Rocco Prestia
© Rocco Prestia
ミュージック

独自の解釈で白人ファンクを追求! 伝説の《超個性派ベース》“ロッコ”プレスティア

ファンクミュージックにおけるベースの解釈の幅を、エポックメイキングな方法論で拡張させたベーシストがいる。彼はファンクでは定番のスラップテクニックを徹底して排除することで、“ハネない16分”での独特のグルーヴを生み出したーー
Written by 藤川 経雄
読み終わるまで:6分公開日:

ハネるのが当たり前? ファンクミュージックの定石を見事に打ち砕いた超個性的スタイルとは

ファンクミュージック創成期の60年代後期から70年代にかけて、ファンクベースを語る上で絶対に外せないプレーヤー達がシーンを席巻していた。
ラリー・グラハム、ブーツィー・コリンズ、ルイス・ジョンソン……。そんなゴリゴリの黒人ベースプレーヤー達がひしめく当時のシーンにあって彗星の如く登場した白人プレーヤーがいた。
その名をフランシス・プレスティア、通称 “ロッコ”。白人ブラスファンクの雄「タワー・オブ・パワー」の不動のベースプレーヤーだ。
このオトコ、ラリーのようにスラップを生み出したのでもなければ、ブーツィーのように派手なスタイルを押し出したのでもない、ベースプレーヤーとしてはごくごく地味(失礼!)に見えてしまうプレイスタイルなのだが、そんな彼がなぜ、ファンクベースの一つ のスタイルを生み出した、とまで言われるようになったのか。
その辺りを誠に身勝手ではあるが、独断と偏見を交えた考察とともに紐解いていきたい。
まず【フランシス “ロッコ” プレスティア】の奏でるベースサウンドを語る上で、まず言及しておかなければいけないのがこの点について。

その大きな特徴とは『ハネない?グルーヴ』

ラリー・グラハムが生み出した、スラップで裏拍を強調する=ハネるビートが一世を風靡していたあの時代……。
ホーンセクションが中心のタワー・オブ・パワー(以下T.O.P)のリズムセクションとしてバンド創設メンバーにも名を連ねていたロッコだが、
特に分厚いブラスサウンドの中にあって、むしろ裏拍の強調を担っていたのは中心メンバー、ドクター・クプカのバリトンサックスだったこともあり、あえて平坦なアクセントのベーススタイルを形成していったのではないか、と筆者は考える。
というわけでまずはそのロッコの独特なプレイスタイルを体験していただこう。
特に代表曲である2曲目の『What is hip』で顕著なのであるが、独特のポコポコとしたハーフミュートでひたすら16分を敷き詰めたライン
その中で上下左右に動きまくるフレーズ展開こそロッコの名刺がわりと言える代表的なスタイルだ。そう、これこそが当時誰もが参考にした有名なスタイルというわけ。
さらにこの動画では、ロッコとのリズムセクションコンビとしてはT.O.P史上最強ドラマーといわれたデイヴィット・ガリバルディが務めているのも見所。
ガリバルディもどちらかというとあまりコントラストを強調しない、乾いたサウンドで16分を敷き詰めるようなスタイルなのでロッコとの相性が抜群にハマっていたのはいわずもがな。ガリバルディ脱退後、なかなかドラマーが定着しなかったのも頷ける。
当時全盛だった黒人ファンクバンドの多くは、その黒人特有の大きなリズムでハネるグルーヴを特色としていたのに対し、T.O.Pがそのサウンド、グルーヴにおいて一線を画していたのは、このコンビの生み出す、正確無比に延々続くかのような16分の細かいグルーヴが大きな核となっていたからであるのは間違いない。
ちなみに筆者は、1993年の日本ツアー時に直接ご本人とお会いしたことがある。たまたま知り合いがメンバーと親しくしたのでバックステージに招き入れて頂いてご挨拶とサインを頂いたのだ。ご本人はとっても親しみやすく、そのプレイスタイルと同様にとっても丁寧に対応して頂いたのを憶えている。

ロッコのグルーヴをあの“マーカス・ミラー”が表現するとどうなる?

そんな “信頼できるオトコ” ロッコは、もちろんベースシーンに広く影響を残している。
なかでも意外に思えるのがあのスラップの伝道師、マーカス・ミラー。それほど年代は変わらない筈だが、同じプレイヤーとしてリスペクトしているのであろう。自身のライブでは前述の『What is hip』をカバーしている。
しかもあの敷き詰めるような16分音符を全てスラップで弾き切る、という考えただけで腕がつりそうな芸当をこなしているのだ。
ハネないグルーヴが持ち味のロッコが生み出したベースラインをあえてスラップで表現するという大胆さもさることながら、マーカス独自の解釈もしっかり盛り込まれていて大変興味深い演奏だ。ロッコのオリジナルと聴き比べてみて欲しい。

指弾きツーフィンガースタイルの一つの最高峰! だからこそ真似たくなるのだ

あくまで個人的な考えで言わせていただくと、決してメインストリームではないのだが、ファンクスタイルのベースを志すのであれば、誰もが必ず通らなければいけないのがロッコのベースプレイ。
筆者的には、指弾きツーフィンガーに特化したスタイルの一つの最高峰なのではないか、とさえ思っている。もちろんアマチュアへの影響力は今もって絶大なはず。と考え動画検索をかけてみると出るわ出るわ、カバー動画も膨大に存在する。
その中でも、なかなかにロッコのテイストの本質をしっかり捉えているのでは、というカバー動画をこの機会に是非紹介しておきたい。
実はこの『What is hip』という曲、淡々と16分が連なっていくラインを、このオリジナルテンポを維持しながら弾ききるだけでも大変難しい曲なのだ(筆者の経験上ね…)。初級者にとってはシンプルがゆえにハードルが高い曲なのは間違い無いが、上級者でもこういったスタイルを弾き慣れていないとちょっと苦労する人もいることだろう。
なにせ平坦なアクセントの中でグルーヴを生み出さなければいけないのは実に難しい作業でもあるからだ。
そんな中でもこの動画の主、アレッサンドラちゃんは笑顔でこの曲をしっかり弾き切り、モノにいている様子。独特のハーフミュートのサウンドをしっかり再現できているし、何よりあの淡々としたグルーヴをバッチリ表現し切っているのはお見事です!

実は新譜もリリース済み!“伝説”は現役バリバリ

と、いうわけでロッコの魅力の一端をかいつまんで紹介してみたわけだが、実はT.O.Pの新譜が今年(2018年)の6月にリリースされているなのである。つまりは四の五の言わずに聴け! ってこと。
筆者は先日の来日公演こそ残念ながら逃してしまったが、もちろんここ3ヶ月、へヴィーローテーションなのは言うに及ばず…。
この表題曲こそ、レイトバックしたソウルサウンドが、T.O.Pも枯れたのだなあ、なんて思わせるが、アルバムにはちゃんと往年の肉体的なファンクを彷彿とさせるナンバーももちろん収録されている。
…と、このままアルバムのことを書き連ねていくと到底終わらないので、この辺で締めさせていただこうか。とりあえず先日の来日公演、久方ぶりでなおかつあと何回来てくれるかもわからんのに行けなかった自分を末代まで呪うことにしよう。