『Dota 2』シーンのアイコン、Sébastien 'Ceb' Debs
© Red Bull
eスポーツ

OG Ceb:『Dota 2』の “復活王” を知る

『Dota 2』シーンで最もアイコニックなプレイヤーのひとり、Sébastien 'Ceb' Debsのキャリアと成功、現役引退から復帰までを追っていく。
Written by Miri Teixiera
読み終わるまで:9分Published on
チームeスポーツシーンでひとりのプレイヤーがどれだけ大きなインパクトを残せるだろうか? 
Sébastien “Ceb” Debsの素晴らしいキャリアをフォローしてきた『Dota 2』ファンなら、誇張することなくこの質問に回答するのは難しいだろう。世界中から愛されてきたこのOGのオフレーナーは史上初の【The International】連覇に貢献しただけではなく、近年は “復活王” としてさらなる活躍を見せている。
eスポーツシーンでレジェンド級のステータスを得ているeスポーツプレイヤーは数少ないが、Cebは世界中のeスポーツプレイヤーたちからある種の畏怖の念とともに高く評価されている。
10年以上に渡り自分とチームにeスポーツシーンでの名声を与えることになる試練と苦難に満ちた2011年から続くキャリアから最近のOGでの将来有望なタレントの指導・育成までが含まれるCebの人生はひとつの成功で簡単に定義することはできない。
最近、Cebは再び現役復帰してOGのアクティブロースターとしてメインステージへ戻った。結果、昨年は彼の名前をあらゆるところで再び見かけるようになったが、彼の壮大なストーリーを少しでも逃している人のために、彼のカラフルでアップダウンに満ちたキャリアを紐解く新作ドキュメンタリー『CEB: A Major Comeback』Red Bull TVで公開された(英語音声)。
『CEB: A Major Comeback』を視聴したあと、彼のさらなるストーリーを読み進めてもらいたい。

1 時間24 分

CEB: A Major Comeback

Dota 2 player Sébastien Debs returns from retirement to help his team win at an ESL One Stockholm Major.

英語 +8

Cebとは一体何者なのか? まずはその始まりから見ていこう…。
01

2011-2018:初期の成功、そしてOGヘ

Cebのキャリアは2011年Team Shakiraから始まった。当時は7ckingMadというゲーマータグで活動していた彼は、Western Wolvesへの短期移籍を経て、Mortal Teamworkへ移籍する。
その後、Mortal TeamworkとCebは実力を発揮し、The International 2012のWest Qualifier FinalsでライバルのNEXT.kzに勝利して同トーナメントの優勝候補に数えられた。しかし残念ながら、多くの若いeスポーツチームと同じくMortal Teamworkも空中分解してしまい、Cebはロースターを一新したTeam Shakiraに再び所属することになった。
プレイヤーとロースターが数回変更されたあと、Team Shakiraはいくつかのスリリングな勝利と残念な敗退を経験。その後、複数の統合を経てチーム名がDD.Dotaに短期間変更されると、続いてSigmaへ再変更された。Cebのキャリア前半の成功の多くが記録されたのがこのSigma時代だった。
そしてSigmaを去り、少し違ったロール(上海で開催されたMajorでのアナリスト)を経験したあと、CebはOG Esportsのチームコーチに就任する。突然、Cebは自信を見出し、世界から注目されるようになった。彼のコーチングと鼓舞はチームを高みへと押し上げ、彼らはフランクフルト、マニラ、ボストン、キーウのMajorで圧倒的な強さで優勝を記録した。
しかし、The International 2018の直前、OGのロースターが崩壊してしまう。主力のGustav “s4” MagnussonTal “Fly” Aizikが移籍し、チームは突如として彼らの穴を埋めなければならなくなったのだ…。
OG加入以来、Cebはこのチームの代名詞となっている

OG加入以来、Cebはこのチームの代名詞となっている

© Red Bull

02

2018-2020:OGとThe Internationalでの成功

コーチに就任した2016年以降はプレイを完全に止めていたにもかかわらず、CebはThe International 2018で公式戦に復帰した。バンクーバーで開催されたこのトーナメント(略称 “TI8”)は賞金総額2,530万ドルが用意された当時世界最大のeスポーツイベントで、全世界が注目していた。
このトーナメントにオープン予選から参加しなければならなかったOGの序盤は不安定だったが、メインイベントでは時間とともに強さを発揮するようになり、グランドファイナルでPSG.LGDに勝利を収め、TI初優勝を記録した。
そして翌年、TI8を上回る賞金と規模を誇っていたTI9が開催されると、OGはCebを再びオフレーンに据えて出場した。自信を深化させていたこのチームは、最高のロースターを備えていたこともあり、難なくグループステージを首位で通過すると、メインイベントでも容赦ないプレイを見せ続けた。
あるトーナメントの前に目覚ましが鳴ってそれを止めた自分がいました。そのときに “ちょっと待ってくれ。僕はどうなってしまったんだ?” と思ったのです
Sébastien “Ceb” Debs
こうして、OGはThe International史上初・唯一の “連覇を達成したチーム” となり、出場していたCebは「できないことはない」という感覚を得るようになった。
Cebの情熱の炎は燃えさかり、彼のモチベーションはまるでスーパーパワーのようで、日々成長したいと思わせ、プレイを重ねさせ、彼にハードにトライさせた。この勢いはまるで永遠に続くように思えたが、すべてのOGファンにとって大きなショックになる重大発表がなされたのだった。
Cebをオフレーナーに据えたOGは史上初のTI連覇を達成

Cebをオフレーナーに据えたOGは史上初のTI連覇を達成

© Red Bull

03

現役引退

長年の夢といくつかの大きな目標を実現したあとも情熱を燃やし続けるにはどうしたら良いのだろうか? そこからどこへ向かえば良いのだろうか? 
Cebのキャリアは良い悪い両方のいくつかの強烈な瞬間に満ちていたが、その超絶なスピードは落ち始めていた。彼は大きな成功を手に入れていたが、同時に10年にも渡って自分の愛するゲームをフルタイムの仕事として扱っていた。当然ながら、輝きは失われつつあり、燃え尽き症候群が彼を襲うようになっていた。
Cebはチームとファンに向けて、愛する『Dota 2』をただの生活の手段にまで落とすつもりはないことを明言した。身を引くときが来たのだ。彼は次のように語っていた。
「すべてが変わってしまったと思える日がありました」
「普段ならトーナメントや大規模なLANイベント、MajorやTIの直前は世界最強のプレイヤーたちがそこに集まることを意識します。ですので、目覚ましが鳴る2時間前に目が覚めてしまい、寝直すのに苦しんでいました。脳がフル回転していたのです」
「ですが、あるトーナメントの直前に目覚ましが鳴り、それを止めた自分がいました。そのときに “ちょっと待ってくれ。僕はどうなってしまったんだ?” と思いました。完全に異なる感覚で、正常ではありませんでした」
CebとN0tailはあらゆる経験を共にしてきた

CebとN0tailはあらゆる経験を共にしてきた

© Red Bull

またCebは、長年付き合っていたガールフレンドを含む様々な人間関係にも支障が出てきていることと自分が普通の生活を送れなくなっていることにも気付いていた。Cebにとって、『Dota 2』へ払った犠牲はもう十分だった。そして彼はOGを通じて第一線から身を引くことを発表したのだった。そのメッセージは次のように書かれていた。
「僕たちは格下としても、優勝候補としてもプレイしてきました。将来有望なチームのハングリー精神と情熱、そしてディフェンディングチャンピオンの自信と対峙してきました。僕たちは『Dota 2』の競技シーンが備えているほとんどすべてを経験したのです」
04

『Dota 2』ムズムズ

友人であり、同僚であり、相談相手でもあるJohan “N0tail” Sundsteinもプロフェッショナルなeスポーツアリーナから去り、以前からやりたかったこと – サーフィン、ガーデニング、パラグライディング – に囲まれた生活を送っていたが、彼はCebが自分と同じような生活を送れていないことに気付いていた。
プロプレイヤーとして『Dota 2』をプレイすることが大半を占めていた生活から離れたかったにもかかわらず、Cebの中にはまだ戦う気持ちが残っていた。CebにはN0tailが言うところの、アリーナへ戻りたい “ムズムズ” があったのだ。
この頃までに、Cebが愛するOGはかなり異なったチームになっていた。ロースターを総入れ替えした新生OGには、2人の16歳が加わっていた。最新ドキュメンタリーでも描かれているが、この新生ロースターは大きなリスクであり、結成当初はファンからかなり不安視されていた。
僕たちは将来有望なチームのハングリー精神と情熱、そしてディフェンディングチャンピオンの自信と対峙してきました
Sébastien “Ceb” Debs
パンデミックによる2年間の中断のあと、2022年に開催されたStockholm ESL Majorは2年ぶりのシーン再開を告げるファン待望のオフライントーナメントになることが予想されていた。新生OGにはまだ証明すべきことが数多くあり、オフライントーナメントデビューとなったこのトーナメントは最大の賭けだった。
そして残念なことに、OGはさらなる変化に襲われることになる。キャプテンのMikhail “Misha” AgatovとコーチのEvgenii “Chuvash” Makarovが参加できなくなってしまったのだ。そこで、N0tailが臨時コーチに就任し、Cebがロースターへ復帰することになった。
Cebのキャリアは興奮と変化に満ちている

Cebのキャリアは興奮と変化に満ちている

© Red Bull

05

Cebのメジャー復帰

Cebがチームに復帰して若手プレイヤーたちを鼓舞し、それまで見られなかったプレイをするように仕向けたことで、チームは自信を深めていった。OGはグループステージで勢いを得て2位でグループを突破すると、エナジーに溢れた状態でメインイベントへ進出した。
プレイオフで一瞬勢いを削がれ、敗退の危機も経験したもののOGは戦いを続け、そのあとは1ゲームを落としただけでグランドファイナルへ進出した。
Cebの現役復帰はシーンを驚かせた

Cebの現役復帰はシーンを驚かせた

© Red Bull

新生OGはベテラン2人の指導を受けながらすべてのミスから学んでいった。そしてCebのユニークでアグレッシブなプレイスタイルがチームにアドバンテージを与えていた。レジェンドがチームにいれば、イベントを制圧できる選択肢が増える。そしてすぐにOGはグランドファイナルでSoloMid戦を迎えることになった。
OGファンからさえも冷笑と疑念を向けられていたこの驚きのロースターは、最初のMajorファイナルで自分たちの実力を存分に発揮し、このトーナメントを制してトロフィーを掲げた。レジェンドプレイヤーCebの影響力、そして新生ロースターの柔軟性ハードワークが世界を驚かせる結果を導き出したのだった。
Cebのキャリアは興奮とドラマ、そしておそらく記事1本では書き尽くせないディテールに満ちている。ドキュメンタリーを併せて視聴して、若きフランス人プレイヤーが『Dota 2』のレジェンドプレイヤーになるまでの道のりをさらに詳しく学んでもらいたい。
Red Bull TVのアプリをダウンロードして、世界中のeスポーツアクションをチェック! ダウンロードはこちら>>

関連コンテンツ

CEB: A Major Comeback

Dota 2 player Sébastien Debs returns from retirement to help his team win at an ESL One Stockholm Major.

1 時間24 分
映像を観る