チームを率いて5シーズン目を迎えていた2009年4月、オラクル・レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナーは上海からヨーロッパへ戻る長い旅路の間、ひとり考えに耽っていた。上海で開催された中国GPをセバスチャン・ベッテルが制したことで、レッドブル・レーシングはチーム初勝利を手にしたばかりだった。
「初勝利を得たあと、ヨーロッパへ戻る機内で “この先何も手にできないとしても、とにかく1勝は手に入れた” と思ったことをよく覚えている。そして当たり前の話だが、1勝すればもっと勝ちたくなる」
そしてその “もっと” は比較的すぐに手に入ることになる。
私たちの前に何が待っているのかを予想できていた人はいなかった
2023シーズンのカナダGPでのマックス・フェルスタッペン優勝は、19シーズン前のオーストラリアGPでデビューしたチームにとって記念すべき通算100勝目だった。
このGPで2023シーズン開幕8連勝を決めていたオラクル・レッドブル・レーシングにとって、通算100勝は彼らのお祝いムードをさらに高めるものになったが、ホーナーにとってこのマイルストーンは過去を振り返る良いきっかけになった。
「最初から素晴らしい旅が続いている。2009シーズンの中国GPを制したとき、私たちの前に何が待っているのかを予想できていた人はいなかった。あの1勝からさらに99勝を加えて、今こうして通算100勝を記録できたことは本当に素晴らしい」
レッドブル・レーシングの功績は素晴らしいだけではない。ホーナーの言葉を借りれば歴史的でもある。フェルスタッペンがモントリオールの表彰台の最上段に立ったとき、チームはF1史上5番目の100勝チームとなった。
100勝以上を記録している他のチームはフェラーリ(242勝)、マクラーレン(183勝)、メルセデス(125勝)、ウィリアムズ(114勝)で、つまり、この錚々たる “名門クラブ” にレッドブル・レーシングは入ったことになる(勝率:27%)。
※:2022年7月4日現在、チームは続くオーストリアGPも制したことで通算勝利数を101に伸ばしている。
01
優勝回数
F1で名を残すなら、F1史に残るグランプリで結果を出す必要がある。グランプリの内訳を表にまとめてみた(オーストリアGP終了時・合計101勝)
優勝回数
グランプリ
7
モナコGP
6
アブダビGP
5
スペインGP / ブラジルGP / マレーシアGP / 日本GP / ベルギーGP
4
メキシコGP / イギリスGP / カナダGP / アゼルバイジャンGP / シンガポールGP / オーストリアGP
3
米国GP(オースティン)/ イタリアGP / ドイツGP / 韓国GP / バーレーンGP / ハンガリーGP / インドGP
2
中国GP / オーストラリアGP / ヨーロッパGP(バレンシア)/ オランダGP / エミリア・ロマーニャGP / サウジアラビアGP / マイアミGP / フランスGP
1
トルコGP / シュタイアーマルクGP
02
セナと並んだマックス
フェルスタッペンのカナダGP優勝は本人にとっても記念すべき1勝になった。通算勝利数を41に伸ばした彼は、ワールドチャンピオン3回を誇る故アイルトン・セナと通算勝利数で並んだのだ(5位タイ。その後オーストリアGP優勝で42勝単独5位。4位は51勝のアラン・プロスト)。
2016シーズンのスペインGPでレッドブル・レーシングからのデビュー戦勝利を飾って以来、チームの歴史の中心に位置してきたマックスは、次のように感想を語っている。
ここまで多くの勝利を挙げることができて本当に嬉しいですが、もちろん、ここで止まりたくはありません
「子供の頃からF1まで歩んできましたが、人生何が起きるか分かりません。ここまで多くの勝利を挙げることができて本当に嬉しいですが、もちろん、ここで止まりたくはありません。41勝は悪くない数字ですね!」
「デビュー戦で初勝利を挙げたときは最高でしたね。僕を含めた誰もが少し驚いたと思います。2021シーズンにチームと一緒に成し遂げた最初のタイトルはとてもエモーショナルでしたし、今シーズンも順調に仕事ができています。このチームでの活動は本当に楽しいですね」
03
レジェンドたちの記憶
フェルスタッペンとチームメイトのペレスによる近年のワンツーパンチの威力は、F1ファンにレッドブル・レーシングの黎明期を思い起こさせる。
ベッテルとウェバーのコンビによりチームは最初の47勝を記録し、ベッテルは2010シーズンから2013シーズンまで4シーズン連続でワールドチャンピオンを獲得した。
とてもエキサイティングでしたし、良い思い出です
ベッテルは「中国GPの初勝利は今でも覚えています。トロフィーを掲げたときに指を切りましたからね(笑)! とてもエキサイティングでしたし、良い思い出です。チームは今後も勝利を重ねていくでしょう。彼らの活躍を嬉しく思っています」とコメントを寄せている。
また、ウェバーは100(101)勝に続く道のりの前半を担えたことを光栄に感じている。
通算100勝はどれだけ楽観的に考えてもかなり難しいチャレンジです
「最初の数勝はチームにとって非常に特別なものでした。個人的にも大切な思い出です」とウェバーは振り返る。
「F1は非常にレベルが高いですし、ここまで素晴らしい記録を達成までの苦労は想像を絶します。ですので、通算100勝はどれだけ楽観的に考えてもかなり難しいチャレンジです」
10シーズンに渡って3チームでライバルドライバーを務めたあと、2021シーズンから加わったペレスは市街地コースのマスターであることを証明してきた。レッドブル・レーシングでの5勝はすべて市街地コースで記録されたもので、その中のひとつが本人の印象に特に強く残っている。
チームがこの短期間で成し遂げたことについては凄いとしか言いようがありません。一緒に仕事をすると成し遂げられた理由が理解できます
「2022シーズンのモナコGP優勝は僕にとって特別ですね。また、マックスとのワンツーも幾度となく記録できていますし、良い時間を過ごせています」
「この素晴らしいチームの一員になれたことに満足していますし、誇りに思っています。チームがこの短期間で成し遂げたことについては凄いとしか言いようがありません。一緒に仕事をすると成し遂げられた理由が理解できます」
04
100勝までの道のり
2009シーズンの中国GPでレッドブル・レーシングがF1初勝利を挙げるまでは75GPかかったが、2005シーズンのオーストラリアGPでデビューしてから365GPを経てチームは大きなマイルストーンを通過した。大記録は突然樹立されることが少なくないが、今回のようにゆっくり樹立されるときもある。
勝利数
最初
最後
レース数
1-10
中国GP 2009
ヨーロッパGP 2010
23
10-20
ヨーロッパGP 2010
モナコGP 2011
16
20-30
モナコGP 2011
イギリスGP 2012
22
30-40
イギリスGP 2012
イタリアGP 2013
23
40-50
イタリアGP 2013
ベルギーGP 2014
19
50-60
ベルギーGP 2014
オーストリアGP 2019
97
60-70
オーストリアGP 2019
オーストリアGP 2021
38
70-80
オーストリアGP 2021
モナコGP 2022
20
80-90
モナコGP 2022
アメリカGP 2022
12
90-100
アメリカGP 2022
カナダGP 2023
11
上の表が示す通り、100勝目までの道のりは平坦ではなかった。サードドライバー兼リザーブドライバーとして2023シーズンからチームへ再加入したリカルドは、それゆえにすべての勝利が重要と認識している。
通算100勝に辿り着くまでは大変な努力が必要です。当然の勝利はひとつもありません
メルセデスが圧政を敷いていた時代にリカルドはチームに7勝を持ち帰った。低迷期に勝利を得ることの大変さを認識していれば、勝利の瞬間の喜びはさらに大きくなる。
「通算100勝は大記録に思えますし、実際にそうなのですが、そこに辿り着くまでは大変な努力が必要です。当然の勝利はひとつもありません」
「勝利の称賛については、チームにとってレースは仕事ですが、勝利の瞬間ひとつひとつをそのときにしっかり喜んでおくべきだと思います。なぜなら、いつまで続くか分からないからです。ですので、今のチームが1勝ずつしっかりと楽しんでいるのは良いことだと思います」
ホーナーはリカルドの考えに100%同意している。
「私たちは2010シーズンから2013シーズンまで連勝街道を走ったあと厳しい時代を迎えたが、自分たちの目標と目的を見失ったことはなかった」
「100勝はチーム全員が誇りに思うべきものだ。なぜなら、勝利はトラックサイドだけで得られるものではないからだ。素晴らしいマシン群とデータを用意してきた舞台裏も貢献している」
05
写真で振り返るベスト10
オラクル・レッドブル・レーシングの通算100勝までの道のりの中からベストモーメントを選り抜くのは自分の子供たちに順位をつけるのと同じくらい不可能だが、なんとかベスト10を選り抜いてみた。
▶︎RedBull.comでは世界から発信される記事を毎週更新中! トップページをスクロールしてチェック!