『Championship Manager 2010』
© Eidos
ゲーム
『Football Manager』の歴史
サッカークラブ運営シミュレーションゲームの人気タイトル『Football Manager』の歴史と変遷を振り返っていく。
Written by Damien McFerran
読み終わるまで:14分Published on
『Football Manager』
『Football Manager』© Sega / Sports Interactive
サッカーの話になれば誰でも一家言あるだろう。観客席から悪魔のような言葉を投げつける口うるさいファンから、自宅のソファからテレビ画面に向かって叫ぶファンまで、誰もが一番サッカーに詳しいのは自分だと思っており、贔屓のクラブの監督よりも自分の方が上手くマネージメントできると思っている。
このようなファンはこのスポーツがこの世に誕生して以来存在しているが、彼らが実際に自分の理想を実際に表現できるようになったのはわずか30年前の話だ。ビデオゲームの登場によって我々がレースドライバー、トップガンパイロット、宇宙飛行士などに自由になれるようになったのと同様、彼らはサッカークラブを栄光へ導くチャンスを手にしたのだ。
1980年代、英国人プログラマー、ケビン・トムス(自分が開発したタイトルのカバーに印刷されたひげ面と笑顔で有名)がサッカークラブ運営シミュレーションゲームの初タイトルと言われる作品を開発し、1982年にZX Spectrum、Commodore 64、BBC Micro、Amstrad CPCなどの家庭用コンピューター対応の『Football Manager』として発売されたが、実はトムスはこれよりも前からこのアイディアの実現を目指していた。
トムスは10歳の時にサッカークラブ運営シミュレーションのボードゲームを制作し、Tandy TRS-80のクローン機である家庭用コンピューター、EACA Video Genieを手にするまでこのコンセプトを繰り返し用いていた。そしてこの原始的なコンピューターを手に入れた彼は、のちの代表作『Football Manager』の原型となるテキストベースのBASIC版を制作することになった。
コンピューターの性能が低かったことから、トムスはサッカークラブ運営という波瀾万丈な世界を高精度で再現するのに苦労を強いられた。「元々はZX81用に開発しました。その後ZX Spectrum用に試合のハイライト用グラフィックを追加しました」トムスは振り返る。「もうひとつ重要だったゲームデザインが、プレイヤーの選択によって試合中のアクションが予想不可能な形で変化するという部分でした。また、当時は性能的に制限がありましたが、選手たちは知性を持ち、試合中に自分たちでアクションを決めていました」
完全主義者であるトムスは執拗に続編の開発を続けた。「各タイトルはすべてイチから組み直しました。『Football Manager 2』では選手たちのピッチ上でのアクションの幅が広がりました。『World Cup』エディションはそこを更に改良し、コントロールや行動の種類が増えましたが、ユーザーインターフェイスはシンプルなままでした」
トムスの制作したタイトル群は当時としては非常に説得力があり、プレイヤーたちはユニークな選手、予想不可能なアクション、そして何度もプレイが楽しめるゲームプレイを誇る活き活きとしたサッカークラブ運営シミュレーションを手にすることになった。プレイヤーはハーフタイムに気の抜けている選手に渇を入れるなどの行動が選択可能で、また多くのサッカークラブが実際は行えていないような毎週の経理さえも行えた。しかし、トムスは自分の制作した作品について、大量のデータやスタッツを頼りに作られたものではないと断言する。「確かにデータをどう扱っていくかは重要ですが、それをどうデザインするかも重要です。私は統計的な視点からシミュレーションを制作したことはありません。私は“ゲーム”を制作しているのです。ゲームプレイが楽しいかどうか - 私にとってはここが一番大切なのです」
近年のサッカークラブ運営シミュレーションがかなり複雑な内容であることを考えると、彼のこの考えに驚く人もいるかもしれない。しかし、トムスは自分のゲームが複雑になりすぎないように常に注意してきたと言う。「私のゲームにはスタッツが過剰に盛り込まれることはありません。プレイヤーがコントロールできるだけの、ゲームを楽しくするだけのスタッツが適度に盛り込まれるだけです。これが他のゲームより優位に働いたのかどうかは何とも言えません。私のゲームよりもスタッツが豊富なゲームを好きなプレイヤーは常に存在していましたから」
『Football Manager』シリーズはその後、ふた桁を数える続編と『World Cup』エディション(1990年のイタリアワールドカップに合わせて発売された)が発売された。しかし、残念な内容だった『Football Manager 3』(トムスの制作が活かされなかった唯一のタイトル)が1991年に発売される頃には、このシリーズの独壇場ではなくなっていた。Dino Diniの『Player Manager』などのライバルゲームが登場するようになり、1992年には最終的に『Football Manager』を引き継ぐ世界最高レベルの監督シミュレーションゲーム『Championship Manager』が登場した。
ポール・コルヤーと オリバー・コルヤー兄弟が自宅で制作した『Championship Manager』シリーズの第1作は雑なグラフィックで、選手名も架空のものだったが、1995年に『Championship Manager 2』が発売される頃には、事実上この種類のゲームのスタンダードになっていた。
コルヤー兄弟は『Championship Manager』の成功を受けて1994年にSports Interactiveを設立したが、立ち上げ段階から関わっていたのが、若きマイルス・ジェコブソンだった。現在この企業のスタジオディレクターを務めている彼は、英国内のゲーム業界への貢献が認められOBE(大英勲章第4位)を授かった人物でもある。
彼と同世代の他のゲーマーと同様、ジェコブソンはトムスのZX Spectrum版をプレイしていたが、音楽ファンだった彼は音楽業界でキャリアをスタートさせており、最終的にはFood RecordsのA&RとしてFat Boy SlimやBlurを担当していたが、音楽業界での仕事と平行するようにSports Interactiveと関係を持つようになっていった。
ジェコブソンは説明する。「元々は在宅のテスターでした。フルタイムとして働くようになったのは2001年からですが、ゲーム業界には1994年から携わっていました」在宅のテスターがゲームの総指揮を執るまでの存在にまで出世できるという事実に驚く人もいるかも知れないが、 ファンの取り込みは常にSports Interactiveの成功において重要なパートを担ってきた。
「在宅テスターやリサーチャーは、ゲームに直接影響を与えることが可能です。フォーラムのスレッドに要望を書き込む人も同様ですね」ジェコブソンは説明する。「サッカーに詳しいプレイヤーであろうと、詳しくないプレイヤーであろうと、彼らのすべての声に耳を傾けてきました。今は幸運なことに私は最終判断を下せる立場にいますが、彼らの意見にはすべて目を通し、一考します」
『Championship Manager 2010』
『Championship Manager 2010』© Eidos
こうしてSports InteractiveはEidos Interactiveと袂を分かつ2004年まで『Championship Manager』の続編を発売し続け、その後はSEGAと共同で1980年代にトムスが生み出した『Football Manager』の再建に取り組んでいく。
Eidos Interactiveと袂を分かった理由は公式発表されていないが(ジェコブソンはその理由を「力関係の問題」とほのめかしている)、分裂によってEidos Interactive側がユーザーインターフェイスとブランディングを、そしてSports Interactive側がデータベースとコードを管理することになった。両社のこの決断はのちに大きな意味を持つことになった。
両社が辿った道は大きく分かれていった。Eidos Interactiveは2010年にデスクトップ版『Championship Manager』の開発を終了させてモバイル版へ転向。スクウェア・エニックスによる買収などで一時的にシリーズは休止状態となったが、2013年に『Champ Man』というタイトルでiPhone及びAndroidのアプリとして発売された。この方向転換はある程度の成功を収めており、『Champ Man 15』は無料アプリとしてAndroid単体で100万以上のダウンロード数を記録している。
一方、Sports Interactiveの『Football Manager』は絶対的な存在となった。アプリ版は1000円程度の低価格で簡単に手に入れることが可能で、PC版はSteam上で売り上げ上位のトップ5に入り続けている。現在アプリ版とPC版合わせて1500万本以上を売り上げており、英国のPCチャートでは200週連続で首位を記録した。言い換えればこのゲームは、オリジナル版の時代へ戻ってきたと言える。トムスはこのタイトルが既に自分の手を離れてしまっていることに苦い思いをしていないのだろうか?
「自分で管理できているのも悪くなかったかも知れませんが、別に気にしていません」トムスは言う。「彼らは私が何年も前に売った会社からタイトルを買い取りましたので、既に私の手を離れていました。私にとっては自分の好きなようにゲームをデザインすることが一番重要です。ブランドの構築には興味がありません。私にとってゲームデザインは個人的なものなのです」
Sports Interactiveにとって、『Football Manager』という名前は新たなチャレンジをするのに完ぺきな名前だった。「ケビン(トムス)は何十年も前に自分の会社とすべての商標を売却していました」ジェコブソンが説明する。「私たちは数々の候補を検討したあとで、商標の売却先から名前を買い取りました。『Football Manager』は完ぺきな名前でした。この名前ですべてが伝わりますから」
オリジナルの『Football Manager』からSports Interactiveによる再発までの30年間で、これらのシミュレーションゲームの開発プロセスは原型をとどめないほどに変化していた。まず、『Football Manager』が『Championship Manager』よりも成功を収めた理由である、膨大なデータ量だ。
「機械ではなく人間をベースにした人工知能の大量導入は最大の難関です」ジェコブソンが説明する。「人工知能はピッチ内のアクションに留まらず、選手たちがメディアや監督、トレーニング、休暇など様々なものにどう対応するかを決定します。ここまで多くのNPCの個性を扱うゲームは他にはあまりありません。細部への拘りも他とは異なります」
しかし、その中でひとつだけオリジナルと変わっていないと言えるのがビジュアル面だ。トムスの『Football Manager』のグラフィックは、画面上のテキストを重視したシンプルなもので、Sports Interactiveのバージョンは3Dを導入し、ピッチ上のアクションが表現できるようになっているが、ゲームプレイのアクションを重視している『FIFA』シリーズや『ウイニングイレブン』シリーズなどと比べるとやはりある程度劣っている感は否めない。現代のゲーマーたちがビジュアルを重視していることを考えれば、『Football Manager』の派手さに欠けたビジュアルは、今後このゲームを手にする可能性がある層の目には魅力に欠けるものに映るのではないだろうか?
「そういう風に感じる人もいるでしょう。ですが、そういう人たちはグラフィックが劣っているという理由でモバイルゲームをプレイしないと思います。彼らは映画館で大作を観るだけでしょうね」ジェコブソンは肩をすくめる。「私たちのゲームで一番大きな障壁になっているのは、軽快な操作性よりも脳を使うという点と、他のゲームよりも時間がかかり、我慢が必要だという点ですね」
確かに『Football Manager』は、不安に感じてしまうほど多くの時間がゲームプレイに求められることで知られており、実際英国内ではこのゲームが原因で離婚も起きている他、このゲームを「中毒症状」に近いと言う人もいる。多くのゲーム開発会社はこの言葉を成功の証と見るだろうが、ジェコブソンはこの評価を両手放しで喜んではいない。
「『中毒症状』という言葉は、自然から摂取されたものが原因なのかどうかは別として、化学物質同士の相性の悪さを意味しますので、語弊を感じますね。私たちは説得力のあるゲームを安価で提供しようとしています。ですので、プレイヤーが長時間プレイして、払った金額以上の満足感を得てもらえればと思っているだけなのです」
『Football Manager』
『Football Manager』© Sega / Sports Interactive
『Football Manager』のゲームの深みと美しさについて、『中毒症状』よりも説得力のある評価と言えるのが、現実世界の監督が選手のスカウトに実際にこのゲームを使用しているという報告だ。これは事実なのだろうか?「アレックス・マクリーシュ(元スコットランド・レンジャーズ監督、現ベルギー・ヘンク監督)など数人が記録に残っています。他にも記録には残っていませんが数多くの監督が利用していますね」ジェコブソンが言う。「私たちの集めたデータはProZoneが利用しています。ProZoneはクラブがライセンス利用するデータで、ヨーロッパの数多くのビッグクラブが使用しています。私たちのスカウトのネットワークはサッカー界最大です。世界中に1300人のスカウトがいますので、私たちのデータを参考資料として使わない人は大事なデータを見落としているということになりますね」
『Football Manager』は現在英国で最も人気のあるPCゲームのブランドのひとつとして認知されており、またバージョンが新しくなるごとに意味のある改良が加えられているため、Sports Interactiveには長期に渡る明るい未来が待っているように思える。そのため、このシリーズの独走状態がゲーム開発からトムスのようなベテランたちの手を引かせるのではないかと考える人もいるかも知れないが、実際は違うようだ。
「革命を起こせる余地は十分に残されています。私はこのジャンルの生みの親だと言われていますが、私が作るゲームはすべて異なります。今は6作目となるiOS用アプリ『Football Team Coach』の開発中です(非常にシンプルなグラフィックで、往年の名選手たちが登場する)。私は開発を続けていくつもりです。今回もモバイルゲーム用の新しいデザインと簡単な操作のユーザーインターフェイスが盛り込まれるため、また別の作品になりますし、そこに革新的な何かを見出すプレイヤーも出てくるでしょう。遊びやすさも感じてくれるはずですが、意識的にレトロ感覚も盛り込んであります。エンジンは非常に小さく、数年で制作しました。これが私のゲームデザインのスタイルです。私の過去の作品と同様の魅力を感じてくれればと思っています」
尚、Sports Interactiveはシーンの先頭を走ることを最重要視しているため、ジェコブソンは自身及びチームの開発のテクニックについては明かさなかった。「この手のゲームを開発している人は数多くいるので、アイディアを先に公開するようなことはしません」
「周囲からのプレッシャーよりも、自分たちでかけるプレッシャーの方が大きいですね。私たちはスポーツマネージメントゲームをなるべく長く存在させ続けたいと思っています。その理由のひとつは、自分たちがプレイしたいから、そしてもうひとつの理由は、現実の仕事よりも楽しいからです!」
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