2024年の夏、日本中が注目したあの大舞台でスポーツクライミング男子初の銀メダル獲得という快挙を成し遂げた17歳、安楽宙斗選手。
僅差で優勝は逃すも、ボルダーでは他選手が苦戦する難題を一撃完登するなど、その異次元の強さで世界を驚かせた。
以前のインタビューでも、「自分の登りでスポーツクライミングの面白さを知って欲しい」と語っていた通り、この競技の魅力を知った人も多いはず。
ということで、これから始めてみたい人、そして、もっと上手くなりたい人たちの為に、現代のスポーツクライミングにおける最高の選手へ贅沢にいろいろ聞いてみよう。
安楽 宙斗(あんらく・そらと)とは!?
プロフィールは【こちら】
01
ボルダリングの超基礎知識を教えて!
腕ではなく肩で引く。足を使うことを意識する!
まずは失礼を承知でメダリストに初歩的な質問を。安楽選手が出場した複合種目、ボルダリングとリードって一体なんですか?
「あ、ボルダーですね。去年からボルダリングはボルダーに種目名が変わったんですよ。たまに僕も間違えちゃうんですけど(笑)」
おーっと、そもそもの種目名から世界トップの選手にご指摘をいただいてしまった。間違いやすいので気をつけておこう。初手の質問から先が思いやられるが、初心者相手にも優しい気持ちで接してくれる安楽選手、素敵です。
よし、彼の人柄に甘えてどんどん質問していこう。
ボルダー&リードは、それぞれ登る時にどんなことが重要なんですか?
「ボルダーは4つの課題を4〜5分間でどれだけ多くクリアできるかを競います。ダイナミックな動きが重要になりますね。
リードは15m以上の壁をどれだけ高く登れるか。一発勝負なので、冷静に一手一手攻略していくことが大切です」
2024年8月の歴史的大舞台ではボルダーで1位、リードでは5位と苦戦していた。
「あの時の決勝で僕みたいにパッと登ってると、腕が張ってきた時に落ちちゃうので、ゆっくり確実に登った方が良いですね」
脱力系クライマーとも言われる安楽選手でも反省するぐらい、無駄に力を入れないことがかなり重要らしい。これは初心者のうちから意識しておきたいポイントだ。
「上手い登り方を身につけたいなら、無闇に手で引く登り方はやめた方がいいです。筋力がある人は、腕を引いて力で登ろうとしがち。逆に筋力があまりないと、足を上手く使って、手を伸ばして登れている人が多かったりします。腕ではなく、肩で引く、足を使う意識は大事ですね」
02
必須アイテム&拘るべき点ってなんですか?
意外とチョーク選びがカギだったりします
さて、いざクライミングを始める時、何が必要なんだろうか。
ネットで調べれば何でもすぐ分かるこの時代に、あえて聞かせてもらいましょう。これも迷える未来のクライマーたちの為……。
なにか準備しておかないといけない物ってありますか?
「クライミングシューズとチョークバッグですね。最初はレンタルでいいと思いますよ。自分のシューズを買ったりするのは中級者以上~だけで大丈夫です。僕の場合、サイズは少し痛いぐらいの小さめを選ぶようにしています」
同じ情報でも、やっぱりメダリストの声で聞くと説得力が違う。この勢いで、初心者と上級者で使う道具に違いがあるのか、世界で戦うトップアスリートならではの道具へのこだわりなんかも聞いてみたい。
「実は僕自身、あんまり道具にこだわりがなくて、詳しくないんですよね。今使ってるシューズも、なんとなく選んだらたまたま良い物だったぐらいなので。正直なんでもいい気がします。
むしろ、意外とチョークの方が結構変わりますね。相性があるってことに最近気がつきました。いろいろ試してみるといいかもしれません」
道具に頼らないこの潔さも彼の強さの秘訣なのだろうか。世界ランキング1位の選手がこう言うのだから、最初は道具のことは気にしなくても良さそうだ。まずはあれこれ考えず、手ぶらでジムに行ってみることにしよう。
03
初心者が落ち入りやすいミスってありますか?
課題には必ず意図がある。それを理解すること!
右も左も分からず、最初はなんでも不安になってしまうのが初心者というもの。気になるのはNG行為だ。
ジムでやってはいけないこと、上級者から見たら格好悪いことも教えて欲しい。
「夢中になってるとやりがちなのが、落ちてもそのまま何回も登ることですね。一回毎に交代しましょう。あとは登り方にも拘ると良いかもしれません。課題って人が作ってるので、必ず意図があるんですよ。その意図を無視しないこととか」
学校の勉強では数学が得意という安楽選手らしい回答。出題者の狙いを捉え、問題を解く。クライミングもまた、ロジカルな思考で攻略しなければいけない。
「きっと作成者はこれをさせたいんだなっていうのが分かるんですよね。ただ、足を使わせたい場面で手を使って無理やり登ることも可能なんです。大会では登れればOKなので、あえて設計ミスをつくような、壊すアプローチを試すこともあるのですが、練習ではちゃんと正攻法でもクリアできるようにします。その方が練習の面でも良いし、かっこいいですよね」
ぶしつけに初心者目線の質問を投げかけて来たが、なんだか結果的に安楽選手の強さの秘訣に近づいている気がする。余計なことをしない、頭を使う。一言にすると、本質と向き合う、ということなのかもしれない。
04
自宅でも簡単にできる基礎トレとは?!
想像力を働かせてイメージトレーニングをする
なかなか上手くいかない時期もビギナーの醍醐味。ただ、成長の過程を楽しむとは言っても、文字通り壁を乗り越えられないのは悔しいもの。ジムの外でも、なにかできることはないだろうか。例えば自宅でできる補強のトレーニングとか……。
「いらないと思います。僕も高校生になってから少し筋トレをはじめた程度なので。今でも特別なことは、ほとんどしていません」
……意外となかった(汗)。
自宅で5分だけ簡単トレーニング! 的な情報を期待していた皆さん、申し訳ありませんでした。
でも、まだ読むのをやめないで! どうやらこれは、彼に才能があるからフィジカルトレーニングは必要ない、という話ではないようだ。
「初心者こそ、力で解決しないで欲しいんですよね。下手でもパワーでなんとかなっちゃう場面があるのですが、そればっかりやってると、自分の改善点に気が付けない」
力任せな目先の完登が成長を遅らせ、後で自分を苦しめる。
「筋力よりも、いろんな課題を登る方が大切。体の振り方、捻り方、飛び方、そういったテクニックを学んで、身体に染み込ませる。僕もそうやってここまで来ました。クライミングに必要なのは考える力の方です」
力がない分、頭を使って想像力を働かせる。急がば回れ。失敗して考える数が上達への王道なのだ。
05
上手くなる㊙️テクの伝授をお願いします!
本気で落ち込んで改善点を探す!
もうここまで来たら恥ずかしくない。いっそ思い切ってストレートに聞いてしまおう。
クライミングが上手くなるコツ教えてください!
なんか秘密のテクニックみたいなのないですか? 強くなりたい人向けに、お願いします。
「僕が絶対これだって思うのは練習中、スマホを触らない事ですね。休憩中にみんなスマホをよく見るんですけど、やめた方がいいと思います。集中力が削がれて、身体も冷えちゃうので」
確かにおっしゃる通り! 現代人、ちょっとスマホ触りすぎです。秘伝のテクニック以前に、自分は今に集中できているかを見直す必要がありそう。
「練習でも常に緊張感を持つのが大事。僕は例えば、3回しかトライできないって決めたりします。かなり登り方が変わってきますね。達成できなかった時に本気で落ち込めたら完璧です」
基本に忠実に、時間を大切に。安楽選手と話していると、小手先の技術よりも目を向けるべき事があると気がつかせてくれる。優勝まであと数センチ、初めての大会で経験した想像を絶する悔しさでさえも、最強のクライマーを目指す彼にとっては、芸の肥しそのものだ。
「競技は5分以内なのでトライできて4、5回。だから一回目の情報がすごく大事。次も同じ落ち方したらもったいないじゃないですか。だからパリでの悔しさも、今はただの改善点に変わりました。次の大会に向けてどうすべきかだけを考えてますね」
昨今、スポーツクライミング強豪国となっている日本。ますます期待したいプロ選手たちの応援も、クライミング経験があればもっと楽しめるはず。この記事を参考に、まずは最寄りのジムに行ってみよう!
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「スポーツクライミングとは何か?」 の基礎知識が学べる記事は【こちら】
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