アウトドアコースを走るモトクロス
最も明確な違いから明らかにしていこう。まず、モトクロスは基本的にアウトドアコースで行われる。わずかな違いにも思えるかもしれないが、母なる大自然が突きつける容赦のない厳しさを踏まえた上で、アウトドアコースでのレースについて考え直してみれば違いの大きさに気付くはずだ。
モトクロスレースに泥や雨が必ずついてくるわけではないが、荒れたコンディションのレースではプロとアマチュアの差が明確になる。また、ぬかるんだ路面や荒れた天候はレースのあらゆる面に影響する。走行ラインの選択、レース戦略、フィジカルの持久力など、モトクロスレースはレーサーとバイクを限界まで追いやる。
テクニカルな要素
モトクロスもスーパークロスも人の手で造成されたレーストラックで開催されるのは同じだが、自然条件の影響を受けやすいのはアウトドアだ。モトクロスライダーたちは湿度や風、眩しく照りつける太陽などに晒されるため、より多彩なレーススキルが求められることになる。
ホールショットを決め、ジャンプをクリアし、鋭くコーナリングできるスキルを手に入れる必要があるのはどちらのカテゴリーも同じだが、モトクロスライダーはより多様なコンディションでこれらが求められる機会が多い。
さらに言えば、モトクロス用のレーストラックにはスピードが得られる長い直線区間が設けられている場合があり、その分だけジャンプの滞空時間が長くなる。一方、スーパークロスは極めてテクニカルでよりエキサイティングなレースフォーマットと言える。接戦の展開とクラッシュが多く見られ、非常にエモーショナルな内容になる。
強靭な筋力と持久力が求められるモトクロス
モトクロスレースのレーストラックは徹底的に過酷だ。部外者の多くはモトクロスはスロットルを開けさえすれば前に進む “簡単” なものだと高を括っているが、これは極めて甘い考えだ。
100kg近い重量のバイクをコントロールしてレーストラックを走った経験があるライダーには一笑に付されるだろう。彼らには腕相撲や中距離走でも勝てないはずだ。簡単に言えば、モトクロスライダーは非常に優れたフィットネスを備えているアスリートなのだ。
彼らは1周1.5マイル(約2.4km)のレーストラックを2〜3分で周回しており、さらには15〜20カ所のジャンプやウープスセクション、バームなどにも対応している。モトクロスで周回を重ねながら他のレーサーたちと順位を争うためにどれほどのフィジカルが求められるかがこれだけで理解できるはずだ。
当然ながら、スーパークロスのライダーのフィットネスレベルも非常に高い。スーパークロスの方がレース時間は短いが緊張度は極めて高く、テクニカルなコースではライダーの心拍数も高くなる。端的に言えば、モトクロスもスーパークロスも優れたフィットネスが必須な点は同じだ。シートの下にはエンジンが収まっているが、どちらも紛れもなく “スポーツ” なのだ。
スーパークロスの優れた演出
スーパークロスは主にスタジアムやアリーナに特設され、眩い照明に照らされた短距離のタイトなコースで開催される。モトクロスのシーズンは主に夏だが、スーパークロスのシーズンは年始から春にかけてで、モトクロスシーン最高峰クラスと位置づけられている。
スーパークロスではライダーたちが得られる賞金も高額で、それゆえに注目度も高い。タイトなターンで繰り広げられる熾烈なポジション争いがスーパークロスの醍醐味だ。
スーパークロスのレーストラックは短くタイトな上に、モトクロス用よりも幅が狭く、直線区間も短い。フィーチャーにはテーブルトップジャンプやウープスセクションなどが含まれ、“ドラゴンズ・バック(竜の背)” と呼ばれるスーパークロス特有のバンピーなジャンプも置かれている。
しかし、スーパークロス最大の見せ場はやはりターンだろう。ターンでのスロットルコントロールとタイミングを知っていることが勝者の条件であり、タイトなターンが連続するスーパークロスのレーストラックの基本スキルだ。
とはいえ、スーパークロスでもジャンプは重要なスキルで、レーサーたちは高さ35フィート(約10m)・飛距離70フィート(約21m)のビッグジャンプをメイクする。レーストラックがタイトなためジャンプは次々とやってくる。モトクロスでは長い直線を活かしたハイスピードで飛距離の長いジャンプができるが、スーパークロスではライダーの素早い反射神経と瞬時の判断力が試される。
スーパークロスは複数のクラスが設定されており、各クラスの最後にメインイベントが用意されている。250ccクラスは15分+1周、450ccクラスは20分+1周がメインイベントのフォーマットだが、メインイベントの出走枠(22枠)を争うためにライダーたちは1日を通じて多くのヒートを戦うことになる。
バイクの違い
モトクロスとスーパークロスでは使用するバイクも当然異なるはずだと思うかもしれないが、実はどちらのカテゴリーでもエンジン排気量に応じた250cc / 450ccの2クラスで、共に大排気量でハイパワーの450ccクラスが上位カテゴリーに設定されている。かつては2ストロークしか存在しなかったが、現在では4ストロークが全盛だ。
とはいえ、モトクロスとスーパークロスのバイクが共通しているのはここまでだ。
モトクロスではより荒れた路面でのハイスピードが必要になり、レーストラックから返ってくる強烈な衝撃に備えてサスペンションもチューニングされている。また、ウープスセクションでの操縦性も求められる。たとえば、サスペンションのセットアップが柔らかすぎれば、コーナリング性能や1ラップの平均速度に影響する。モトクロスは高速で、ラフで、極めてタフなのだ。
一方、スーパークロスのバイクはタイトなコーナリング性能のために硬めのサスペンションを備えている。ライダーのフィジカルへの負担は大きいが、その分コーナー出口で強烈なトラクションが得られる。スーパークロスでのマシンセッティングはサスペンションの反応と可動性が重視される。
スペクタクルが最重要
レーストラックを走り回るレーサーたちの姿を見ているのは楽しいものだが、モトクロスにもスーパークロスにもそれぞれ固定ファンがいる。
スタジアムの特設レーストラックで開催されるスーパークロスの観客席はビールとホットドッグを抱えたファンたちで埋まっており、彼らは天候に関係なくレースを楽しんでいる。
クラッシュのリスクが高く、ライダーたちが互いに怒りをむき出しにするシーンも多いスーパークロスは、モンスタートラックラリーなどに近い。イベント全体を楽しむために観客席を移動する必要がなく、その気になれば1日中観戦していられる点も大きな魅力だ。
一方、モトクロスレースの観客は各レーサーの周回のごく一部しか見ることができないが、雰囲気はリラックスしており、アウトドアレースの音、匂い、風景にはバイクレースならではの魅力が詰まっている。
ローカルレース以外にも2つのポピュラーなシリーズが存在している。毎年1月にスーパークロスシーズンが開幕し、全17戦のシーズンを通じて最多ポイントを獲得したライダーがシリーズチャンピオンの栄冠を手にする。スーパークロス最終戦はラスベガスでの開催が恒例となっており、モータースポーツシーン屈指のスペクタクルを演出する。
スーパークロスシーズンを終えたライダーたちは約1カ月の充電期間を経て新レースフォーマットへ向けたバイクのチューニングを開始し、スーパークロスシーズン閉幕後に開幕するLucas Oilプロモトクロスシリーズへ向けたトレーニングに取り組む。
全12戦のLucas Oilプロモトクロスシリーズは毎年5月に開幕し、“モト” と呼ばれる各レースは30分+2周のフォーマットが採用されている。30分が経過した時点でチェッカーフラッグが振られ、フィニッシュラインを最初にまたいだライダーが勝者となる。