※本稿は2019年2月にインタビュー&執筆されたものです
「フィギュアスケーター・紀平梨花、16歳」
ジュニアデビューのシーズンでいきなり6種類の3回転ジャンプを決め、昨シーズンは連続3回転ジャンプ(トリプルアクセル+3回転トウループ)を成功、そして今シーズンのグランプリファイナル優勝と、群雄割拠のフィギュアスケートシーンでひと際輝きを放つ。さらに、その美しいスケーティングは見るものを瞬く間に魅了する。
そんな次世代の若き女王に、突撃インタビューを敢行!!
というわけで、さっそく練習の合間を縫って控え室の扉をたたいてみる。
――よろしくお願いします! いきなりですが、女子世界史上初の8トリプルを成功させた紀平さんにちなんで、プライベートな内容を織り交ぜた8枚の質問カードを用意しました。ここから紀平さん得意の連続3回転(計6回転)ジャンプのように、華麗に6枚のカードを選んでください!
紀平 えー! い、いきなり?(汗) なにをなんて答えればいいんだろう。じゃあ、このカードから!
――さすがトップアスリート。引きが強いですね。取材陣が訊きたかったことを取っている。ではこのカードからいってみましょう!
01
【Question 1】 ルールがないとしたら、どんな衣装を着て滑りたいですか?(コスプレ可)
紀平 コスプレ(笑)。うーん。悩んじゃうけど、やっぱり衣装が重くなっちゃうとうまく飛べないから、着ぐるみとかコスプレはナシですね。
――どんな遊びであってもそれが氷上である以上、絶対にパフォーマンスを犠牲にしたくない、というわけですか。さすがのプロ根性ですね。
紀平 そうなのかなぁ? でも、競技では絶対選べないような衣装にだって興味はあります。例えば美しさを表現するアイスショーやエキシビジョンであれば、ロングスカートとか着て滑ってみたいです。
――へぇ、競技ばかりじゃなくてアイスショーなんかにも意欲的なんですね。
紀平 むしろ、大会が終わって緊張がほぐれたときのアイスショーが楽しみで仕方ないんです。シーズン中にできないようなパフォーマンスをシーズンオフでやる感じかな。それが自分の中の引き出しを増やしてくれて、競技の組み立てに役立つこともあります。
――日頃の練習だって決して氷上だけじゃない。バレエをはじめ、ヒップホップやジャズヒップホップなんかにも取り組んでいらっしゃる。そんな紀平さんならではの前向きな姿勢を垣間見ました(コスプレ論で盛り上がるつもりだったのに……どうやら、まだ筆者の修行が足りないようです)。
結論:ロングスカートをまとって華麗に踊る姿をぜひみてみたい
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02
【Question 2】 20歳までに、または将来、成し遂げたい人生の目標は?
紀平 ……(しばし沈黙)。
――いや、リゾート地のどこそこへ行ってみたいとか、クルマの免許を取ってドライブしたいとか、オシャレな家が欲しいとか、海外で結婚式したいとか、そういうフツウの16歳としての夢や目標あるのかなぁ、と。
紀平 うーん……。
――(むしろ、取材陣が沈黙。その重苦しい雰囲気を汲み取って、逆に紀平さんが発言してくれる)。
紀平 ス、スケートのことでもいいですか?
――やっぱり、頭の中、スケートだらけ(笑)。
紀平 20歳までにって想定したら、やっぱり今はフィギュアスケートのことしか考えられません。50歳までの目標となったら、また違うと思うけれど、今はまだわからない。とにかく今は世界の頂点を目指す。ただ、それだけです。
――アスリートとしては最高にクールな回答ですね(フィギュアスケート以外の未来を尋ねたこの質問が愚問でした、心底反省します)。
結論:やっぱり今は、世界の頂点を目指す
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03
【Question 3】 プライベートで、自分の直したいところは?
紀平 ……(またしても、しばし沈黙)。
――えっ、なんにもない? 朝が弱いとか、実は遅刻常習犯だとか、部屋を片付けられないとか、あるいは姉妹喧嘩が絶えないとか。あっいや別に、ゴシップ記事を書くわけじゃないですから。
紀平 なんだろうなあ……。家族とも仲いいし。
――いや、でもなにかしらあるでしょ。決して欠点があって欲しいわけじゃないんですけど……。
紀平 ……(さらに沈黙)。
――じゃあ、この質問、なかったことにしますか?
紀平 それはダメです、ゼッタイ! それに……私、完璧な人間じゃないし。
――さすがルールに従った競技で世界一を目指す人間は、些細なことでも「なかったことにする」ことが許せないんですね。16歳とはいえ、プロ勝負師の真骨頂を見た気がしました。
紀平 いや、そういうのとは……。強いて言えば、うまく休むというか、夜に眠るのがヘタなんです。「翌日がハードなスケジュールだから、今夜は早く寝ないと足がダルくなっちゃう」ってわかっていても……。わかっているからこそ焦っちゃって逆に目が冴えちゃったりして。いつでもどこでも眠れる人が羨ましい。
――いつでもどこでも仕事を忘れて眠っちゃう筆者にとっては、むしろ見習うべき姿勢です。
結論:一流アスリートの心構えに圧倒されっぱなし
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04
【Question 4】 最近、超激怒したことは?(超うれしかったことでも可)
紀平 もちろん、大会の結果とかじゃないほうがいいんですよね?
――はい。さすが企画の意図を分かっていらっしゃる。できましたらプライベートなネタ、欲しいです。
紀平 激怒はないなぁ。うれしかったことなら……、お正月に親戚の家に行ったら、赤ちゃんと子犬が一緒にいて可愛かったとか、そんな小さなことしかないかも。
――あらゆることに感動できる、その感性がステキです。で、他には?
紀平 え、まだ? うーん……なにかあるかな。あ、「今年の期待びな(※)」に選んで頂けたのはとてもうれしかったです!
(※)期待びな:人形専門店の久月が発表する、その年に期待される話題の人物をモデルに制作する雛人形。2019年は皇太子ご夫妻に加え、将棋の藤井聡太七段と紀平梨花選手をモチーフにしたひな人形が東京 浅草橋の久月本社にて展示公開された。
――それは、素晴らしい。平成の終わりに、シニア1年目にしてグランプリファイナルを制覇した紀平さんの功績によるものだと思います。雛人形には魔除けという意味合いと、嫌なものを吸い取るという意味合いがあります。そこから「いい世の中にして欲しい」という期待が込められています。紀平さん、責任重大ですね。新しい時代を4回転ジャンプで盛り上げてください!
紀平 まだ本番では飛ばないと思いますけどね(笑)。でも、来シーズンまでに披露できるよう練習しています!
結論:「平成最後の期待びな」の今後に期待!
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05
【Question 5】 遠征に必ず持っていくモノは?(競技に関するモノ以外で)
紀平 お気に入りのノンオイル・ドレッシング!
――おおぉ。待望の即答! サラダ用ですね。
紀平 海外で食べるサラダはとても美味しいんだけど、オリーブオイルと塩胡椒だけの味付けだったり、あとアメリカのシーザーサラダなんてめちゃくちゃ味が濃い! 日本で売っているお気に入りのノンオイル・ドレッシングがあったらいいなぁって思って。それから海外に行くときは必ず持参するようにしています。
――海外のサラダはやたら大きかったり、ヘルシーだと思って頼んでもオイルでギトギトだったりしますからね。
紀平 でもストイックな感じで食事制限はしていません。カロリーの摂りすぎはいけないけれど、少なすぎても動きが鈍くなるし、身体が作れないですから。
――無性にチョコとかポテチとか、食べたくなるときだってあるでしょ?
紀平 それは……ない、ですね。チョコは好きだけど、まぁ適量で(笑)。
――あ、はい。スミマセン。
紀平 もちろんレッドブルは練習前に必ず飲みますよ。心も身体もコンディションがあがりますから。
結論:旅のお供はマイドレッシングとレッドブル・エナジードリンク
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06
【Question 6】 初めて買ったCDはなんですか?
紀平 CDなんて知らないと思っていますね?(笑) でも、ちゃんと買ったことありますよ。もちろん、スケートに使う曲とかじゃないプライベートで。
――よかった、このダウンロード全盛時代、お気に入りのアーティストのCDを購入する行為なんて、もはや絶滅したのかと心配しておりました。
紀平 KARAの「ウインターマジック」だったかな。たぶん4年くらい前。
――10代の女子として、普通にエンターテイメントの世界が好きなんですね。
紀平 もちろん。音楽は好きだし、普通にドラマや映画とかも観て楽しんでますよ。でも、最近は時間があんまりなくて映画は観られていないですけど、「君の膵臓をたべたい(2017年公開)」は観ました。主演の浜辺美波さんは好きな女優さんのひとりです。私もいつか映画みたいな、物語っぽい曲と踊りで滑ってみたいと思うんです。今まで「カッコイイ」とか「キレイ」な感じが多かったから。
――やっぱり。あらゆる質問がフィギュアスケートの世界へと帰着してしまう。でも、それが紀平さんらしさなんだと再確認しました。ホント、くだらない質問にお付き合い頂きありがとうございました。
結論:フィギュアスケートを愛してやまない
「ありがとうございました!」、かじかんだ手を温めながら極めて誠実に対応してくれた紀平さんを前に、あらためて思う。「プロなんだけど、10代っぽいあどけなさ」みたいなものを拾おうと思って挑んだ今回の企画、彼女のほうが一枚も二枚も上手で、もはや完敗です。
訊き出し方が下手なのを承知のうえで言うならば、彼女はちゃんとプロだった。練習の合間に見せる表情や笑い声はとても無邪気だったけれど、真剣な眼差しで質問を投げかけたときや、スケートシューズの紐を締めた後は、もはや年齢を超越したプロフェッショナルの顔がそこにあった。
それは世界を制する力を充分に持っているような、氷上の女王の顔だった。
紀平梨花(Rika Kihira)
2002年7月21日生まれ。兵庫県出身。3歳でアイススケートと出会い、5歳からスケート教室に通う。バレエ、体操、ピアノなど多芸ながら、のめり込んだのはフィギュアスケーターの道。17年全日本ジュニア選手権での優勝を皮切りに、シニアへ移行した全日本選手権でも華々しい成績を残し、18年のグランプリファイナルで優勝。さらに先の四大陸フィギュアスケート選手権2019でも優勝を果たす。持ち前の女子選手初の6種類8本の3回転ジャンプや、トリプルアクセル+3回転トウループなどを成功させ、今後は4回転ジャンプの体得にも注目。なお、19年4月開催の世界フィギュアスケート国別対抗戦2019では、女子ショートプログラム世界最高記録となる「83.97点」をマークし、フィギュアスケート界に衝撃を与えている。
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