Gaming
ある世代のゲーマー全員の中で、『デストラクション・ダービー』シリーズはノルタルジックで温かい光を放ち続けている。
PS1とセガサターンでリリースされたあと、NINTENDO64へ移植された第1作目『デストラクション・ダービー』はそのタイトル通り、“車の大破壊” が楽しめた。この作品はレーシングゲームだったが、フィニッシュラインを越えることよりもライバルマシンを潰して得られる満足感が優先されていた。
それから20年が経過した今、レーシングゲームの秀作『FlatOut』と『FlatOut 2』を手掛けたデベロッパーBugbearが、『デストラクション・ダービー』のそのアナーキーなレガシーを『Wreckfest』に持ち込んだ。
『Wreckfest』もまた、フィニッシュラインよりもライバルマシンに与えるダメージが優先されている破壊系レーシングゲームで、長期間の開発を経て早期アクセス版が先日Steamでリリースされた。
今回は、BugbearのゲームデザイナーJanne Suur-Näkkiをキャッチして、『Wreckfest』の開発経緯について詳しく話してもらうことにした。
Suur-Näkkiは次のように切り出す。
「時間をかけて開発したおかげで、ベターなクオリティでリリースすることができました」
「最初は小さな目標を設定していたのですが、パブリックフェーズへ移行したあとに、もっとスケールを大きくして、世間からの期待に応えたユニークな作品に仕上げるべきだという結論に至りました」
「当時のテクノロジーでは、自分たちがやりたいことを実現できなかったので、開発期間を通じて、自社開発のゲームエンジンの大半を作り直しました。物理演算をベースにしたレンダリングや車両の物理演算などを改良しました」
しかし、課題はまだ残っていた。その中の大きなひとつが、クラッシュをどれだけ楽しいものにできるかだったとSuur-Näkkiは語っている。
「素晴らしいヴィジュアルのクラッシュに魅力的で楽しいゲームプレイを組み合わせる作業が想像していたよりも厄介なことが分かりました」
「“リアリスティックなクラッシュを実現しよう” と言うのは簡単ですが、第1コーナーでクラッシュしてしまうプレイヤーにとっては、自分の車が早々に粉々になってしまうのはあまり面白くありません」
「ですので、コミュニティの助けを借りながら、かなりの時間を使って調整を繰り返しました。ですが、最終的にはベストなバランスを得るために2種類のダメージモードを用意することにしました」
「ノーマルダメージ(Normal Damage)は許容範囲の大きいゲームプレイが楽しめます。一方、リアリスティックダメージ(Realistic Damage)では、たった1回のクラッシュでも車が完全に破壊されてしまう可能性があります」
コミュニティの力
このゲームにおけるコミュニティの存在感は大きい。『Wreckfest』には積極的なコミュニティがついており、全員がこのゲームが謳っている “破壊感” を求めている。
Suur-Näkkiは、彼らがこのゲームにとって非常に重要な存在だと語る。
「コミュニティからのフィードバックはかけがえのないものです。リリース後も欠かせない存在であり続けるでしょう。ゲームに対して情熱的なコミュニティがついているという意味で、私たちは非常にラッキーですね」
「彼らは開発を始めた直後から、ほとんど全ての部分に有用なフィードバックを返してくれています」
「また、サウンドトラックのコンテストを用意して、コミュニティに参加してもらっています。彼らがゲーム内で聴きたい音楽を投票で選べるようにしました」
しかし、コミュニティが彼らに提供しているのは、建設的なフィードバックだけではない。
『Wreckfest』のSteam Workshopページをチェックすれば、天才的なものから、ふざけたものまで、ハイクオリティなMODが大量に揃っているのが分かる。Suur-Näkkiが続ける。
「紹介したい優秀なMODは数多く存在しますが、その中で特に優れているのがSam#223の『Online Bangers』とThe Very Endの『The Very TrackPack』ですね」
「『Online Bangers』は『Wreckfest』を完全に再構築したもので、このゲームをバンガー・レーシング(Banger Racing:オーバルトラックを使用した英国版デモリション・ダービー)シミュレーターに変えています。実在する車とレーストラックが収録されています。また、これは聞いた話ですが、現役のバンガー・レーシングドライバーもプレイしているようです」
「一方、『The Very TrackPack』は、ハイクオリティな架空と本物両方のレーストラックを40種類以上追加することが可能です。両MODには信じられないほど大量の労力が注ぎ込まれていますよ」
しかし、だからといって、『Wreckfest』自体のコンテンツが少ないわけではない。Bugbearは、プレイヤーが長時間クラッシュを楽しめるだけの車種とモード、カスタマイズオプションを『Wreckfest』に用意している。
では、このゲームにはデフォルトでどのような車が収録されているのだろうか? Suur-Näkkiが説明する。
「収録されている車の大半は、往年の旧車と、現実世界のデモリション・ダービーやバンガー・レーシングで使用されている車をモデルにデザインされています」
「重い車はダメージ耐性が高いですが、俊敏性に欠けます。一方、軽い車は俊敏ですが、ダメージ耐性が低いです。また、一般的な車の他に、特殊な車両もいくつか収録しています。ゲームプレイを面白くするために、スクールバスやコンバイン、芝刈り機などが収録されています」
プレイヤーは、大量の車種の他に、ガレージ内での心ゆくまでカスタマイズも楽しめる。カスタマイズオプションもこのゲームの重要な特徴のひとつだ。Suur-Näkkiが続ける。
「プレイヤーが自分の望む車を生み出せるようにするべきだと考えていました。ヴィジュアル面だけではなく、パフォーマンスや強度など、ゲームプレイに影響を与える部分もカスタマイズできるようにしたいと考えていたのです」
「ですので、キャブレターや高性能エンジンのような一般的な性能アップグレードパーツの他に、頑丈なバンパーやサイドプロテクター、ロールケージなど、装備すれば特定のエリアのダメージ耐性が高まるパーツも用意しました」
「ですが、頑丈なパーツを装備すればその分重くなります。このゲームにはスピードと強度という二律背反が常に存在します。ですので、プレイヤーは自分のプレイスタイルに合わせて取捨選択を重ねていくことになります」
Suur-Näkkiは、カスタマイズは実用的なものだけに留まっていないとし、ホイールやスポイラー、フロントフェンダーなど、ヴィジュアルだけを変えるパーツや、巨大な斧や乳母車のような面白さだけを追求したパーツも存在すると続けている。
また、プレイヤーは車のペイントの変更や、ギアレシオやブレーキバイアスなど細かい部分の設定もできる。
多種多様なゲームモード
Bugbearは、「多様性は人生のスパイス」という古くから伝わる考えに基づいてこのゲームを開発しているようだ。このゲームには多種多様なモードが用意されている。
Suur-Näkkiは次のように説明する。
「デモリション・ダービーの伝統 “ラストマン・スタンディング” の他に、“デスマッチ” と “チームデスマッチ” も用意しています。リスポーンやチームベースのゲームプレイを加えることで、デモリション・ダービーの伝統的なルールに変化を加えています」
「レース系に関しては、ベーシックなモードとして “バンガー・レーシング” を用意しています。これは、ルールなしのレースで、他のプレイヤーにダメージを与えたり、破壊したりすると追加ポイントがもらえます」
「また、複数のチームに分かれて戦う “チーム・レーシング” と、ラップ毎に最後尾のマシンが切り捨てられる “エリミネーション・レーシング” も用意しています」
これら全てのモードはマルチプレイヤー対応だが、数が豊富でも肝心の破壊の満足感が低ければ全てが無駄になってしまう。しかし、有り難いことに、Bugbearはこの点を見事にカバーしている。
「スピードと重量に優れているプレイヤーの方が与えるダメージが大きく、受けるダメージが少なくなるようにゲームプレイを調整しました」
「これにより、設置物や低速の車に当たった際に、自分の車が破れることなく、素晴らしいクラッシュを生み出せるようになりました」
「逆を言えば、低速で走ったり、停止したりしている車はパーフェクトなターゲットになるわけです。プレイヤーはどの車がどのような状態なのかが手に取るように分かりますし、車のエリア別にプロテクションパーツを装着できるので、戦術的なゲームプレイが楽しめます」
このように真剣に “破壊” に取り組んでいるBugbearに、今作はどこからインスピレーションを得ているのかを尋ねてみたのだが、その答えは当然と言えるものだった。
「僕たちは全員『デストラクション・ダービー』をプレイしながら育ちました。また、デモリション・ダービーを題材にした最初のゲームでした。ですので、このゲームが僕たちの大きなインスピレーションになっています」
「名前を挙げておきたいもうひとつの重要なゲームがあります。『Test Drive: Eve of Destruction』です。これは、私が知っている限り、デモリション・ダービーの魅力をリアリスティックに表現しようとした初めてのゲームでした」
「このゲームは、ゲームプレイだけではなくムードにおいても、私たちの直接的なインスピレーションになりました。『Wreckfest』の危険極まりないレーストラックなども、このゲームから大きな影響を受けています」
『Wreckfest』の早期アクセス版がリリースされた今、Bugbearには正規リリースのフィニッシュラインが見えているはずだ。しかし、家庭用ゲーム機への移植の可能性はあるのだろうか?
Suur-Näkkiは最後にこうコメントしている。
「任天堂がNintendo Switchでやろうとしていることは素晴らしいですよね。Nintendo Switchはエキサイティングでユニークなゲーム機だと思います。ですが、私たちのリソースは限りがあるので、広げることができません」
「ですので、今はXbox One版とPS4版だけに集中して、両バージョンをできる限りハイクオリティに仕上げようとしています」
『Wreckfest』はSteamの早期アクセス版(日本語対応)がリリース中。Xbox One版とPS4版も後日リリース予定(日本版は未定)。
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