ロスを苦しめる “ソルトマウス”
© Harvey Gibson/Red Bull Content Pool
フィットネス
英国一周に挑むスイマーが直面した6つの試練
口の中に炎症を抱えながらクラゲと戦う… 英国一周スイム挑戦中のアスリートが壮大なチャレンジの序盤で遭遇した過酷な試練とは?
Written by Tom Ward
読み終わるまで:6分Published on
重さ45kgの丸太を担いでカリブ海を泳いだ経験を持つアドベンチャー界のオールラウンダー、ロス・エドグレイ
彼は6月1日から英国全土の沿岸を泳いで一周するというスーパーミッションに取り組んでいる。
ロスは毎週ビデオブログを配信しており、彼の現在位置はマップで確認できる。 
申し訳ございません。この動画は現在視聴できません。
これまでのビデオブログはこちら>>
約2,000マイル約3,220km)と想定される全行程中、ロスはスタート3日目ですでに最初の100マイル(約160km)を完泳した。
この序盤のスイムは、ロスの肉体にどのような試練を課したのだろう? これまでのスイムで彼が直面した信じられないほど過酷な6つの試練をまとめ、それらに対してどのように対処したのかを説明していこう。

1. ソルトマウスの恐怖

@RossEdgley まさしく “ドッグファイト” さ! 今週は最初から最後までハードに泳ぎきった。詳しくは@redbullukのYouTubeチャンネルでビデオブログ第3回をチェックしてほしい。みんなの応援メッセージには感謝しているよ。応援が擦過傷やソルトマウス、肩の痛みを少し和らげてくれる。#GreatBritishSwim(2018年6月8日の投稿)
    
海を約160kmも泳げば、スイマーの身体にはあらゆる恐ろしい異変が起きる
ロスが第3回のビデオブログで語っている通り、塩分濃度の高い海水が常に口の中へ入ることによって、彼の口腔や喉は乾いてソルトマウスと呼ばれる炎症状態になる。よって、現在の彼は食べ物の咀嚼や嚥下はもちろん、会話さえ難しくなっている。
さらに悪いことに(食事中にこの記事を閲覧中の人には申し訳ないが)、彼の舌粘膜の表面は剥がれ落ち続けている。それでも彼はスイムを断念しようとはしない。

2. 過酷な擦過傷

ウェットスーツによって重度の擦過傷を生じた
ウェットスーツによって重度の擦過傷を生じた© Harvey Gibson
スイミング用のウェットスーツを着て泳いだあと、身体の至る所が痛んだ経験を持っている人は少なくないだろう。
ロスもスイムをスタートして1時間後、スーツが首と擦れてしまっているのに気がついた。
上の写真を見ても分かる通り、その擦過傷はぞっとするような見た目になっている。ロスと彼のサポートチームは彼の “ライノ・ネック”(サイの皮膚を連想させる炎症状態になることからこう呼ばれる)を和らげる取り組みを今も続けている。
彼はテープで患部を覆ってみたり(下写真参照)、患部に当たる部分をカットしたり、あるいはワセリンを塗布してみたりと様々な方法にトライしている。
しかし、彼は痛みが癒えるまでひたすらスイムを続けるしかない。彼はこの過酷さを「1日2回の各6時間、紙やすりで傷を擦り続けるようなもの」と例えている。
@RossEdgley #GreatBritishSwimの夜間スイムに備え、擦過傷を軽減するためのテープを首に貼っているところ。ライブアップデートについては、僕のInstagramストーリーをチェックしてほしい。https://www.instagram.com/rossedgley/(2018年6月7日の投稿)

3. 世界で最も混雑した航路

@RossEdgley ドーバー港@Port_of_Doverとワイト島の港湾管理者の皆さんに感謝の意を表します。あなたたちのサポートのおかげで、世界で最も混雑する航路と言われるこの海域を安全に通過できた。あなたたちは最高だ! あなたたちがいなければ#GreatBritishSwimは実現不可能だった。@VisitIOW(2018年6月12日の投稿)
海はどこまでも広く、思うがままにスイムできると考えてはいないだろうか? 実際は違う。チャレンジ開始から12日間、ロスはドーバーポーツマスなど世界で最も混雑した航路に対処する必要があった。
この危険な海域では、無数の大型ボートが約20ノット(約37km/h)の速さで行き交っているため、ロスはフェリータンカーを避けながらスイムしなければならなかった。
いわば、6車線の高速道路を歩いて横切るのと同じだ。

4. 海霧

濃霧が方向感覚を見失わせる
濃霧が方向感覚を見失わせる© Harvey Gibson
大半の人々にとって霧とは、ビーチで物思いにふけっている自分の視線の先にある水平線をぼやけさせるものに過ぎない。
しかし、ロスにとっての霧は、彼がスイムする方向の目標物の確認の邪魔をするものだ。上の写真を見ても分かる通り、顔の前にかざした手すらも見えないほどの濃い海霧では、正確なナビゲーションは困難になる。

5. 極寒

@RossEdgley と@RedBullUK#GreatBritishSwimの良い場面・悪い場面・みっともない場面など全てをひっくるめて伝えていくことは非常に重要だ。これが本物の寒さってやつさ。最新のライブアップデートについては僕のInstagramストーリーをチェックしてほしい。https://www.instagram.com/rossedgley/(2018年6月5日の投稿)
夏に近いこの時期でも、英国近海はロスの身体をがたがたと震わせる。
この時期の海水温は平均でも15℃から20℃程度で、ロスが1回のスイムで2,500kcalを消費していることを考えれば、これは極めて凍えるような冷たさとなる。
上の映像では、寒さで震える手で食事をするロスの姿が確認できる。
擦過傷のトラブルも防寒の妨げとなった。首にできた擦過傷を和らげるため、ロスは上半身裸のままスイムにトライしたのだ(とはいうものの、防寒用グリスはたっぷりと塗っている)。
海水は非常に冷たいため、彼はボートに戻った直後にエマージェンシーブラケットに包まり、低体温症の発症を防ぐための温かい食事を口にした。

6. ホホジロザメとの遭遇リスク

現在、ロスはコーンウォール沿岸に向けてスイムを続けている。
美しいビーチが点在するコーンウォールでのスイムはさぞかし爽快だろうと思いきや、今年5月にはランズ・エンドの沿岸で1名の漁師がニシネズミザメ(ホホジロザメの仲間)に襲われて入院した。
全長8フィート(約2.5m)を誇るこの海の捕食者の体重は約127kgもある。
さらにぞっとするエピソードを教えておこう。
2017年、サメの生態研究を専門とするグレアム・パレンは英国近海のホホジロザメの追跡調査を行ったあと、『The Mirror』の取材に対し次のように語っている。
「(英国近海のホホジロザメは)間違いなく大型だ。このサメが危険なのは、彼らがウェットスーツを着た人間に遭遇すると、アシカと間違えてしまうからなんだ」
ホホジロザメが生息する海域を通過するなら、ロスは彼らに遭遇しないよう祈るしかない。ただし、彼らを泳いで追い越すという選択肢はない。なぜなら、ホホジロザメは最高時速25km/hで泳ぐからだ。
幸いにも、このような事態を避けるために今回の挑戦には安全対策チームが同行している。
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