Petra Klingler as seen Speed Climbing at the IFSC Climbing World Championships Combined in Innsbruck, Austria on September 16, 2018
© Erich Spiess/ASP/Red Bull Content Pool
クライミング

スピードクライミングの基本を知ろう

クライミングはじっくり取り組むスポーツだが、スピードクライミングは余計な部分をすべて取り除いたストレートなスポーツだ。
Written by Chris Van Leuven
読み終わるまで:5分Published on

23分

第1話: 最大速度で(スピード競技)

第1話あらすじ: スピードクライミングをおまけの活動と捉えるクライマーもいるが、それらの世界的な大会へ参加することは、今や多くの選手が真剣に取り組んでいるのも事実だ。映像監督のザカリー・バーがこのスポーツのより深部にカメラを向ける。【歴史を創るクライマーたち(シーズン5/日本語字幕)】

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スピードクライミングの世界を詳しく掘り下げたRed Bull TV『Reel Rock』の最新エピソードも併せてチェックしよう。
50年以上前にロシアで行われていた競技クライミングにルーツを持つスピードクライミングは、現在はインドアクライミングの1カテゴリーとして定着している。
クライマー2人が同時にスタートしてトップまでのタイムを競うこの競技では、クライマー同士の激しいバトルが楽しめる。
その高速アクションはあらゆる瞬間にスリルが詰まっており、クライマーたちの真剣勝負に世界中の人たちが惹きつけられているのは不思議ではない。
スピードクライミングは観戦向きのスポーツとして一般大衆にアピールできている。なぜなら、スポーツクライミングやボルダリングよりも分かりやすいからだ。
最速のアスリートが勝利するというルールは実に単純明快だ。
先にトップに到達した者が勝者となる単純明快さが魅力

先にトップに到達した者が勝者となる単純明快さが魅力

© Sender Films/Red Bull Content Pool

また、スピードクライミングは若い世代にもアピールできている。
なぜなら、パワフルで、アスリートとファンを巻き込むエネルギッシュな魅力を備えているからだ。このスポーツは「中毒性が高い」と評価されているが、その明快さから「最もピュアなクライミング」と評する人さえいる。
スポーツクライミング人気の高まりはICO(国際オリンピック委員会)も認識しており、2020年の東京でも正式種目に初採用されることが決定している(編注:「ボルダリング」と「リード」と併せて競われる複合競技となる)。
じっくりと取り組む有酸素アクティビティと呼べるスポーツクライミングとは対照的に、スピードクライミングはほとんど呼吸することなく一気にウォールを登っていく。スピードクライミングはピュアな嫌気性アクティビティで、真の筋力が問われる。
息継ぎをすればそれだけスピードを失うことを知っている短距離系スイマーたちと同じように、スピードクライマーも全力を尽くしながら見事なテクニックを駆使してウォールのトップを目指していく。
トップに到達するまで息つく暇はない

トップに到達するまで息つく暇はない

© Sender Films/Red Bull Content Pool

スピードクライマーの尻はできる限りまっすぐに保たれ、左右に振れることはまずない。宇宙空間へ向かって打ち上げられるロケットのごとく、彼らは地上から放たれた勢いのまま一気にルートを駆け登る。
彼らは両手を激しく動かしつつ、足をホールドに食い込ませたり、スメアリングしたりしながら、ホールドからホールドへと飛び移っていく。
ダイナミックな爆発力が求められるため、ジムトレーニングは不可欠

ダイナミックな爆発力が求められるため、ジムトレーニングは不可欠

© Lukasz Nazdraczew/Red Bull Content Pool

自由に思えるかもしれないが、スピードクライミングには厳格なルールも存在する。スピードクライミングはISFC(International Sport Climbing Federation:国際スポーツクライミング連盟)が管轄しており、たったひとつの共通ルートしか存在しない。
この共通ルートはフランス人クライマーのジャッキー・ゴドフがデザインしたもので、彼が2000年代初頭に設定したホールド形状とルートが現在のスピードクライマーの基準となっている。
ルートの高さは15m(3階建てのビルよりわずかに高い)で、20個のホールド11個のフットホールドで構成されている。ウォールのオーバーハングもに定められている。
また、ルート難度は5.10で、経験豊富なクライマーなら約30秒でトップに到達できるが、エキスパートなら10秒以内で完登してしまう。
ホールドの形状と位置は世界共通

ホールドの形状と位置は世界共通

© Simon Legner/Wikimedia Creative Commons

「アジアのチーター」の異名を持つイラン出身のクライマー、レザ・アリプールは2017年4月に15mウォールの世界記録5秒48をマークしている。また、2019年4月には中国のソン・イリンが女子世界記録の7秒101をマークしている。
フットホールドからフットホールドへ瞬時に移るために、スピードクライマーは脚の筋力アップに取り組んでいる。
彼らは両脚で身体を押し上げ、その勢いを持続しながらルートを完登しなければならない。また、各ムーブを細部まで把握して、直感レベルで出せるようにしておく必要もある。
一部のスピードクライマーたちは、1日最低10回は同じウォールで繰り返し練習しているが、中には最大100回も登攀するスピードクライマーもいる。これらは全てマッスルメモリー(筋肉記憶)のためだ。彼らは、反射スピードを高め、ウォールでのボディポジションを最適化しようとしている。
タイムを削り取るには反復練習が極めて重要

タイムを削り取るには反復練習が極めて重要

© Lukasz Nazdraczew/Red Bull Content Pool

スピードクライマーたちが長年に渡り同じルートを繰り返し登攀してきたため、通過ルートは最適化されており、現在では全員が第16ホールドを回避している。このホールドは盲腸と同じで確かにそこに存在するが、その存在理由を知る者はほとんどいない。
第4ホールドを飛ばすスピードクライマーもいる。次の第5ホールドで勢いを失わないためには、ここから正確なムーブでジャンプしなければならないからだ。その正確なムーブは考案者のレザ・アリプールにちなんで、「レザ(The Reza)」と呼ばれており、近年は多くのクライマーが採用している。
現在の世界記録保持者はレザ・アリプール(イラン)

現在の世界記録保持者はレザ・アリプール(イラン)

© Erich Spiess

競技クライミング解説者として著名なチャーリー・ボスコーは、次のように述べている。
「スピードクライミングのトップアスリートたちは、私がこれまで見たことがなかったレベルの瞬発力を備えています。本当に素晴らしいですよ」

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作品名【Reel Rock -リール・ロック-】

地球上で最もワイルドな場所で世界のトップクライマー、アルピニスト、登山家を追いながら、さらなる大冒険を求める過程における勝利、失敗、挽回のストーリーを紹介する。(日本語字幕)

7 シーズン · エピソード55
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