MotoGPとFIMスーパーバイク世界選手権(以下SBK)は共に世界レベルの2輪選手権で、スリリングなフルスロットルレースで世界中のファンを長年楽しませている。
両シリーズ共に国際モーターサイクリズム連盟(FIM:Fédération Internationale de Motocyclisme )が統括しており、FIMの委託で両シリーズを運営しているDornaが定めたテクニカルレギュレーションに則っている。
2輪トップクラスのライダーたちが世界最高のサーキットで競い合いながら世界各地を転戦しているということから、表面上はこの2シリーズは非常に似通ったものに見える。しかし、似ているのはここまでだ。
この2シリーズでは、使用されるバイク・予算規模・参戦チーム・サーキット・ファン・賞金など様々な点が異なり、結果としてそれぞれに異なる特徴を持つ選手権となっている。
今回は世界的に有名な2つの2輪レース選手権の様々な相違点を詳しく見ていくことにしよう。
チーム予算
チーム予算に関しては、SBKよりもMotoGPの方が断然多い。MotoGPチームは、バイクはもちろんテストや機材、スタッフなどに思う存分予算を注ぎ込めるが、SBKではバイクやライダー、研究開発などに使える予算はすべて制限されている。
バイク
MotoGPとSBKで使用されているバイクはそっくりに見えるかもしれないが、その実態は大いに異なる。
SBKを戦うバイクは、基本的に一般人が地元のバイクショップで購入できる市販バイクにレース用チューニングを施したもので、プロダクションバイクとして知られている。
対照的に、MotoGPバイクはレース専用に製作されたマシン(あるいはプロトタイプ)で、設計上の制限は少なく、一般人が購入することはできない。
MotoGPバイクは徹底的にカスタムメイドされたマシンで、カーボンファイバーやチタン、マグネシウムなどハイテク素材を使用しているためSBKバイクよりも軽量だ。また、エンジンチューニングの規制もないためスピードも高い。
SBKはレギュレーションでバイクの開発が制限されているが、新規チームの参入障壁はMotoGPのそれに比べて金銭面ではるかに低い。
また、予算制限のおかげで多額の予算を投入したチームが勝てるという図式にはなりえないため、SBKの方がフェアなレースだという意見もある。
簡単にたとえるなら、MotoGPはF1の2輪版で、SBKはスポーツカー / ツーリングカー・レースの2輪版ということになる。
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26分
MotoGP™ ABC
あらすじ: モーターバイクレーシング最高峰として知られるMotoGP™をスリリングなスポーツにしている理由を探る。ルールを理解し専門用語を学んでMotoGP™の基本を知ろう。【過酷なスポーツの基本(シーズン1/日本語字幕)】
ECU / 電子制御ソフトウェア
2016シーズン以降、すべてのMotoGPバイクには競争の公正化維持を目的とした共通ECU(エンジン制御ユニット)とソフトウェアが搭載されている。
一方、SBKでは使用するECUとソフトウェアの選択は各チームの自由だが、当然ながら予算によって制限される。
参戦チーム
MotoGPとSBKでは参戦チームの顔ぶれが大いに異なる。尚、両選手権に参戦しているメーカーとどちらか一方の参戦に専念しているメーカーが存在する。
MotoGPチームの予算規模はSBKよりはるかに大きく、最新のガジェットやテクノロジー、パーツはもちろん、最高のメカニックたちを擁することでも広く知られている。
MotoGPに参戦するレッドブルKTMファクトリーチーム:
SBKに参戦するカワサキ・レーシングチーム・ワールドSBK:
シーズン
MotoGPシーズンはSBKのシーズンよりはるかに長く、3月上旬から11月下旬までに全19戦が組まれている。一方、SBKは2月中旬から10月下旬までに全13戦が組まれている。
開催サーキット
MotoGPとSBKの開催サーキットは一部重複しているが、それぞれのシリーズならではのロケーションもいくつか存在する。たとえば、英国ではシルバーストンがMotoGP開催サーキットだが、SBKはドニントンで開催されている。
米国ではカリフォルニア州のラグナ・セカがSBK開催サーキットだが、MotoGPはテキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されている。
また、カタールのロサイル・インターナショナル・サーキットとオーストラリアのフィリップ・アイランドではMotoGPとSBKが開催されている。
参戦ライダー
結局のところ、レースを成立させるのはライダーたちだ。SBKとMotoGPの両方に驚くほど勇敢で才能あるレーサーたちが参戦しており、シーズンを通じてしのぎを削っている。
しかし、トップライダーの話をするなら、やはり最先端のバイクと最高額の賞金を誇るMotoGPに “ベスト・オブ・ベスト” が集まっているという結論になるだろう。
マルク・マルケスやバレンティーノ・ロッシなどのライダーたちは2輪レーシングの頂点で確固たる地位を築いており、それぞれのファンからは “神レベル” の尊敬を集めている。
また、全盛期を過ぎたMotoGPライダーたちがSBKへ転向するケースもしばしば見られる。
MotoGPとSBKで活躍するトップライダーたちの名前を紹介しておこう。
MotoGP:
- マルク・マルケス
- ホルヘ・ロレンソ
- バレンティーノ・ロッシ
- カル・クラッチロー
- アンドレア・ドヴィツィオーゾ
SBK:
- カール・フォガティ
- レオン・キャミア
- ジョナサン・レイ
- アレックス・ロウズ
- ユージーン・ラバティ
- マルコ・メランドリ
日本でTV・オンライン観戦するには
SBKはJ Sports(CS)が全戦生中継している。
また、MotoGPとSBKは共に公式ビデオパス・サービスを展開しており、ライブ&オンデマンドでの観戦が可能となっている(解説音声は英語のみ)。
MotoGP公式ビデオパスの詳細はこちら>>
SBK公式ビデオパスの詳細はこちら>>
ファン
MotoGPとSBKのファンは共に素晴らしい。日本でも鈴鹿やもてぎに足を運べば分かるが、2輪レースファンは概ね熱心で知識も深く、思い思いのスタイルでレースを楽しんでいる。
それでも、モータースポーツ史上最大規模のファンクラブがいくつも存在するMotoGPファンの “アツさ” はネクストレベルだ。
MotoGPが開催されるサーキットではマルク・マルケスを応援するレッドやバレンティーノ・ロッシを応援するイエローが埋め尽くす。
お気に入りのライダーを応援するためにカラフルなTシャツやフラッグ、さらにはスモークを用意してサーキットに集結するファンたちの姿は壮観だ。
レース
MotoGPとSBKの両シリーズで常に手に汗握るレースが展開されているが、最先端バイクを擁するトップライダーとチームが世界最高のサーキットでしのぎを削るMotoGPは幾度となく最高にエキサイティングなレースを見せてくれている。
結局のところ、MotoGPがSBKよりも多くの観客やTV視聴率を集めているのはこのエキサイティングなレースが理由だろう。
SBKがMotoGPの影にやや隠れがちなのはよく知られている。しかし、「どちらのレースがより優れているのか?」という問いに対する究極的な答を決めるのは、両方のレースをじっくり観戦してからでも遅くはない。