ミュージック
Thundercat:6つの発言
ニューアルバムをリリースしたBrainfeederのベーシストの魅力を本人の発言から探っていく。
Thundercatについてひとつ確実に言えるのは、彼は非常に器用なアーティストだ
ということだ。ここ数年だけでも、このカリフォルニア州出身のベーシストは、ヒップホップヒーローKendrick Lamar、ソウルアイコンErykah Badu、パンクバンドSuicidal Tendencies、ジャズスターKamasi Washinton、エクスペリメンタルアーティストFlying Lotusなど、様々なアーティストと共演やコラボレーションを果たしている。いかに器用かが理解できるだろう。
今回は2016年に開催されたRed Bull Music Academy MontrealでのThundercatのレクチャーの中から、彼らしさが伝わる発言をいくつかピックアップしてみた。以下を読んで、どのような考えやアプローチが彼を優秀なミュージシャンたらしめているのかを理解しよう。
1:即興を多用する
「俺の中では、ソロや即興を演奏するよりも、自分が演奏している楽曲の構成にしっかりと意識を向ける方がチャレンジなんだ。でも、ソロや即興と、構成された楽曲っていうのは非常に面白い形で融合できると思う。演奏を導いていくように楽曲を構成していく作業は、自分のアイディアを元に演奏する即興の対極に位置していると言ってもいい。でも、俺はこのふたつの相性は良いと思っているんだ。ジャズをはじめとするいくつかのアートフォームはこのふたつが組み合わさっているからこそ存在できているわけだし。だから、俺は用意されている楽曲の中で、なるべく即興を盛り込むようにしているんだ」
楽曲の中になるべく即興を盛り込むようにしている
2:常に新しい音楽から学び取る
「Kendrick Lamarのアルバムに参加したあとは、一歩引いた活動をすることにしたんだ。というのも、彼と一緒の仕事を重ねていくことは俺にはちょっとトゥーマッチに思えたからさ。その意味で、Red Bull Music Academyには感謝しているんだ。俺の名前を利用しない人たちと一緒にコラボレーションできるチャンスを与えてくれたからね。俺はそういうチャンスを毎回楽しんでいるんだ」
「今はまた演奏できるチャンスを得られて嬉しく思っている。コラボレーションの予定がいくつかあるけれど、その実現を無理矢理プッシュしたくない。自然に起きるのを待ちたいね。頭の中をクリアにして、オープンな気持ちで新しい音楽に触れたい。Red Bull Music Academyの参加者の音楽を聴いて、新しい音楽に触れてみたいという気持ちになったし、レクチャーをしている側だけど、むしろ与えてもらっている感じさえあるね。音楽は色々な形でコミュニケーションを取って、自分たちのアイディアを交換することが重要なんだけど、その事実は忘れがちだよな」
3:Twitterで政治の話はしない
「政治の話っていうのは、常について回る。自分には全く関係なくても、どうしても巻き込まれてしまう。特定の政治的テーマを執拗に投げつけられるのは退屈に感じるんだ。だから、俺はTwitterではいつもふざけた発言ばかりしているのさ。シリアスなテーマについては一切発言しない。なぜなら、無駄だからさ。Twitterは情報が溢れているし、トゥーマッチだと思うから、そこから距離を取って自分を休ませることが重要なんだ」
Twitterではシリアスなテーマについて発言しない
4:スピリチュアルでいこう
「自分の意見を持つことを恐れている人がいるよね。世間の意見とは違うから言わないっていうかさ。でも、他と違う意見だって自分の一部だし、そういう意見が自分より大きな何かと繋げてくれるきっかけになると思う。みんなが話しているテーマじゃないっていう理由で自分の意見を否定したり、隠したりするのは良くない。そうしたところでその意見が自分の中から消えるわけじゃないからさ。大体、音楽や他のクリエイティブなものは、そういう意見から生まれる時も多いんだ。だから、“インターネットがあるから、神なんていない” と言われているから、自分の意見は隠しておこうっていう考えは良くないと思うよ」
「俺は、スピリチュアルな部分が自分に影響を与えているという意見に賛成だ。日々の生活にもそういう部分が大きく関わっていると思うよ。スピリチュアルっていうのは元来ポジティブなものだと思うし、それを上手くコミュニケーションの中に盛り込むことができれば、新しい何かを生み出せるチャンス、新しい何かと繋がるチャンスが作り出せると思うんだ。スピリチュアルの良さはそこにあると思うんだよな。スピリチュアルっていうのは、「俺たちの命は永遠です」みたいな話じゃないんだよ。ノスフェラトゥは違うかも知れないけどさ」
スタジオは人間の最悪の部分を見せる時がある
5:スタジオはしんどい
「正直に言うけど、俺はスタジオワークが嫌いなんだ。フラクタルっていうか、どのスタジオも一緒に感じるっていうか。誰かのベッドルームに何回も入るような感じなんだよな。準備できているタイミングでも、準備できていないタイミングでも入れるんだ。そこは面白いけどね。俺はお構いなしにやらせてもらっているよ。ベッドルームのドアを叩き壊して、「よう、何やってんの?」って挨拶するような感じさ(笑)。ベースギターかワインと一緒にスタジオに入って “君の音楽を聴かせてくれよ!” って頼むんだ。それでやりたい放題やって、とっとと帰るのさ(笑)。スタジオでは最高の時間を過ごせた一方で、最悪の時間を過ごしたこともある。スタジオは人間の最悪の部分を見せる時があるんだよな。あと、相手に勝手に期待されて居心地の悪さを感じる時もあるね。メジャーレーベルと仕事をする時は特にそうだな」
6:ツアーミュージシャンの生活は最高
「長年ツアーに出ているから、俺はそれしか知らないんだ。もちろん、自宅に帰ってゆっくりするのも最高だけど、俺は自宅にいるよりもツアーに出ている時間の方が長いんだ。今回のRed Bull Music Academyだって、モントリオールに2週間近くいるしさ。このあと、自宅に帰ってネコと少し遊ぶけど、自宅に帰っても完全にリラックスするわけじゃない。ちょっとテレビを見たら、またツアーに出るんだ(笑)。俺の生活はそういう感じなんだよ」