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フェンシング
フェンシングとは?:発祥・歴史・種目・用具・ルール・基本テクニック
数百年前から人間のスピード、精度、知性を試してきた剣術から派生したモダンスポーツについて簡単に解説しよう!
フェンシングは、自分と剣、そして勝負がすべてだ。オリンピックメダリストのマイルス・チャムリー=ワトソンは、このスポーツを愛する大きな理由のひとつにこの極限のフォーカスを挙げている。
チャムリー=ワトソンは「私がフェンシングを愛する理由は、自分と相手だけというプライベート感です。自分を邪魔するものはなにもない。ここに私は惹かれました」と語っている。
フェンシングは豊かな歴史を備えているスポーツで、戦場に向けた剣術練習として始まったあと、現在では世界で大きな盛り上がりを見せるスポーツへと進化した。今回はフェンシングに興味を持ち始めている人に向けて、この伝統のスポーツの簡単なガイドを用意した。
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フェンシングとは?
フェンシングとは数世紀の歴史を誇るスポーツだ。剣術にスポットライトを当てており、アスリート2人が防具と細身の剣を携えて戦う。反射神経、バランス、戦術を競い合いながら、15ポイントを先取したアスリートが勝者となる。
フェンシングの歴史は14〜15世紀のヨーロッパまで遡ることができる。この頃のフェンシングは軍隊の剣術練習だった。フェンシングの “自己防衛手段” から “娯楽” への転向は、イタリア人アスリートのドミニコ・アンジェロが1760年代にフェンシングアカデミーを創設したことがきっかけとなった。
その後、競技大会が開催されるようになり、フェンシングは世界各地で有名な大会が開催されるトップスポーツのひとつへと成長した。ポップカルチャーでも頻繁に描かれるようになり、映画『アダムス・ファミリー』のゴメス・アダムスやテレビ番組『ギルモア・ガールズ』などのメディア作品で確認することができる。
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スポーツとしての発展
フェンシングは進化を重ねていく中で、軍隊の剣術練習から世界的に有名なスポーツへ姿を変えていった。世界初のフェンシング大会は、1880年の第1回 “Grand Military Tournament and Assault at Arms” の一部として開催された。そして、それからわずか20年以内に、フェンシングはいくつかの世界的に有名なスポーツイベントにフィーチャーされるスポーツとなった。
現在、フェンシングの国際組織、国際フェンシング連盟(FIE)の主催でフェンシング世界選手権が開催されている。また、FIEに参加している各国のフェンシング協会によってフェンシング世界選手権に繋がる国内大会・選手権を開催しており、たとえば、米国フェンシング協会はNorth American Cupを開催している。
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3種類のフェンシング
1:競技フェンシング
競技フェンシング(スポーツフェンシング)は3種目に分かれている。それぞれの大きな違いとなっているのが、剣の種類とポイントに関するルールだ。以下に3種目を紹介しよう。
- フルーレ:競技フェンシングの中で最も良く知られているのがフルーレだろう。軽量な剣を使用し、ランジの姿勢で前方へ踏み出す攻撃によって対戦相手の胴体に当てることができればポイントになる。剣が細いため、剣をしならせた攻防が見られる。
- エペ:フルーレとは異なり重量のある剣が使用されるため、剣をしならせる攻防は見られない。この競技では対戦相手のどこか(および剣の内側)に当てることができればポイントになる。
- サーブル:上記2種目とは異なり、サーブルでは剣先だけではなく剣の全面を使用するため、斬ることでもポイントが獲得できる。両手を除いた腰から上すべてがポイントの対象となる。
2:伝統的フェンシング
一部のフェンサーは剣術のルーツに忠実なフェンシングを楽しんでいる。
- クラシック:このタイプのフェンシングは19〜20世紀のフェンシングを目指している。競技と同じくフルーレ、エペ、サーブルの3種類を使用するが、攻撃方法がより細かく指定されている。クラシックフェンシングはスポーツというよりもパフォーマンス(演武)に近い。
- ヒストリカル・ヨーロピアン・マーシャルアーツ(HEMA):HEMAは中世およびルネッサンス期の様々な剣術をカバーしている。このタイプには、バックラーや英国軍制式サーベル、長剣を含む様々な武器の扱いを学びたい人たちも参加している。
3:娯楽としてのフェンシング
フェンシングは競技がすべてではない。このスポーツは剣術に興味を持ったことがある人全員にとって素晴らしい娯楽になる。また、フェンシングは優秀な有酸素運動でもある。趣味として楽しむ、ダイエット目的で取り組むを問わず、世界各地に様々なクラブや団体が存在する。
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用具・得点・ルール
剣
フェンシング用の剣はすべて柔軟な低炭素鉱製で、怪我を防ぐために剣先は丸められている。3種目の大きな違いにもなっている。
- フルーレ:フェンシング用の剣と言われて多くの人が思い浮かべるのがこの剣だろう。重量わずか450g強のフルーレは最軽量で打突に適している。持ち手付近に小型のガードが付いている。
- エペ:フルーレに似ているエペの剣も打突に適しているが、フルーレよりも重い。また、エペでは手への突きもポイントになるため、ガードもフルーレより大きくなっている。
- サーブル:サーブルの剣はフルーレと同程度の重さだが、斬りと突きの両方に適している。また、横方向からの斬りから手を守るために持ち手を覆うガードも付いている。
防具
フェンシングでは防具の装着が不可欠だ。すべての大会やイベントでは以下の防具を装着することが義務づけられている。
- マスク:ステンレスあるいは炭素鋼製のメッシュ(網)が前面に付けられており、内側のパッドは取り外して洗えるようになっているフェンシング用マスクには厳しいレギュレーションが設けられている。FIEの公式大会・イベントで着用されるマスクは12kgの貫通テストを通過したものでなければならない。
- ビブ(バヴェット):マスクの首部分にはケブラーまたは合成繊維製のビブが付けられており、1600ニュートンの貫通に耐えられる必要がある。
- プロテクター:フェンサーはケブラーと綿またはナイロンの混紡プロテクターを着用する。プロテクターの下に腕や脚を守るためのユニフォームを着用する。
- グローブ:フェンサーは剣を持つ手にジャケットと同じような混紡製のグローブを着用する。
得点方法
フェンシングでは、対戦相手に触れるたびに1ポイント獲得できる。接触を判断するために、フェンサーは各種防具に加えて、競技種目別に通電するメタルジャケットを着用する。また、フェンサーは剣にコードを接続しており、剣が対戦相手に接触すると電気審判機にポイントが加算される。
ルール
フェンシングの試合は1ラウンド3分の3ラウンド制で、15ポイントを先取したフェンサーが勝利する。3ラウンド終了後、両フェンサーが15ポイントを獲得できていない場合は、より多くのポイントを獲得しているフェンサーが勝者となる。団体戦では3人1チーム同士で対戦する。9試合で45ポイント先取したチームが勝者となる。
フェンサーは対戦相手の特定のエリアに触れることでポイントを獲得できる。また、フェンサーはポイントを失う可能性もある。たとえば、試合開始・終了時に対戦相手と審判に挨拶をしない、スタンスを間違える、ポイント対象エリアを手で防ぐなどは失点の対象となる。
また、種目ごとのルールも設定されており、たとえば、フルーレでは、どちらかがポイント対象エリア外に接触した場合は、試合を一度止める必要がある。
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基本テクニック
初心者としてフェンシングの基本を学びたいなら、以下の基本テクニックを学ぶところから始めるのが良いだろう。
2分
The sport of Fencing is lightning fast
The sport of Fencing is lightning fast
1:フェンシングではフットワークが不可欠だ。剣さばきを学ぶことも重要だが、素早く動けるようになることも同じくらい重要とされる。フェンシングでは左右ではなく前後に動く必要がある。また、足を置く位置が決まっており、前足は前方を向き、後足は90度開く必要がある。初心者はこのスタンスをキープしたまま前後に素早く動く練習を重ねていこう。
2:剣で相手に触れようとするときは、剣を動かす前に触れたい位置にフォーカスしよう。突いたり、斬ったりする前にどこを突きたいのか、どこを斬りたいのかを決めておく必要がある。地味だが重要なこの意識の練習を重ねれば、狙い澄ませた攻撃がより自然に繰り出せるようになる。
3:剣の精度を高めるためには手首が非常に重要だ。肩や上腕から動かしてしまうとモーションが大きくなりすぎて攻撃を当てるのが難しくなる。剣の精度を高めたいなら、腕を動かさずに手首から先で剣を動かせるようになろう。
06
フェンシングは由緒あるスポーツ
フェンシングは数百年前から人間のスピード、精度、知性に挑んできた。このスポーツの種目の多くは長い時間をかけて私たちが知っている今の形へと変容してきた。この長い歴史を誇るスポーツに取り組めば、様々なフィジカルスキルとメンタルスキルを磨けるはずだ。
チャムリー=ワトソンが言っているように、剣を抜き、攻撃が初めてヒットすれば、新たな世界が開けるような素晴らしい感覚が得られるだろう。
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