WRCに詳しくなくてもラリー・モンテカルロの名前は聞いたことがあるだろう。
ラリー・モンテカルロはモナコとフレンチ・リヴィエラの公道を舞台に開催されている100年以上の歴史を誇るクラシックラリーだ。今年も1月末にWRC 2020シーズンに参戦するコンペティターたちが同ラリー名物の峠道に集い、新シーズンが華々しく幕を開けた。
一方で、WRCを難解なモータースポーツに感じている人もいるだろう。
なぜ1台ずつスタートするのか? 数百キロのロングステージやルートをドライバーはどうやって記憶しているのか? 助手席に座っているのは誰なのか? — これらは初心者が頭に浮かべる疑問の一部だが、どれもこのスリリングなモータースポーツの歴史に深く根差している必要不可欠な要素だ。
2020シーズンは最終戦の舞台としてラリー・ジャパンも復活するため、この奥の深いモータースポーツに興味を持ち始めている人は多いだろう。そこで今回はそのような人やラリー初心者のために、マシン・形式・開催地・日程・視聴方法を含む基本情報をまとめてみた。
WRCとは?
WRCは世界最高峰ラリーカテゴリーで、世界最高のドライバーとマシンが世界屈指のタフなルートに挑んでいる。各レースはカントリーサイドの公道や特設ステージが舞台に設定されており、週末を通して多数のステージで様々なアクションが確認できる。
ドライバーは助手席に座るコ・ドライバーと2人1組となり、1台ずつ計時ステージを走る。つまり、同時スタートで順位を争うのではなく、各ステージで最速タイムを記録することが目標だ。
各ラリーイベントは合計数百キロのルートで構成されており、コ・ドライバーがルートの指示やナビゲーションを担当する。
視聴方法は?
Red Bull TVがWRC 2020シーズン全戦でデイリーハイライトや一部スペシャルステージの無料ライブストリーミングを行う(音声は英語のみ)。
たとえライブストリーミングを見逃しても心配はいらない。Red Bull TVがラリー終了後の火曜日午前(日本時間)に新プログラム『Rally Rewind』を放送しているため、各ラリーの模様をダイジェストで楽しめる。
2020シーズン開幕戦モンテカルロ『Rally Rewind』をチェック!
2020シーズンの開催地は?
2020シーズンのWRCは48年の選手権史上初となる世界6大陸をまたぐカレンダーが設定されている。全13戦のうち、新たに開催地に加わったのはニュージーランドとケニア、日本(愛知県・岐阜県)だ。11月の最終戦ラリー・ジャパンまで様々なドラマが展開されるだろう。
注目のトップドライバーは?
2019シーズンのWRC王者に輝いたのはトヨタ・ガズー・レーシングのマシンをドライブしたオット・タナク&マルティン・ヤルベオヤ組だった。ティエリー・ヌービル&ニコラ・ジルスール組(ヒュンダイ)を下したタナク組はこれが初戴冠となり、2018シーズン王者のセバスチャン・オジェ&ジュリアン・イングラシア組は総合3位に終わった。
2013シーズンから2018シーズンにかけてWRC 6連覇を達成したオジェは2020シーズンの王座奪還に向けて大きな決断を下し、昨シーズン在籍したシトロエン・ワールドラリーチームに別れを告げてトヨタ・ガズー・レーシングへ加入した。
一方、2019シーズン王者タナクはトヨタからヒュンダイ・モータースポーツへ移籍した。トップドライバー2人はそれぞれの新天地でどのようなバトルを見せるのだろうか? 2020シーズンのWRCも素晴らしいレーシングが期待できる。
注目のダークホースは?
2020シーズンのWRCチャンピオン候補にオジェとタナク以外を挙げるのは勇気がいるが、過去4シーズン連続総合2位、WRC通算12勝・2位5回を記録しているティエリー・ヌービルが候補のひとりに含まれるのは明白だ。
開幕戦モンテカルロではヌービルがトヨタ勢のオジェとエルフィン・エバンスを逆転してキャリア初のラリー・モンテカルロ優勝を飾ったが、今年はいよいよ彼の年になるのだろうか?
オジェとタナクが新たなチームへ移ったことを踏まえると、2020シーズンにヌービルが悲願の初タイトルを獲得する可能性は十分にある。
ステージの種類・数・距離は?
各ラリーイベントは15〜25本の「スペシャルステージ(SS)」で構成されており、各SSの距離には、スーパーSSとして知られる2kmほどのショートステージから50kmに及ぶロングステージまでが含まれている。
また各SSの間には非計時ステージ(リエゾン)が存在する。リエゾンは一般公道のため各国の交通法規に従って走行しなければならない。ドライバーたちは1日平均約400kmを走行する。
計時されるSSでは2分おきに1台ずつスタートする。金曜日は総合順位が上位のドライバーから先にスタートする。土曜日と日曜日は前日の順位をもとにスタート順が決まるため、最下位のドライバーからスタートし、後半に上位勢がスタートする。
一方、通常のSSよりも距離が短く、スタジアムなどが舞台に設定されているスーパーSSはさらに別の形式が採用されており、ヘッド・トゥ・ヘッドと呼ばれる2台同時スタートの対戦形式となっている。
また、ラリー最終日の最終ステージには「パワーステージ」が設けられており、上位5名には追加の選手権ポイントが付与される。
WRCマシンの性能は?
WRCで使用されるマシン(WRカー)は悪路を制するために開発されている。タイトなカーブを鋭く立ち上がる究極の加速性能を備えており、極めて鋭敏なレスポンスとトップスピードを誇る。
当然ながらWRカーはパワーも大きく、400馬力を絞り出すターボエンジンと約200km/hで疾走するトップスピードが大きな特徴だが、最大の特徴と言えるのは、やはり4秒以内で0km/hから100km/hに到達する加速性能だ。
この強烈な加速をグラベルや氷・雪などを問わず何回も繰り返せるという事実を加えれば、WRカーのユニークさが理解できるだろう。
WRCはどこがユニークなのか?
WRカーは速い。とてつもなく速い。しかし、他のモータースポーツカテゴリーとは異なり、WRCにエラーの余地は文字通り1mmもない。
WRCドライバーたちがバトルを繰り広げる恐ろしく幅の狭い公道に比べれば、広大なコースとグラベルトラップが用意されたモータースポーツ専用サーキットはまるで滑走路のように見える。
ラリー・モンテカルロで使用されるステージを例に取ってみても、ドライバーがミスをすればどのような結果が待っているかは一目瞭然だ。実際、2020シーズン開幕戦でも金曜日SS4でタナクがショッキングな高速クラッシュを演じた。
WRCでは、ヘビのように蛇行するコースの大半が片側を岩壁、逆側を切り立った崖(時には落差が数百メートルに及ぶ)に挟まれている。ひとつでもミスを犯せば崖下へ真っ逆さまだ。
これだけではない。WRCは世界を巡る選手権のため、ドライバーたちはフィンランドの雪と氷やケニアの乾燥した砂漠など、ありとあらゆる路面条件にも対応しなければならない。どの開催地も人間とマシンを極限まで追い込んでいく。