「友達から金とって儲けようとしてもダメでしょ」
節度ある姿勢を持ちながらも、誰にも物怖じせず、自分の意見をハッキリと物申すこの発言者こそ、《XXX》のアイコニックなブランドネームをあしらったフォトTシャツで注目を集めるGOD SELECTION XXXの主宰、宮﨑泰成(以下「NARI」)だ。
現在29歳になる彼は、東京都港区で生まれ育った生粋の東京・ローカル。都会の中心で様々な刺激に触れながら生きてきたもの特有の、力みの取れた独特の都会感を醸し出す人物。
大学在学中に起業し、大学を卒業するとともにブランドを立ち上げ、そこからわずか数ヶ月の間で販売、そして即ソールドアウトのTシャツブランドを作り上げた若き実業家だ。
なんとこのオトコ、服飾系の学校やアパレル関係の企業に勤めた経験がなく、全くの素人から、今現在のキャリアを築き上げている。業界内に存在するルールやしがらみがないからこそ、既存の概念に縛られることなく、独自のアプローチと、時代の一歩先を見るクリエイティブな視点が備わっている。
もちろん、そういった気負いのようなものは全く持っていないだろうけど、ごく自然体でソレをやってのけるのだから面白い。
ここでは、インディペンデントなスタンスで新しい東京を創造するNARIのビジネス感について迫っていきたい。
まずは、取材時に「まだ大それたことを言える立場じゃないってのは十分に理解してますけど」と前置きをしながら、「今日はこれを一番言いたかった」と切り出した冒頭の言葉の意味についてその意図を聞いてみると。
「よくブランドをはじめた人にありがちなのが、Tシャツを作って、それを自分の友達やその周りの人に100枚くらいさばいて喜んでる人たち。自分からすると『はぁ!? なにソレ、、、』って感じです。
そりゃ最初は、ご祝儀感覚で買ってくれるんだろうけど……。でもそれって、3回、4回と続かないに決まってますよ。遊びでやってるならいいけど、本気で仕事にしようと思ってるなら、友達にはあげて第三者に買ってもらうシステムをちゃんと作らないと。友達からお金とって儲けようとしても絶対にダメですよ。現に周りにもそういった人たちがいたんだけど、1年と持たず表舞台から去っていきましたから」
大学卒業後、わずか数ヶ月で人気ブランドを作り上げた
NARIの起業家生活は、大学4年の頃から始まる。
“通常のサラリーマン生活は務まらない”というNARIの気質を見抜いていた父親が、『オマエは会社員生活に向いてない。失敗してもいいから、自分で会社を作って世の中の仕組みがどんなものなのかを経験してみろ』の一言から始まったそうだ。
「その時は、かなり楽観的に捉えてましたね。“え、就活しなくていいんだ”って(笑)。親にお金を出してもらって始めた会社だから、“ザ・起業ごっこ”ですよ。身銭をきってないもんだから、ダラダラと一連の業務をこなすだけ。だから当然、1年くらいで資本金も減ってくわけで。その時はさすがに人生で一番じゃないかなってくらい考えました。“このままでいいのか?” “俺に何ができるんだろう?” って。
決局辿り着いたのが、昔から好きなアパレルの世界。まわりからは、『今時アパレルなんて利益がでない』、『どうせまた遊びだろ』なんてことを散々言われたけど、やっていける自信だけはありました」
その“自信”はなにも、若さだけが武器でなんでも突っ走れる年齢だっただけではない。
10代の頃のこんな実体験が色濃く残っていたからだ。
「小中の頃は、通学路が表参道だったんですよ。いわゆる裏原ブームの全盛期に最も身近でそれを経験できたのが今の糧となってる部分が大きいと思います。色々な洋服屋をまわって買いまくったので、知識や感覚みたいなものは、人一倍備わっている自信があります」
さらにこんな幼少期の経験も関係する。
「母方の実家が小宮山書店(*神田神保町にあるアートに力を入れた老舗書店)を経営してるんです。小さい頃からよく通っていたし、お手伝いもしていました。中学の頃にはこのビルで生活もしていたんです」
感度を刺激する最も大切な時期に最高の場所で良質なアートに触れた経験が、彼に本物を見分ける高い審美眼をさずけ、やがて自信にも繋がった。
もちろん、それは現在のクリエイティビティの根元にもしっかりと植えつけられており、XXXのTシャツに入る《Ain't no fake. Ain't no parody. This is fxxxing ART》のフレーズが何よりも雄弁に物語っている。
裏原カルチャーから着想を得た“オンラインに並びを作る”ビジネス
時系列はブランド立ち上げ時に戻る。
「ちょうどその頃にインスタグラムが出始めたんです。学生の頃に遊んでた経験が生きたというか、周りには表に出る仕事や、それをサポートする関係の仕事をしてる人が結構多くて。そういった人たちに着てもらって、それをSNSで発信してくれたら売れるなって。Tシャツを150枚作って、50枚をあげて、残りの100枚を売れば必ず利益が出る」
ただネックだったのは、当時のNARIには、商品を売るためのプラットフォームが無いことだった。
「その頃の規模感だと、わざわざリスクを冒してまで店舗を構えることもない。だからオンラインストアといった選択肢しかなかったんです。でも、ただオンラインで販売しても勝算が無いことも分かってました」
思い悩む日々の中で、前述にもある10代の頃のこんな実体験が頭を過ぎった。
「昔の裏原ブーム全盛期の時は、お店の前に発売を待ち望んだ若者(自分も含め)が長蛇の列を作っていました。プロダクトの魅力だけでなく、そこに並ぶ行為自体にも付加価値が付いていたというか。あのワクワク感をなんとかウチの商品にも出せないだろうか? ってことを考えたんです」
そこでNARIが思いついたのは、人が並ぶ場所を “街からオンラインに変える” ストーリー。毎月、同じ日の同じ時間に売り出せば、“オンライン上に並びが出来る” といったビジネスモデルだ。
「そうなると発売日の設定は、多くの企業が給料日に設定する25日。だから、その少し前に友人にプレゼントしてインスタにアップをしてもらう。一番初めの発売日は、2013年5月25日でした」
目論見は見事に大成功。1stリリースのアイテムは1時間でソールドアウトを記録した。
彼が取り組んでいたのは、10代の頃に憧憬を抱いた原宿での原体験。ただ一つ違うのは、別空間を利用して、少しのスパイスを加えることで革新させることだった。
この “オンラインに並びを作る” といった取り組みが成功した影には、前述の要素だけでなく、さらにこんなギミックもあったのだとか。
「ボクたちは自分たちの存在をあえて隠したんです。オフィシャルのHPはもちろんだけど、どこにもXXXの詳しい詳細を掲載しなかったし、ファッション雑誌からのオファーも断ってました。だって、影響力のある人たちがSNSにどんどんアップするのに、気になった人たちがブランドの実態をつかめ無いのってなんだか面白いじゃないですか」
その頃のXXXといえば、まだ生まれたばかりで知名度も皆無に等しい。しかし、それを逆手に取り “存在を隠す” ことで謎めいたブランドとしてエクスクルーシブ感を高め、その反動が逆に存在価値を際立たせていった。
昨今、どの企業も活用するインフルエンサーマーケティングだが、NARIの面白いところは、そういったビジネス戦略にいち早く “商機” を見出し実践したこと。さらに、小難しいビジネス書などを一切見ることなく、世の中の潮流を肌でさりげなく感じ、ソレを偉ぶることなく軽やかにやってのけるところにあるのではないだろうか。
1枚、約13000円。高級路線のTシャツを作る理由
XXXのTシャツの特色といえば、ヘビーオンスでずっしりと肌に馴染む抜群の着心地と、1万円オーバーと少し高額とも思える値段設定。ファストファッションが全盛のこの時代になぜあえてこういったコンセプトを貫くのか。
「まずブランドを始めるならTシャツブランドにしたかった。Tシャツって、細身にも太めのデニムにも、ジャージにも短パンにも合うし、スーツの下にだって着る人がいる。年齢だって性別すら関係なく、幅広い人が着れるものじゃないですか。ただ、こういったポップなグラフィックを普通のありものボディに載っけても全然普通でよくあること。だけど、ポップなグラフィックを上質なオリジナルボディに載せたTシャツは、当時あまり見なかったんです。そこで、いいボディを追求していった結果、必然的に金額も上がっていきました。それがいつしか“高級志向のブランド”として浸透していっただけだと思う」
自分が見て、信じたものを貫く。クリエイターとしてのこだわりを高めていった結果、それがブランドの特色としてうまく機能していったと言う。
デジタル市場を生き抜くヒント!? 必ずスマホでプロダクトをチェック
デジタル市場で生き抜くひとつのヒントをくれた。
「いまって、良くも悪くも、携帯からインスタグラムをチェックして、アイテムが気に入れば、オンラインストアで商品を購入するってシステムが成り立っていますよね。だとすれば、“携帯を通してみたもの” 、 “携帯を通して伝わって来る何か” がちゃんとあるものが良い。だからボクは、Tシャツのサンプルが上がってくると、必ずそれを携帯で撮って、携帯で良い・悪いの判断をするんです。自分たちが作りたいものを作るのは最低条件。ただ自分たちの作りたいことだけを追求するのはどうでもいいことだと思う。お客さんが何を求めてるのかを考えるのも大切なことですから」
毎日、携帯のタッチスクリーンに流れる大量の情報の中で一体どんなものが目を惹くのか? 一歩下がって俯瞰で見る。そこから、お客さんがプロダクトを見て、手にした時の高揚感を想像する。
自分たちが生みだしたものを “どうだ” と押し付けて自己満足するのではなく、作り手とユーザーの調和が取れるアイテムを届ける。そんなユーザー目線にも立ったクリエイティブが大切なのではないかと話す。
デジタル市場を生き抜くヒント!? 必ずスマホでプロダクトをチェック
厳しく移り変わるトレンドの荒波の中を今後NARIはどう生き抜くのだろうか。
「確かにトレンドの移り変わりは激しいですけど、その時代に生まれてしまったんだからしょうがないですよね」、と早々に肩すかしを食らってしまう。
「5年前、その時の自分がたまたま出来るベストな選択がアパレルだっただけ。もちろん大好きなことだから、これからも続けていくのかもしれないけど、その中でこれ以上にやり甲斐を感じられるものが見つかれば、何の躊躇もなくそっちに移行すると思います。それは全然洋服じゃなくても問題ない。例えば焼肉屋だとか。大好きなことだったらなんでもいい」
確かに彼の言う通り、これだけ移り変わりの激しい時代だからこそ、ひとつの場所に止まっていては時代の波に翻弄されてしまう。常に環境に順応し、それに対応できる判断力を身に付けておく必要があるようだ。
最後にこうも語ってくれた。
「ビジネスのことを人に語れるほど、まだ何も分かってないけど、ボクが今までに感じたことは、“何が儲かるか” なんてことを考えるのではなく、“自分が好きなこと” を見つけること。そして、そこにお金と時間を自分の制限いっぱいまで惜しみなく注ぎ、それを得意分野として仕事に生かすことが大切なんじゃないかなって」
片意地張らずどこまでも自然体で物事を捉える宮﨑泰成。その感性は実に独特で面白い。
きっと、彼のクリエイティビティは、新しいスタンダードの構築となり、“これからの東京”(NEO TOKYO)を鮮やかに照らし出してくれるはずだ。
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