© Scott Palmer / Red Bull Content Pool
ウイングスーツ
【ウイングスーツとは?】リアル鳥人間の基礎知識を学ぶ
新宿の上空を高速滑空するビッグプロジェクト【Tokyo Dive】で大きな話題となった “ウイングスーツ” は、どのような仕組みで空を飛んでいるのか? その誕生の背景も含めて詳しく解説する。
ギリシャ神話に登場するイカロスからレオナルド・ダ・ヴィンチの空飛ぶ機械まで、“鳥のように空を飛びたい” というアイディアは人類にとって見果てぬ夢であり続けてきた。そして今日、この夢はウイングスーツによって具現化されている。
自然の法則に逆らっているように見えるウイングスーツは、近年のエクストリームスポーツにおいて最もポピュラーかつスリリングなカテゴリーのひとつとなっている。ウイングスーツではパーフェクトなボディコントロールとバランスが要求されるが、その代わりに究極のアドレナリンラッシュが得られる。
ウイングスーツの目的は大空へ舞い上がり、【Tokyo Dive】のフレッド・フーゲンのように時速200kmを超えるスピードで鳥(あるいはジェット機)のように飛行することにある。
では、ウイングスーツはどのような経緯で発明され、どのように使用されるのだろうか? また、ウイングスーツはどのような仕組みで空を飛んでいるのだろうか?
01
ウイングスーツフライトとは?
ウイングスーツフライトは世界最高クラスのエクストリームスカイスポーツだ。ウイングスーツを着用できるようになるまでは、最低500回のスカイダイビングを完了しなければならないとされている。簡潔に言えば、ウイングスーツフライトはスカイダイビングの形式のひとつだ。
5分
夜のサンパウロをウイングスーツフライト!
02
ウイングスーツの歴史
ウイングスーツの歴史は20世紀初頭まで遡ることができる。1912年にフランスの仕立て職人フランツ・ライヒェルトが自ら考案したパラシュートとウイングを組み合わせた外套でエッフェル塔からのジャンプを試みた。結果は失敗に終わったが、これが人類最初の飛行実験のひとつとされている。
人類初のウイングスーツは1930年に誕生し、これを皮切りに様々な形式のウイングスーツが登場することになる。しかし、最初期のウイングスーツにはあるひとつの共通点があった。それは極めて危険で、数多くの命が失われたということだ。
その後、1990年にフランス人スカイダイバーのパトリック・ド・ガヤルドンがより安全性を高めたメンブレイン(膜)構造のウイングスーツを考案した。
初の商用ウイングスーツを開発したのはフィンランド人ヤリ・クオスマとクロアチア人ロバート・ペツニクで、これがスポーツとしてのウイングスーツの実質的な誕生となった。クオスマとペツニクはウイングスーツの訓練プログラムも手がけ、それまでの「ウイングスーツ=危険」というイメージを変えるためのキャンペーンを展開した。
03
ウイングスーツの仕組み
ウイングスーツフライトには2つの基本要素が必要になる。ウイングスーツとパラシュートだ。
ウイングスーツの目的は垂直方向の自由落下を水平方向の滑空に転換することにあり、ジャンプ後半で登場するパラシュートは安全に地上へ着地するために使用される。
ウイングスーツには多種多様なデザインが存在するが、それらはすべて一連の原則に準拠している。ジャンプスーツはナイロン製(あるいはそれに準ずる高耐久性素材)で計3枚のウイングを備えている。ウイング2枚は腕と胴体の間に張られ、残り1枚は両脚の間に張られている。
ウイングスーツの基本原理は揚力の発生と垂直落下から水平移動への転換だ。ウイングスーツの形状とデザインは強大な揚力の発生を可能にしており、降下速度を落として水平方向の滑空運動に転換する。ウイングスーツパイロットはウイングスーツのアングルと形状を変化させて滑空の方向とスピードをコントロールする。
しかし、留意すべき重要な点は、ウイングスーツには飛行機のように上昇できる揚力が備わっていないことだ。その代わり、パイロットは水平方向に高速滑空できる。安全に地上へ着地するためにはパラシュートが必要だ。
04
ウイングスーツフライトのプロセス
次にウイングスーツフライトの手順を解説していこう。
《ジャンプオフ》
ウイングスーツフライトでテイクオフできるロケーションには以下の3つの候補がある。
- 定置物からのテイクオフ:山岳や建造物など
- 航空機からのテイクオフ:飛行機・熱気球・ヘリコプターなど
- ベースジャンプ:建造物・橋梁あるいは同様の構造物
フライトのロケーションによって、パイロットはジャンプの瞬間から様々なテクニックを駆使しなければならない。パーフェクトなフライトを実現するには、あらゆるフライトテクニックのマスターが不可欠だ。
《フライト》
ウイングスーツの機能は、身体の表面積を最大化して垂直落下への抗力を増加させつつ大きな水平変位を可能にすることにある。ウイングスーツフライトでは、背中、肩、臀部、両腕を含む全身の精確な協調が要求される。経験豊富なウイングスーツパイトットなら垂直落下1mごとに水平方向へ最長3m進むことができる。
《着地》
存分にアドレナリンを味わったあとは、どんなウイングスーツフライトも終わりを迎える。
察しの通り、ウイングスーツ単体での減速は困難なため、もうひとつの要素が必要になる。フライトが終わりに差しかかると、パイロットはパラシュートを作動させる。パラシュートを作動させれば、パイロットは地上へ向かって悠々と滑空できるようになる。
ウイングスーツフライトは、安全性・天候・計画性が重要な役割を担う危険度の高いカテゴリーです
《フライトプラン》
ウイングスーツフライトにおける最重要ステップのひとつは “準備” だ。ウイングスーツフライトは、安全性・天候・計画性が重要な役割を担う危険度の高いカテゴリーだ。
スペイン人ウイングスーツパイロットのダニ・ロマンは、フライト前に必ずスケッチを描くようにしている。ロマンはその理由を次のように説明する。
「すべてをスケッチとして描くことで自信が得られます。正確な高度や水平距離、パラシュートを開くタイミングなどを把握しておくことは安全にフライトを行うための最重要要素です。スケッチはすべてを視覚化するためのシンプルな手段なのです」
05
ウイングスーツの様々な記録
空・地上・水中を含むすべてのエクストリームスポーツにおいて、ナンバーワンになることはアスリートたちにとって最も魅力的な目標のひとつだ。ウイングスーツでもすでに無数の記録が残されている。その中でも最も驚異的な記録をいくつか紹介しよう。
- 最高地点ジャンプ(ベースジャンプ):2016年10月5日、ヴァレリー・ロゾフ(ロシア)がネパールとチベットの国境付近にあるチョ・オユーの標高7,700m地点からベースジャンプを記録。
- 最長時間フライト:2012年4月20日、ヨナタン・フロレス(コロンビア)がパラシュート作動まで9分6秒のウイングスーツフライトを達成。
- 最高速度:フレーザー・コルサン(英国)が機械的な補助を使用しないフライトでは人類最高速度となる400km/hに到達。正確には、コルサンはFAI(国際航空連盟)のルールに適合しないジャンプ中に396.88km/hを記録した。
- 最長距離フライト:カイル・ロブプリエ(米国)が32,094mをフライトした。
- 最小目標物(ベースジャンプ):パット・ウォーカー(米国)が地上から4.5mの高さに設置された2.88mの布の上への着地を成功させた。
- 記録的フライト:ダニ・ロマン(スペイン)がスペインのプエンテ・ヌエボ橋の下で約300km/hの高速ウイングスーツフライトに成功した。
▶︎RedBull.comでは世界から発信される記事を毎週更新中! トップページからチェック!