© Philip Platzer/Red Bull Content Pool
MTB
『Streif Ride』:アルペンスキーの聖地をトライアルバイクで激走!
世界最恐スキーコース “シュトライフ” でトリックメイクとライディングに挑んだファビオ・ヴィブマーが前代未聞の挑戦を振り返った。
アルペンスキーのクラシックイベントのひとつに数えられるハーネンカム・レースは2024年1月19日に第87回目が開催されたが、その舞台となる難関スキーコース “シュトライフ” の初滑降は開催前に終わっていた…。
なぜなら、数々の奇想天外なプロジェクトと衝撃的なトリックで知られるオーストリア人MTBスターのファビオ・ヴィブマーがトライアルバイクで走破したからだ。
トップスピードが時速107kmを超える中、最大落差14mのジャンプ台からドロップし、飛距離36mのビッグジャンプをメイクしながら、ヴィブマーはバイクと自分自身を限界までプッシュして野心的なプロジェクトを実現させた。
世界最恐ダウンヒルコースに捧げる壮大なオマージュとなった今回のプロジェクトについて、ヴィブマー自身に語ってもらった。
01
ファビオ・ヴィブマーが語る『Streif Ride』プロジェクト
— “シュトライフをトライアルバイクで制する” というクレイジーな発想はどこから生まれたのですか?
ファビオ・ヴィブマー:キッツビュールとシュトライフは特別です。私はキッツビュールから1時間も離れていない場所で育ち、このスロープを滑降するアルペンスキーのスターたちに声援を送っていました。ずっと昔から開催されている最大のスキーレースです。
それであるとき、自分もシュトライフを駆け降りてみたいというアイディアが閃いたのです。ですが、スキーを履く代わりに自分のトライアルバイクに乗り、コースに障害物を設置してトライしたいと思いました。
— このユニークなプロジェクトへ向けた準備を始めたのはいつ頃だったのでしょう?
この夢を実現するために、私とチームは2年近く準備を続けてきました。シュトライフを制圧できた今は最高の気分ですね。すべてのジャンプが成功しましたし、本当にクールな映像に仕上がりました。
— 異例なチャレンジですので、準備も大変だったのではないですか?
もちろん、細部まですべてを事前にシミュレートするのは困難です。シュトライフならではのコンディションを留意しておく必要があります。ほとんど氷のように押し固められた雪のせいで、硬さが他のスキーコースとは段違いなのです。
シュトライフの雪質に近いコースはありませんので、リハーサルに使えるスロープはほぼ皆無です。とはいえ、私は雪の中でかなりトレーニングを積みましたし、いくつかのジャンプをテストできました。
— 特別なチャレンジには特別な装備が必要です。このプロジェクトのために、あなたのCanyon製のバイクにはどのような準備をしたのでしょう?
このプロジェクトはバイクと自分を間違いなく限界まで追い詰めましたね! 雪と氷、そして寒さが組み合わさった今回の異例なコンディションのためにバイクをセットアップするには、サスペンションや適切なタイヤ空気圧など、繊細な作業が数多く要求されました。
グリップも必要でしたが、これは特別なスパイクタイヤで得ることができました。シュトライフ独特の雪面に耐えられるように、このスパイクタイヤはアイススピードウェイ(編注:凍結したオーバルコースで行われるモーターサイクルレース)のトップライダー、フランキー・ゾーンと夏の間に共同製作しました。
マイナス10℃まで下がることもあるシュトライフの気温もバイクの素材に特別な負荷をかけました。ですので、バイクの信頼性がひときわ重要になりますが、私にはCanyonという素晴らしいパートナーがいます。
— 動画のジャンプや滑降は簡単そうに見えますが、実際は相当な努力が求められるはずです。どのようにリラックスした状態を保つのでしょう?
一見しただけでは、このようなプロジェクトを実現するためにどれほどの努力が細部まで込められているか分からないでしょう。覚えていないほど長い時間を準備に費やしました。チームと一緒に約2年取り組みましたが、最後の2カ月は本当に大変でした。
ですが、費やしてきたすべての時間が報われましたし、与えられた時間が限られていたので、少しも無駄にできませんでした。良い準備こそが成功の基礎です。準備ができていなければ成功は得られません。
— 特に難しかったトリックはどれでしたか?
正直に言えば、シュトライフのトップからボトムまでのすべてがチャレンジでした。とはいえ、マウスファーレ(Mausefalle:ドイツ語で「ネズミ捕り」の意)に飛び込むジャンプはかなりの高難度でした。本当は撮影初日にチャレンジしたかったのですが、この極めて高いジャンプに向けてメンタルが整っている感覚が得られませんでした。
ですので、別の場所での撮影に切り替え、他のジャンプを通じて自信を深めていきました。マウスファーレでのジャンプが成功して、撮影も無事終われたことは私たち全員にとって最高の出来事でしたね!
ハーネンカム・レースで最も記憶に残っている瞬間のひとつは、ボディー・ミラーが急峻なスロープ出口で披露した “ウォールライド” です
— 過去のハーネンカム・レースで特に記憶に残っている場面はありますか?
過去のハーネンカム・レースを思い返すと、最も記憶に残っている瞬間のひとつはボディー・ミラー(アルペンスキーワールドカップ通算33勝を誇る米国出身スキーヤー)が急峻なスロープ出口で披露した “ウォールライド” です。彼はインスピレーションを与えてくれました。リラックスしつつ、ここぞという場面で最高のパフォーマンスを発揮していました。
ミラーのあのウォールライドがこのプロジェクトを着想するきっかけになりました。ですので、今回の映像にはウォールライドを必ず取り入れたいと思っていましたが、当然ながら、トライアルバイクで自分流のウォールライドをすることがマストでした。
02
Canyon Torque CF:ファビオ・ヴィブマー『Streif Ride』仕様
ヴィブマーは今回のプロジェクトのために入念な準備を重ねてきた。このようなビッグプロジェクトで求められるフィジカル / メンタル両面のストレングスの調整に加え、使用するCanyon Torque CFのセットアップをシュトライフ特有のコンディションに対してパーフェクトに合わせる必要があった。
インタビュー内でヴィブマーが言及しているように、シュトライフの急斜面で直立姿勢を保ったままライディングするには特別なスパイクタイヤが必要となった。ヴィブマーが使用するPirelli製タイヤには、様々な長さのスパイクが288本埋め込まれた。
6分
Fabio Wibmer's custom bike check
Discover the secrets of Fabio Wibmer's tailored mountain bike, which he rode down the Streif ski course.
タイヤから最長で8mm突き出ているこれらのスパイクは、当然ながらバイクのハンドリングやジャンプ台での飛び出しのフィーリングを変化させる。また、スパイクでバイクの重量も増加するため、シュトライフをライディングするヴィブマーはあらゆる変動要素に適応しなければならなかった。
「バイクには適応できましたが、あらゆる面にかなり注意する必要がありました。なぜなら、スパイクはミスできる余地を狭めてしまいますからね。スパイクの近くに身体を寄せすぎることはNGです」
着地時にスパイクで怪我をするリスクを減らすために、ヴィブマーのTorque CFには特製のマッドガードが取り付けられた。
氷点下を下回る気温では、バイクのあらゆるパーツが硬くなる。ヴィブマーはÖhlins製サスペンションを通じてその変化を感じ取ったが、ブレーキングも懸念材料だった。ヴィブマーは次のように説明する。
「ジャンプ後のバイクの反応がかなり良かったので、上手く対処できました。ブレーキが凍結してしまうとブレーキング性能が低下するので、トリックメイクの前にブレーキを温めておく必要がありました」
雪と氷、寒さが組み合わさったコンディションに合わせるためには、サスペンションや適切なタイヤ空気圧などの繊細な作業が数多く要求されました
ファビオ・ヴィブマー専用Canyon Torque CF:スペック
- バイク / フレーム:Canyon Torque CF(フロント / リア共に27.5インチ)
- サスペンション:Öhlins
- ホイール:DT Swiss
- ブレーキ:Magura MT7 Raceline
- ドライブトレイン:SRAM
- タイヤ:Pirelli Scorpion
- スパイク:フランキー・ゾーンによるカスタムメイド
- ハンドルバー:G5(Canyon)
- ステム:G5(Canyon)
- グリップ:G5(Canyon)
- ペダル:Crankbrothers Stamp 7
▶︎RedBull.comでは世界から発信される記事を毎週更新中! トップページからチェック!