DiGiulian still found her way up the crystalized granite of the Mora Mora climbing route in Madagascar.
© Francois Lebeau
クライミング
サシャ・ディジウリアンがモラモラ攻略に成功!
米国人トップクライマーのサシャ・ディジウリアンが全高700mのマダガスカルのマルチピッチルート(5.14b / 8c)の登攀に成功し、この高難度クライミングルートを制した世界初の女性クライマーになった。
Written by Whitney Boland
読み終わるまで:5分Published on
2分サーシャ・ディジウリアン
マダガスカルの奥地に位置する全高700mのモンスターマルチピッチルート、モラモラ(Mora Mora)。その最難度クラックピッチ上にいたサシャ・ディジウリアンは、次のハンドホールド・シーケンスにしっかりと目を向けていた。
高密度だが角張っている花崗岩のルートだったため、ハンドホールドが可能なポイントは限られていた。よって、ディジウリアンは「殻付きピーナッツ」ほど小さなサイズの花崗岩の結晶に手を伸ばさなければならなかった。
DiGiulian is sharp after three nights on the wall© Francois Lebeau
サシャ・ディジウリアンはその時の様子を「ダンスするような感じです。足はレーザーのような精度で置く必要があります。小さな花崗岩の結晶を信じながら、息を整えてゆっくりと動き、狙った場所に体を持っていくんです」と振り返っている。
このような状況に置かれていたサシャ・ディジウリアンとスペイン人のパートナー、エドゥ・マリンだったが、2017年7月20日、巨大な壁で3日3晩を過ごしたあと、2人はモラモラをフリークライミングで制覇した。この過酷なルートの攻略は、その難度だけでも素晴らしい功績と言えるものだが、彼らが約20年の歴史を持つこのルートを制した史上2番目のクライマーだった事実を加えると、その功績は更に輝く(ルート設定直後に攻略したチェコ人クライマー、アダム・オンドラが史上初)。
全高700mのモラモラ© Francois Lebeau
挑戦を終えた2人は、モラモラが世界最難度マルチピッチ・フリークライミングルートの有力候補だということを改めて確認した。また、このルートを制覇した史上2人目のクライマーとして歴史に名を残したディジウリアンは、ここを攻略した初の女性クライマーとしても歴史に名を残すことになった。

ビッグルート

モラモラ(現地語で「ゆっくりゆっくり」の意味)は全高700m・12ピッチ・5.14b(8c)の高難度ルートで、東アフリカ・マダガスカルのツァラノロ山地(Tsaranoro Massif)の左側に位置している。モラモラが設定されている山は非常に美しく、黒とオレンジのストライプに黄色を散らしたような姿をしており、周辺の山々の中でひときわ目立っている。また、付近の村アンドナカは農業と畜産を中心にした生活を営んでおり、村人はクライマーを快く迎え入れている。
モラモラ攻略に成功した世界初の女性クライマーになった© Francois Lebeau
「ここの生活はとてもシンプルだけど、みんなとてもフレンドリーなんです」とディジウリアンは説明している。ツァラノロ山地はその僻地ぶりから、1990年代以降クライマーが目指す場所のひとつとして知られてきた。ヨセミテのハーフドームのような、クライマーで混み合っている同レベルの他のスポットとは違い、ここではまずクライマーに出会うことはない。
頭の中でサッカー場を縦に6個半積み上げてみよう。それがモラモラの高さだ。このようなビッグルートは気合いを入れて臨む必要があり、いつも以上のクライミング、ギア、時間、エナジーが求められる。アクセスが難しい僻地であることやルートのサイズなど、あらゆる要素がクライマーに更なる努力を強いる。
モラモラを攻略したサシャ・ディジウリアン© Francois Lebeau
ルートのテストランは大変だったと振り返るディジウリアンは「(クラックピッチの)全シーケンスを見出すまで数日かかりました。マダガスカルへ向かう飛行機でポータレッジがロストバゲージになってしまったので、毎日山に向かって90分ハイクして、1,400フィート(約427m)をユマーリングしたあとで8cに挑み、それからラペリングで地上に降りて、またハイクして村へ帰っていました」とコメントしている。
フリークライミングとしては世界2番目© Francois Lebeau
このようなテストランが、1回の挑戦で全ルートを攻略できるクラックピッチのシーケンスを見出すまで続いたのだ。

感情のコントロール

ディジウリアンは、過酷なマルチピッチクライミングは様々な感情を生み出したと振り返る。
「新しいビッグウォールプロジェクトに挑戦する時は、いつも最初の1週間はメンタルの調整に苦しむんです。落下、そして露出度の高さ(Exposure:落ちれば深刻な怪我を負う可能性がある急な壁面や斜面のことを指す)が怖いと思ってしまうんです。高所恐怖症ではないのですが、そのような恐怖心が徐々に自分のメンタルを蝕み、ひどく物怖じしてしまうんです」
休憩中にロープを整える© Francois Lebeau
落下や露出度への恐怖心に慣れて快適な状態でクライミングを始めるために、ディジウリアンは数時間、長い時は数日間も壁に留まることがある。
「ですが、クライミングを終える頃の自分は、ここに到着した頃の自分とは大きく異なっています。最初は簡単なピッチでさえも死に繋がると感じてしまい、トップロープでもしっかりグリップしていますが、最後は指先でぶら下がりながら、ボルトをスキップしながらクライミングしています」
ロープはフリークライマーを守る唯一のツール© Francois Lebeau
地上数百メートルの高さで自分の肉体の限界を試しながら、自分の感情を上手くコントロール(感情に飲み込まれないように注意しながら、感情を上手く吐き出していく)のは、クライマーが最も苦労する部分なのかもしれない。

素晴らしいパートナーシップ

ディジウリアンとマリンのコンビは世界を代表するマルチピッチルートを次々と攻略している。今回のモラモラの前も、2013年にイタリア・ドロミーティに位置するベラビスタ(Bellavista:5.14b)を攻略している他、2014年もイタリア・サルディニア島のビアヘ・デ・ロス・ロコス(Viaje de los Locos)を攻略している。熱意と洞察力を併せ持つ強靱なパートナーシップは、このようなルートの攻略には欠かせない。
ポートレッジの2人© Francois Lebeau
1ヶ月近くに渡り携帯電話と電気を使わない生活を送った2人はシンプルなルーティンを行っていた。彼らは毎日長時間をルート上で過ごしており、ポートレッジで夜を明かすこともあった。
ディジウリアンは最後にこうコメントしている。「他人を知ることができる方法がひとつあるとすれば、こういう集中合宿のような環境でしょうね(笑)」
関連コンテンツ

Sasha DiGiulian

American climber Sasha DiGiulian has made a career of overcoming the odds, with more than 30 first female ascents to her name.

アメリカアメリカ
プロフィールを見る
クライミング
探検

人気のストーリー