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4年の時を経てリリースされる『RiME』

遂にリリースされるゲームファン待望のインディーパズルアドベンチャーについて開発側に話を聞いた。
Written by Jon Partridge
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リリースが間近に迫った『RiME』

リリースが間近に迫った『RiME』

© Tequila Works

長い時間がかかったが、遂に『RiME』(元『Echoes of Siren』)がリリースされる。そして、その内容は「待たされた甲斐があった」と感じられるものだ。
世間から大きな注目を集めているインディータイトル『RiME』は、2013年のGamescomでSony独占タイトルとして発表されたが、それ以前は、Microsoft独占タイトルとして開発されていた。しかし、現在はデベロッパーのTequila Worksが権利を買い戻しており、その結果、PS4、Xbox One、PC、そしてNintendo Switchでもリリースされることが決定している。
35人強のメンバーで構成されるこのスペインのスタジオは長年に渡りこのゲームの開発に取り組んできた。この3Dパズルアドベンチャーはルックスこそ『ゼルダの伝説 風のタクト』や『人喰いの大鷲トリコ』に似ているが、それ以上の特徴が備わっている。むしろ、『RiME』が何からインスピレーションを得たのかを知るためには、時代を大きく遡りつつ、ゲームではないメディアにも目を向けなければならない。
クリエイティブディレクターのRaúl Rubioは『RiME』が受けた影響について、次のように説明している。「『RiME』のヴィジュアルは20世紀のスペイン人画家で、 “光の画家” と呼ばれたホアキン・ソローリャから大きな影響を受けています。彼の作品の多くは、風、波、そして光の再現を試みているものですが、彼は、衣服に反射する光などを描くなど、光を利用して全体のクオリティを高めています」
ソローリャの色鮮やかで明るい作風は『RiME』の明るいデザインにそのまま持ち込まれている。このゲームのオープンワールドは美しく青い空と白く輝く建物に溢れている。また、昼から夜へと時間が変わってもその美しさは保たれており、ダイナミックでゴージャスな光が、プレイヤーが操作する名前のない少年が進むべき道やヒントを示してくれる。
また、『RiME』は同じく20世紀に活躍したイタリア人画家、ジョルジョ・デ・キリコからも影響を受けているが、『RiME』だけが、円柱や塔、そして光と影の力強いコントラストが特徴のキリコの作品群から影響を受けているゲームではない。上田文人の作品の多く、特に『ICO』も、キリコから多大な影響を受けている。
驚くべきことに、Rubioは任天堂がトゥーンレンダリングを用いて開発した『ゼルダの伝説 風のタクト』や、上田文人の作品群からは一切影響を受けていないとしており、影響を受けたゲームとしては『Dark Souls』シリーズ、『ジャック x ダクスター2』、そしてインディーヒットタイトル『風ノ旅ビト』などの名前を挙げている。『RiME』のトレーラーのひとつに登場する赤いマントのミステリアスな人物は、間違いなく『風ノ旅ビト』へのオマージュだ。
「僕たちはプレイヤーに子供の感覚を味わってもらいたいと思っています。子供は向こう見ずで恐れ知らずで、何でもどんどん試します。このゲームも、失敗しても何の責任を負うこともありませんし、リスタートしてプレイを続ければ良いだけです。『ジャック x ダクスター2』はこの部分の表現が非常に優れていました。『ゼルダの伝説 風のタクト』からはそこまで影響を受けていませんが、良く比較されますね。驚くかも知れませんが、プラットフォーマーの面では、『ジャック x ダクスター2』から大きな影響を受けているんです。この作品はアニメーションが素晴らしいですし、非常に親しみやすいプラットフォーマーながら、チャレンジングでもあります」
『RiME』は戦闘よりも探索とパズルに重点が置かれているゲームで、実際、主人公の少年は、走る・ジャンプ・転がる・叫ぶしかできない。この「叫ぶ」はパズルを解くのに使用されるアクションで、少年が叫べば、ドアが開いたり、ステージの時間制限パズルが起動したりするのだが、叫ぶと何が起動するのかはプレイヤーが見つけ出さなければならない部分だ。
砂漠地帯の攻略は簡単にはいかない

砂漠地帯の攻略は簡単にはいかない

© Tequila Works

「『戦闘が一切存在しないゲームなのにどうして?』と思うかも知れませんが、僕たちは『Dark Souls』シリーズからも大きな影響を受けています。このシリーズのステージデザインは非常に知的です。オープンワールドにいるような感覚を得られますが、同時にサンドボックス型の世界にいる感覚も得られるんです。というのも、このシリーズはハブとなる部分が存在し、ステージ同士が繋がっているんですね。その結果、プレイヤーは大きな世界の中にいるように感じられるんです。僕たちは『Demon’s Souls』と『Dark Souls』シリーズを参考にして、『RiME』でも同じような感覚が得られるように努力しました。ですので、たとえば、ステージ1の島とステージ2の島はかなり離れているように見えますが、実際は、視界に入る場所はすべて訪れることができるんです」
そして、Rubioは『Dark Souls』シリーズと同じく、『RiME』にもプレイヤーに感情を植え付けたいと考えている。フロム・ソフトウェアのこの偉大なシリーズでは、戦闘で疲弊し、勝ち目のない強敵から敗走するプレイヤーに絶望や恐怖を与えていく。
『RiME』を短時間テストプレイした我々は、猛禽類があるパズルアイテム(時間を進めるために使用する巨大な黄金のドーム)を保持しているという設定のステージ2に進んだが、そのアイテムを取り戻すべく探索を続けていくと、その鳥の縄張りに進入することになる。
しかし、縄張りに入ると、その鳥に捕まり、付近のチェックポイントに戻されてしまうのだ。次のパズルを解くアイテムの場所を突き止め、物陰に隠れながら前進し、邪魔者は誰もいないと思った瞬間に空から鳥が現れて、スタート地点に戻されてしまうのは非常に腹立たしいものだが、戦略を練り直しながら何度も繰り返せば、もちろんクリアできる。
高所恐怖症でなくても、誰もここには登らないだろう

高所恐怖症でなくても、誰もここには登らないだろう

© Tequila Works

Rubioが説明する。「ステージ2のこのセクションでは、プレイヤーに感情を与えたいと思っているんです。島ごとに個性があるんです。この鳥は、喩えるなら、ホウキで床下をドンドン突き上げて文句を言ってくる階下の住人、またはサッカーボールを庭先に放り込んでしまうと誰も取りに行きたがらない近所のオジサンのような存在です」
「ステージ2のこの部分は、友人と遊んでいて、他人の庭先に飛んでいってしまったボールを取り戻しに行く − そんな感じのゲームプレイですね。島全体の探索は少年が成長するための通過儀礼のような位置づけです。プレイヤーは島内を探索しながら、世界とそのルール、そして自分はその中でどんな行動が可能なのかを学び、世界の一部となっていきます」
『RiME』には『Dark Souls』シリーズのような無慈悲な戦闘は存在しないが、それでもかなりの労力が求められる。このゲーム内にはいわゆる「次の行動を示すヒント」がほとんど存在しないため、パズルを解く方法をほぼひとりで導き出さなければならない。ミステリアスな島に座礁し、遠くにそびえる塔しか目印がなく、主人公の名前も分からないという設定と同様、プレイヤーの旅にもほとんど手がかりがないのだ。
そして、自分の知力と世界に散らばるちょっとした手がかりだけを頼りに進んでいくプレイヤーの前に立ちはだかるのが、物理的なアクションで解決しなければならないパズルだ。その中には、叫んでたいまつに火が付けばOKというシンプルなものもあるが、ゲームを進めていくに従って難度が上がり、プレイヤーの意志をくじくようになっていくので、パズルを解くためにはそれまでに得た知識を全て活用していく必要がある。しかし、パズルを解けば、『Monument Valley』や『The Witness』のようなトリッキーなパズルを解いたときにだけ得られるような大きな満足感が待っている。しかし、Rubioは、自分たちが開発したパズルの中には、本編に収録できなかったものもあるとしている。
自由気ままに海の中を泳いで進む

自由気ままに海の中を泳いで進む

© Tequila Works

Rubioが説明する。「僕たちは500種類以上のパズルを用意したので、収録できないものも数多くありました。どのパズルもチャレンジングでクールでしたが、楽しんでくれるプレイヤーがいた一方で、ゲームプレイのペースが乱れるという理由から、苛つきを感じているプレイヤーもいました。人によっては『45分間も同じ空間にいるのにまだ解けない。誰かが賢さを自慢したいがだけに組み込んだこの超難解パズルのせいだ!』と感じていたんですね。ですので、バランスを取るのは非常に難しい作業ですが、現時点ではその部分は上手く調整できています」
スクリーン上には、物を掴んだり、叫んでたいまつに火を付けたりする指示が小さく表示される以外ほとんど何も表示されないので、プレイヤーはどういうアクションでパズルを解けば良いのかをほぼ自力で見つけ出す必要があるが、“詰み” そうになると、オレンジ色の小ギツネが登場し、進むべき方向を示してくれる。このような非常に自然なアシストは、このゲームを他のメインストリームタイトルから大きく引き離した存在にしている特徴のひとつだが、このような作業をいとも簡単にやっているように見えるTequila Worksには、このゲームの発表直後から常に大きなプレッシャーがかかっていた。
Rubioが説明する。「開発を始めて半年後に、自分たちに何ができるのかを示すトレーラーを発表しましたが、観た人たちから『確かに美しいけど、ゲームはいつ完成するんだい?』と言われてビックリしました。そのトレーラーは僕たちが考える “ゲーム” だったからです」
「僕たちはそのトレーラーの中で、リアルタイムのゲームプレイを披露しました。自分たちに何ができるのか、つまり、動き回り、ジャンプをする少年や、AIがコントロールする動物などを披露したんです」
「そのトレーラーはある程度の好感触を得られたのでひと安心でしたが、観た人たちの多くは『ゼルダの伝説 風のタクト』や『ワンダと巨像』などと比較していました。ですので、僕たちは自分たちが伝えたいメッセージを強める必要がありました。世間と僕たちの間に食い違いが生じていたからです。このゲームは島内を探索することが目的のゲームなんです! そこで、それから1年後に発表した2本目のトレーラーには、より多くのゲームプレイや、その間に開発した新機能を盛り込みました。ですが、世間の反応は同じでした。『クールだけど、どこが “ゲーム” なんだ?』と言われましたよ」
当然、Tequila Studiosはこの評価に苛立ちを感じることになり、他のゲームとの比較は、この小さなスタジオに不安を生じさせた。『人喰いの大鷲トリコ』のような作品と比較されるのは複雑だったとするRubioは、次のように振り返っている。「(比較は)褒められていると捉えることもできますが、恐怖も感じました。ビッグタイトルと比較されても、僕たちは小さなインディーデベロッパーですからね」
発売間近のRiME

発売間近のRiME

© Tequila Works

しかし、面白いことに、Rubioと開発チームには、その比較を逆に利用して世間の期待通り、つまり “クローン” として『RiME』を開発したらどうなるのかをテストした時期もあった。Rubioが振り返る。「世間は『ゼルダの伝説』シリーズのようなゲームになることを求めていたので、主人公に盾、槍、兜を与えた時もありました。もちろん、そうしたことで『ゼルダの伝説』シリーズのようになりましたが、それは僕たちが望んでいたゲームではありませんでしたし、この作風を披露したら披露したで、 “クローン” を求めていた人たちは、“思った通り『風のタクト』の真似だ” と揶揄していたはずです」
「結局のところ、自分たちのビジョンに正直にいることが大事なんです。僕たちで言えば、少年、塔、島だけのゲームです」
幸運なことに、彼らはインディーデベロッパーであるため、ゲームの内容について外から指示を出されることはない。Tequila Worksは自分たちの信念に基づいて開発しており、IPも買い戻した今は、自分たちが本当に望むゲームの開発に専念できている。Rubioは、Tequila WorksがIPを買い戻した当時は世間から批判されたのでやや心配だったが、結果的に自分たちを重圧から解放することになったと振り返っている。
Rubioは「自由度が増したことで、自分たちが本当に望むゲームが開発できるようになりました」と振り返っているが、このIPの買い戻しによって、ファンは移動中もこのゲームが楽しめるようになった。そう、Nintendo Switch版もリリースされるのだ。
Rubioが続ける。「任天堂が僕たちを信頼してくれていることにとにかく感謝しています。Nintendo Switchへの移植はオーストラリアのデベロッパー、Tantalusが担当していますが、ゲームエクスペリエンスとコンテンツは他の機種と同じです。ただし、Nintendo Switchの性能をどう活かすかについてはまだ模索中です。というのも、このゲーム機にはいくつかの素晴らしい機能がありますが、まだ全体のポテンシャルが明らかになっていないからです。ですが、このゲーム機に合わせて『RiME』の内容を変えることはありません」
「Tantalusには『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』のHD版を手がけた実績があるので、安心して移植を任せています。また、彼らとは随時連絡を取り合っているので、何か問題がある時は、僕たちが積極的にアシストしています」
『RiME』が歩んできた道は長く曲がりくねったものだったが、その先には光が見えている。2017年5月のリリースに向けて、Tequila Worksの開発作業は最終段階に入っている。もちろん、まだ微調整が必要な部分もあるが、Rubioと開発チームは、出荷直前の段階にこぎ着けたことに安堵している。
「開発チームは自分たちの仕事を誇りに思っています。こういう感覚を得られるのは希ですよ。現在は認証プロセスに進んでいて、各審査機構のレーティングを待っています。これがクリアできれば、ファンの皆さんにプレイしてもらえるまであと少しです。開発チームはスペシャルな作品を生み出せたと感じていますが、ここがインディーデベロッパーの良さだと思います。予算や規模は関係ありません。自分たちのクリエイティビティを誰にも邪魔されることなく保てること、これがインディーデベロッパーの強みです」