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『FIFA』Ultimate Teamが圧倒的人気を誇る理由
『FIFA』シリーズの人気課金モードが他の追随を寄せ付けない理由を探っていく。
好き嫌いは別として、『FIFA』シリーズのUltimate Team(以下FUT)はスポーツゲームにおけるマイクロトランザクション(少額課金)の最高峰と言える。FUTはデジタルカードアルバムを非常に中毒的なゲームモードに変えており、Valveのあの「帽子商売」(『Team Fortress 2』の課金ビジネス)に恥をかかせた。こうして世界中のプレイヤーを虜にしたFUTが当初はDLCとしてリリースされたという事実は意外だが、現在は毎年リリースされる『FIFA』シリーズのセンターを務めており、その快進撃を支えている。
このモードが他の追随を許していない理由はシンプルで、つまり、単純に「素晴らしい」のだ。『FIFA14』時代でさえも、1時間半の間に約50万のマッチがプレイされていた。
しかし、客観的に見てみると、このFUTというモードには、他のスポーツゲームが学べる部分が沢山ある。このモードは「プレイをやめたくない」と思わせるために、ありとあらゆる角度から考察されて作られている。魔法とまでは言わないが、スポーツゲームというジャンルがかつて夢にも思わなかった、「ゲームのライフサイクルを1周する」を可能にしている点は称賛に値する。
革新・開発・コミュニティ
新作が次々と投入されている中でも、プレイヤーが毎日FUTをプレイしているという事実は、その人気とクオリティの高さの裏付けと言える。開発を担当したEA Canadaは定期的なアップデートを通じてこのゲームをフレッシュに保ち続けている。例えば、シーズン開幕直後に誰もが欲しがるメッシのカードを引き当てたとしても、年間最優秀チームのメッシは恐らく手に入れていないはずだ。
また、最近はEA独自のポストシーズンの賞、「FUTTIES」も用意されており、各部門の年間最優秀選手をユーザーが投票できるようになっている。これは素晴らしいアイディアで、現実世界のサッカーシーズンが終わっても、FUTのプレイヤーたちは自分たちの好きなゲームに携わり続けることができる。例えばプレミアリーグファンなら、タックル部門でリー・カッターモールに投票したくなるだろう。
これらの試みは特に若いプレイヤーたちと上手く噛み合っている。若いプレイヤーたちはFUTに上手く順応しながら、このゲームの新たな用語や言語を生み出している。例えば、「Packed」という単語はもはや休日前の「準備(Packing)」だけを意味するものではない。FUTでは、最近開封したカードパックに入っていたプレイヤーの前につける形容詞として機能している(例:Packed Messi=パックに入っていたメッシ)。このようなインタラクティブな動きは世界各地で非常に活発で、これがFUTの成功の一翼を担っている。そして、このような若いプレイヤーたちは、誕生日プレゼントにFIFAポイントを希望するような層で、彼らは自分たちのお気に入りのYouTuberたちが公開しているように、自分たちもすぐにパックを開封したいのだ。
YouTubeと若い世代
この若いプレイヤーたちは、新しいメディアのヘビーユーザー世代でもある。彼らは常にタブレットやスマートフォンを開いては、パック開封の動画をチェックしているが、この点についてはEAも賢く立ち回っている。彼らはこの世代がYouTubeを頻繁に視聴していることを把握しており、人気のYouTuberたちにリリース前の情報を公開している。ちなみに『ウイイレ2015』ではMyClubが好評だったが、Konamiは人気セレブをリリース時に取り込むことで、世間に向けた大きなアピールを成功させた。毎年喜んでいるのはハードコアなファンだけではないという訳だ。
MattHDGamerのYouTubeチャンネルは150万人の登録者がいるが、このチャンネルはほぼFUT関連動画だけだ。しかし、彼は現実世界のサッカーの移籍の可能性や噂に触れる際もFUTのカードを使っている。EAも、かつてこのゲームの公式アンバサダーだったKSIをはじめとするYouTuberの囲い込みを行っている、また、460万人の視聴者数を誇るW2Sもいる。この市場は拡大を続けており、FUTはもはやこのために存在しているようにさえ思える。パック開封動画は世界各地でアップロードされており、EAは無料パックを随時リリースすることで、他のプレイヤーの参加も煽っている。EAによるYouTubeの価値の理解は、『FIFA』シリーズ、特にFUTの成功の大きな要因だ。
オークションとEAの取り締まり
これは今に始まった動きではないが、近年のFUTのオークションは熱狂的なファンではないライトユーザーが簡単にトッププレイヤーを手に入れるチャンスを提供している。FUT版ヤフオクと言えるこのオークションでは、ガレス・ベイルのカードの入札は不可能に見えたため、多くのプレイヤーが彼のカードを獲得するためだけにひたすらコインを購入しようとする事態となった。EAはこの動きを見ていたようで、選手の相場を設定。悪意のある価格設定(異常に高額/低額)を禁止した。これはプレイヤーのコレクター魂にも影響を与え、パニーニ社のステッカーアルバム(日本でいうプロ野球カード)のコレクションのような動きになった。
最初は手探り状態だったが、時間経過と共にプレイヤーたちの(価格設定における)アイディアが出尽くすとオークション市場は落ち着きを見せるようになり、EAによる変更がプレイヤー同士の格差をなくすことになったが、レアな選手の価値は更に高くなった。今やこのようなレアな選手はまず見かけない。何故なら、誰も売り出していないからだ。大量のコインや現金を持っている人でさえも入手できるかは分からない。
この変更が与えたインパクトの大きさは無視できない。このような変更を行った他のデベロッパーはいないからだ。ほとんどのパブリッシャーはゲームをリリースすると、その後半年は何も動かない。よって、このアップデートはコミュニティに大きなインパクトを与えた。このアップデートはEAがFUTの価値を理解していたから行われたものだが、それよりも重要なのは、彼らがエンドユーザーの重要性を理解しているという点だ。
更に、アプリ版が存在するため、このゲームの動向は常に追えるようになっている。アプリ自体は年月をかけて何回か変更が加えられているが(デザイン面、そしてサーバーとの接続が改善された)、このような変更は、EAがプレイヤーをケアしている証拠だ。プレイヤーをゲーム内に留まらせておくことは、彼らの興味を引くためには非常に重要で、電車やトイレの中は勿論、仕事中でもこっそり売買ができるというのは、他のゲームも真似すべき大きな特徴だろう。Android版だけでも370万人が使用しているため、アプリは『FIFA』に本気で対抗しようとしているライバルゲームなら無視できないフィールドだ。
使えるものはすべて使う
『FIFA』のライセンスと、登場する選手たちのルックスのリアルさをあえて褒めるのはやや不公平に感じるかも知れないが、いずれにせよ彼らはそこにあぐらをかいている訳ではない。彼らは新しい挑戦のひとつとして、レジェンドを導入している。現時点ではXbox 360/Xbox One独占の機能だが、ペレなどのカードを獲得できれば、プレイヤーは自分のサッカー愛を示せるという訳だ。
しかし、それよりも触れておくべき特徴は、ローンで選手が獲得できるようになっているという点だろう。『FIFA』では「もし誰かに自分の商品を買ってもらいたいのであれば、まず無料で試してもらわなければならない」という一般常識が用いられている。新たにFUTを始める際にC・ロナウドを数試合起用できるようになっているが、これはプレイヤーにとっては最高の「お試し」である一方で、最悪の「お試し」でもある。何故なら、彼がどれだけチームに貢献できるかを理解できる一方で、実際は数多くの試合をプレイしてコインを集めなければ彼のカードは獲得できないからだ。しかしEAは、獲得に必要なだけのコインを稼げるだけの試合数をこなす時間がない人のために、現金で買えるパックを用意している。この点については、色々と文句がある人もいるだろうが、このビジネスモデルは機能している。というのも、プレイヤーはパックにおける特定の選手の出現率を知ることができない上に、そのパックのC・ロナウドを実際に所有している他のプレイヤーの数も分からないからだ。
『FIFA』をEAの他の人気シリーズと比較してみよう。『Tiger Woods PGA Tour』は現在『Rory McIlroy PGA Tour』となっているが、その切り替えに2年のブランクがあったにも関わらず、後者の内容は薄く、殆ど話題にならなかった。しかし、EA Canadaは他の開発スタジオとは違い、ファンを軽く扱っていない。むしろ、てこ入れの必要な他のタイトルにFUTが流用されていないのは不思議にさえ思える。『NBA Live』にUltimate Teamモードや、レジェンドが組み込まれたら、自分のチームにマイケル・ジョーダンを加えたくない人などいないだろう。
価値の理解
FUTは『FIFA』の人気モードだ。DLCとして扱われていた時代はとうの昔に過ぎ去っており、EAはこのモードを丁寧に扱うことで、その価値を理解していることを証明している。プレイヤーはUltimate Editionをプレオーダーすれば、毎週1パックが手に入る。毎週パックを開封する楽しみが保証されるのだから、多少の追加料金を払う人の数は多いはずだ。
EAさえ望めば、Ultimate Teamは単体製品としてリリースすることも可能だろう。EAは課金制の無料ゲームが上手く機能することを熟知している。確かにPC版『FIFA WORLD』は、コインや課金、そしてパックが重要だという点をEAが理解していることを証明する面白い実験だった。現在はこのタイトルはゲームエンジンのアップデート中だが、MODやアーリーアクセス、そしてMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ。基本無料プレイが機能しているジャンル)など、PC発のモードや機能が既にお茶の間に進出していることを考えれば、この無料プレイのPC版が家庭用ゲーム機版としてリリースされる日もそう遠くないはずだ。
現時点で『FIFA』に敵う他のスポーツゲームはないが、『FIFA』から学ぶことはできる。継続的なサポート、ファンへのリスペクト、そして革新が彼らの成功の三本柱だ。『F1 2015』(これも次世代機対応でリリースされたゲームだが、内容が薄い)などとは違い、『FIFA』は価格に見合った内容だと感じられるゲームだ。他のゲームもこのゲームを見習ってあとに続いて欲しい。