素晴らしい国があって、それをひとつにしていくっていう——みんなが分かり合えて、みんなが助け合える、連帯できる、それが(今回のコンセプト)『UNION』だったんです」
 
そしてこの激動の1年を振り返って続ける。
 
Awich「去年の終わり頃にハブ酒も出したし、今年はテレビにもいっぱい出たし、生活も変わりましたね。激動って感じの1年を駆け抜けた。めっちゃくちゃ忙しかったし、泣いたことも何回もある。アルバムを作るのもめっちゃきつかった。ツアーとかフェスとか取材とかもやりながらアルバムもつくる、みたいなことがつらかった時期もあるけど……でも動けば回るっていうことをめっちゃ実感しましたね。だから弱音とか吐かずに淡々とやることの大事さをすごく感じましたね。
来年は海外アーティストとのコラボレーションとか、海外でのライブを計画していて、数年前から貯めている作品もたくさんあるので、それをいよいよ出していくっていう年になる。本当にたのしみです」
 
螺旋を描いて上空へ羽ばたいた“クイーン”の視座は高く、いま“世界”を俯瞰し始めている。