時速160kmはなかなかのスピードだ。しかし、自動車ではなくスケートボードの上に仰向けで寝そべり、路面からほんの数cmの高さで身をよじらせながらタイトなコーナーに突入しようとしている自分を想像してもらいたい…。ストリートリュージュへようこそ!
ダウンヒルスケートシーンが拡大していることを受けて、現在ストリートリュージュで世界王者3冠を誇るウィル・スティーヴンスンが、このスポーツの基礎知識と参加方法を教えてくれた。
ストリートリュージュ・レースとは?
本質的にはロングボードとウインタースポーツのリュージュのハイブリッドと言えるストリートリュージュのレースでは、ロングボードに似たウィールを備えたカスタムメイドのそりを使用し、ダウンヒルコースで同時に滑走しながら順位を競い合う。
乗車姿勢が限りなく地面に近いため、ダウンヒルスケートボードより風の抵抗を受けにくく、操縦性を犠牲にしている分、ストレートの速度はダウンヒルスケートボードの上を行く。
どれほどのスピードなのか? 2016年に米国人ライダーのマイク・マッキンタイアが無動力リュージュ世界最高時速101.90マイル(163.992km/h)を記録している。
「多くの人が、エンジンなどの動力源を持たない僕たちがこれほどのスピードを出せるとは思っていない」とスティーヴンスンは語る。
「ストリートリュージュのスピードは極めて高い。しかも、他のライダー4〜5人と順位を競わなければならない。難度は桁違いさ」
ボードのデザイン
猛烈なスピードが出る以上、深刻な怪我を避けるためには最上級のギアが必要となる。
「僕たちが使っているのは、ダウンヒルスケートボード用と同じトラックやウィールだけど、安定性を高めるためにホイールベースは長い。路面とのクリアランスも小さくしている」とスティーヴンスンは説明する。
ボード単体の重量は14kg前後で、“ドロップ” したデッキ形状を有している。つまり、デッキの中央部分を凹ませて、ボードをウィールとほぼ同じ高さにして路面へ限りなく近づけているのだ。
これにより、乗車姿勢をできるだけ路面に近づけ、全ダウンヒルライダーの敵、“スピードウォブル” (高速滑走時にボードが暴れる現象)を抑えることができる。
フロントとリアにはクラッシュ時にボードを保護するためのパッド(必ずしもライダーを保護するためのものではない)が備えられており、機械式ブレーキの使用は厳しく禁じられている。
ライダーの安全装備に関しては、全身を覆うレザースーツとバイク用グローブ、フルフェイスタイプのバイザー付きヘルメットを使用している。路面とのクリアランスが限りなく小さいため、クラッシュ時のライダーはボードからスライドするように離れ、レザースーツで衝撃を和らげて怪我を回避している。
レースで遭遇する危険は?
「ストリートリュージュではめったにクラッシュは起きないけれど、起きてしまえば、かなり酷い結果が待ち受けている」とスティーヴンスンは語る。
「僕は2008年にオーストラリアで大きなクラッシュを起こし、腕を手術しなければならなくなった。コンクリートの壁にヒットしてしまったんだ」
ライダーの乗車姿勢は路面から限りなく近いため、注意している限り、ボードから滑り落ちてもさほど深刻なダメージにはならない。
しかし、ライダーたちは猛烈なスピードで滑走しているので、硬い障害物への衝突には最大限の注意が必要になる。
ここで重要になるのがコースデザインだ。なるべくオープンなスペースを確保し、ナチュラルな(人工物ではない)停止ポイントを設ける必要がある。
身近な坂道を滑ることから始まったダウンヒルスケートボードとは異なり、ストリートリュージュではしばしば専用のレース環境が必要になる。
参加方法は?
英国に限った話になるが、地元の坂で練習するのが少し怖くても、安全に練習できる環境は比較的簡単に見つけられる。ストリートリュージュで活躍する現役ライダーたちは次世代の育成に意欲的なのだ。
「僕はこの先数年で約50人のライダーを新たに育成して、インターナショナルレベルでレースを展開するコアグループを作り上げるという目標を立てているんだ。現役ライダーとしての僕はもうピークを過ぎているからね!」とスティーヴンスンは語る。
スティーヴンスンはウェールズ中西部ケレディジョンにあるRide the Dragonというダウンヒルラリートラックでトレーニングしているが、他のライダーたちは英国南部ウィルトシャーにあるGursdon Downで技術を磨いている。
このスポーツの誕生当時は、シーンの最新情報を得るにはネット上のメッセージボードでやり取りする必要があったのだが、最近のライダーはStreet Luge Is Not a CrimeのようなFacebookコミュニティを通じてトレーニングデイの詳細を知ることができる。
レースの熾烈さは?
ストリートリュージュがX Gamesの種目から外されて久しいが、現在も表彰台の顔ぶれが頻繁に入れ替わる、小規模だが盛況でコンペティティブなインターナショナルシーンが存在する。
「定期的にイベントに参加し、トップレベルを競い合っているライダーは5〜6人しかいないけれど、どれも激しいレースだ。トップライダーの数は少ないけれど、彼らは素晴らしい速さを持っている」とスティーヴンスンは語る。
出場したインターナショナルイベントのうちの成績順上位5イベントの獲得ポイントの合算を比較してシーズンチャンピオンが決定する。