「哲学的思想や音楽だけじゃない…。パンクのすべてがオリジナルの『サイバーパンク』にインスピレーションを与えたんだ」とR. Talsorian Gamesの創設者で『サイバーパンク』ユニバースの原作者として知られるマイク・ポンスミスは話を切り出す。「パンクには固有としか言いようがないユニークな反抗心が備わっている。これが私に一番大きな影響を与えた」
『サイバーパンク』シリーズに少しでも触れれば、サブカルチャーとしてのパンクの美学がポンスミスに与えた影響の大きさが理解できる。1970年代のパンクシーンを特徴づけたアグレッシブでDIYなヴィジュアルから個人の自由を訴える思想まで、このシリーズは最初からこのサブカルチャーの芸術的拡張であり続けてきた。
「Sex Pistolsを聴いていると、ある時点で、彼らがただ世界について歌っているわけではなくて、いかに自分たちらしく世界と関係しているのかが理解できるようになる」とポンスミスは説明する。「ここは非常に重要なポイントだ。彼らのアンセムは “世界を救おう。俺たちは仲間だ” と言う代わりに、 “お前らムカつくんだよ” と言ったあとに頭突きを食らわせるんだ」
ポンスミスは、鋲が打たれたブラックレザージャケットとネオンカラーのモヒカン姿で武器をひけらかしながら都市を闊歩するつもりなら、このアティテュードは欠かせないとしている。ポンスミスは、パンクのアティテュードはアグレッシブになり社会規範に歯向かう権利を授けると信じている − 反逆の権利を授けるのだ。
このポンスミスの『サイバーパンク』シリーズをベースにしている『サイバーパンク2077』は “反逆のビデオゲーム” だ。 “北カリフォルニアの自由州” 内に位置する米国の巨大都市が舞台に設定されているこのゲームの世界は、無慈悲なグローバリゼーション - 「現在我々が生きている後期資本主義社会がさらに酷い社会へ進む入り口だとしたらどのような未来が待っているのか?」という思考実験の回答 - が支配している。
この世界では貧富の格差がさらに広がっており、国と州の法律は意味を失っており、警察は企業化している。『サイバーパンク』シリーズの世界は、かつては想像の最端に位置するものだった。しかし、その社会経済的ディストピアは日々リアルさを増している。
しかし、希望は残されている。すべてのカルチャーにはカウンターカルチャーが存在するのだ。
今作の舞台となるナイトシティは、表面上は市場支配を狙って争いを繰り広げている大企業と、地下社会の支配権を奪う戦いを求めてストリートをうろつくギャングたちによって定義されているが、そこには一般人もいる。この陰鬱な世界で自分たちの人生を全うしようとしている人たちが存在し、彼らは自分たちを取り巻く世界へ向けた自分たちの声、自分たちの意見、自分たちの考えを持っている。
ポンスミスは次のように説明する。「音楽はカルチャーへの入り口になる。そして、世の中は常に新しさを求めている。音楽ではその傾向が特に強い。この性質が変わることはないだろう」
Sex Pistolsは “世界を救おう。俺たちは仲間だ” と言う代わりに “お前らムカつくんだよ” と言って頭突きを食らわせる
『サイバーパンク2077』の反逆者たちの声 - 自分たちを代弁する音楽への欲望を満たしてくれるバンド - が “クローム・ロック” バンド、Samuraiだ。元々は架空のバンドだったSamuraiは、1991年からハードコアパンクシーンで活躍を続けているスウェーデン出身のパンクバンドRefusedによって現実のバンドとなった。
まず、現実世界のバンドが演奏しなければ架空の音楽が鳴ることはない。しかし、Refusedが『サイバーパンク2077』を開発しているCD Projekt Redに選ばれた理由は、突き詰めれば、このバンドに備わっている鋭い洞察力にある。
Refusedのサードアルバム『The Shape of Punk to Come』は「純粋なパンクは死につつある」、つまり、メインストリームがパンクの理想や美学、サウンドを無秩序に吸収した結果、かつては活気に満ちていたこのカウンターカルチャーはボロボロに切り刻まれ、安全ピンでようやく繋ぎ止められているだけのセルフパロディに成り下がったと主張していた。
また、Refusedは、新世代ハードコアパンク - パンクの反体制精神を表現しつつ、ポストハードコア、テクノ、ジャズなどの新たな要素を持ち込んで現代的アレンジを加えているサウンド - の登場を促したバンドと言える。彼らは複数の新しい要素を組み合わせて完全に新しい何かを生み出しながら、パンクの精神を維持してきた。
「パンクであることはアウトサイダーであることを意味している。反体制を唱え、世界の外からやってくるのさ」とRefusedのヴォーカルで作詞を担当している Dennis Lyxzénは語り、次のように続ける。「Samuraiではこの部分とパンクのDIY精神を維持しようとした。『サイバーパンク2077』が描こうとしている未来にフィットしていると思う」
Refusedのハードコアファンの一部は、ビデオゲームへの出演は売名行為のようなもので、Samuraiとしての出演はバンドが長年成長を助けてきたパンクシーンを無視した行為だと異議を唱えている。
しかし、Lyxzénの考えは異なる。架空の世界の反体制主義者になっても、人々を押し潰そうとする不正義と不平等に異議を唱えていることに変わりはない。これまでとは違うレンズで世界を見ているだけに過ぎない。
「Refusedのような政治的目標、シーン、背景を抱えるバンドが架空の音楽を制作するというのはかなり興味深い」とLyxzénは説明する。「ほとんどの場合、俺は音楽を自分の視点から制作している。自分の現実、自分が見た世界についての音楽を作っている。でも今作では、架空の世界に住む他人の視点から音楽を作らなければならない。このような状況に自分たちを置くのは面白いね」
RefusedはCD Projekt Redのコンポーザーチームと組むことで自分たちのサウンドをCD Projekt RedのSamuraiのヴィジョンと合致させつつ、ヴォーカルコーチを付けてSamuraiの米国人フロントマン、ジョニー・シルバーハンド(演:キアヌ・リーブス)の発音に近づけるようにした。
しかし、通常の音楽制作プロセスから最もかけ離れていたのはこのような部分ではなかった。Lyxzénにとっての最大の変化は曲作りだった。
「これまでの俺は、楽曲でストーリーを語ったり、他人の視点で作曲したりするのに苦労する時があった。要するに、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンのように自分ではない他人の視点から音楽を作るのが苦手だったんだ」
「今作は自分で自分の身を守らなければならないディストピアな未来がテーマだが、自分と自分の生活を自分で守らなければならないその世界観にはパンクが大きな影響を与えているということが明確に理解できた。ここが理解できたあとは、納得して他人の視点からこの世界を語る曲作りを進めることができた」
“俺がキアヌ・リーブスの歌声を担当してるんだ” って言えるのは最高だよ
しかし、逆に言えば、今作の音楽は彼らの音楽ではないのではないだろうか? 『サイバーパンク2077』のRefusedの音楽は、彼らが普段作っている音楽からかけ離れているのではないだろうか?
そんなことはまったくない。
実は、『サイバーパンク2077』で聴けるSamuraiの楽曲の一部は、Refusedの最新アルバムに収録されなかったデモやアイディアを練り直したもので、このことは聴けばすぐに理解できる。Samuraiの音楽の一部が普段のRefusedに期待する音楽よりややトーンダウンされているのは確かだが、すべてが間違いなくパンクだ。Lyxzénが話を続ける。
「俺たちはパンクとハードコア出身だ。俺たちはこれらの一部なんだ。だから、今の俺たちがどう呼ばれているのか分からない − ロックバンド、オルタナティブロックバンド、パンクバンド、ハードコアバンドでも何でも結構だが、『サイバーパンク2077』でもサブカルチャーの一部になれるのは興味深いね」
「こういう形でビデオゲームに参加するというアイディアは、俺たちの背景やルーツからかけ離れている。俺たちが考えている将来のプランには入っていないし、自主的にやることでもない。だからこそ非常に魅力的に感じているんだ。こうやって架空の世界に足を踏み入れられるのはとても面白い」
「この『サイバーパンク2077』はここ数年で最も大きな期待をされているゲームだと思うし、その一部になれるというのは誇り以外の何ものでもないね」
「あと、個人的には、“俺がキアヌ・リーブスの歌声を担当してるんだ” って言えるのは最高だよ」
SamuraiとしてのRefusedの音楽が普段の彼らからどれだけ違うのかを理解したあとでSamuraiを聴き直すと、感動せずにはいられない。
全体を通じて感じられる反体制主義のバイブス、荒削りなサウンド、キャッチーなフックなど、収録されているSamuraiの音楽のあらゆる部分は、新しいツールや要素を取り入れて自分たちの意見を作り上げて世間に物を申すという、Refusedが支えてきたパンクのあるべき姿に通じている。
「実は『サイバーパンク』を作った時、私は世の中の多くの人が抱えるファンタジーを叶えようとしていた。悪者になり、レザーを着込み、武器を抱えてクレイジーなことをするというファンタジーをね」とポンスミスは語る。
「しかも、自分たちは超人ではないという設定でね。私が用意したのは “世界は悪化しているが、自分が悪者になれば生き残れる” という世界だった。これはパンク的だ。そして、これこそが私が世の中に提供したかったロールプレイだった。未来に立ち向かう反骨精神とアティテュードを人々から引き出したかったんだ」
Samuraiとして今から50年以上先の世界の音楽を表現しているRefusedは、ポンスミスが提供しようとしたファンタジーを見事に表現している。『サイバーパンク2077』のRefusedは、AAAビデオゲームというメインストリームに積極的に関わりながら、メインストリームに異議を唱える反逆のサウンドトラックを生み出している。
Lyxzénがこの作品で歌っている歌詞の意味とそのインスピレーションの源をこのゲームをプレイするプレイヤーのほんのひと握りでも理解すれば、Refusedの挑戦は成功に終わったと言えるだろう。
『サイバーパンク2077』はXbox One・PS4・PCで2020年11月19日にリリース予定。
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