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バレーボール
西田有志(にしだ・ゆうじ)とは!? バレーボールでプロになるまでのストーリー
鋭いスパイク&サーブを武器に凄まじいプレイで日本バレーボール界を牽引する西田有志。世界トップクラスのオポジットとして活躍する彼の強みをプロになるまでの過程と共に探るロングインタビュー【前編】!
01
プロバレーボーラー西田有志が誕生するまで!
──ウェルカムインタビューということで、まずは西田有志選手の“ひととなり”を知りたいです。早速ですが、西田さんって小さい頃の性格はどんな感じでした?
西田有志(以下:西田)小さい頃からコミュニケーションを人と取ることが好きでしたね。いわゆる人見知りをしないタイプで、物怖じせず誰とも話せてました。
──今話していても、本当にフランクな人柄の方だなって感じてます!
西田:変に人と壁を作りすぎてもね。もちろん人によっては話す内容や深さは変わりますけど。コミュニケーションを取る事はバレーボールにおいても重要なんですよ。
──西田選手はご家族の影響からバレーボールを始めたそうですが、当時のことを聞かせてください。
西田:先に兄姉がバレーボールを始めていた事がきっかけでした。そして他に気を取られることなくバレーボールに集中できたことも、両親からの温かいサポートがあったからこそです。家族みんなに支えられたお陰で、バレーボールをずっと続けて来れたんです!
──噂によると、保育園児の時がバレーボール人生のスタートだったと。
西田:そうなんですよ、年長の時に初めてバレーボールのチームメイト活動をしましたね。
──その年齢だと、どんな場所で練習をしていたんですか?
西田:保育園児のバレーボールでも、大人と変わらず地元の市民体育館でしっかり練習をしていました。
──大きな施設でのバレーボール経験って、その年齢では珍しいことですよね?
西田:だと思います。市民体育館って市民全体で使うものなので、借りるにもいろいろと制限があるんですよ。だから特別に優先させてもらえるような場所ではないんですけど、僕らは週3回も練習することができました。その練習が楽しくて、バレーボールの沼にずっぽりとハマりました!
──保育園児でもバレーのネットに手が届くものなんですか?
西田:いやいや、最初はやっぱり届かないもんですよ(笑)。でも悔しいから届くように努力しました。結局、悔しい思いをしたから努力するっていうのがありましたね。
──練習する時の周りは大人だらけでした?
西田:いえ、小学生に混じっての練習でしたね。自分は保育園児でしたけど、一緒に練習する小学生のお兄さんたちには負けたくないって気持ちは、その頃から強かったです。
──当時のことで今も語り継がれるエピソードとかってあります?
西田:それ、自分で語るのは恥ずかしいな(笑)。
──確かに(笑)。では、その頃から人には負けなかったストロングポイントってどういったところだと思います?
西田:小学生の全国大会は一度しか出場経験がないけど、その頃から肩は強かったですね。小学校の卒業時で身長が157センチぐらいだったので、バレーボールの世界では突出してよい体格ってわけでもないけど、ジャンプ力と肩の強さだけは、いろんな人から褒めてもらえてました。
悔しい思いをしたから努力する、そのチームで“勝ちたい”気持ちが強かった
──中学の入学当初はバレーボールを続けるか迷っていたって聞いたんですが、それは本当ですか?
西田:はい、本当です! なんかバスケットボールもやってみたいなって思っていて(笑)。実は中学校のバレーボール部は所属人数が少なくて、県大会に上がれるような環境が整っていなかったのもありました。自分がバレーボール部に入部するなら、そのチームで“勝ちたい”気持ちも強かったので。
──確かにその環境だといろいろ迷うかも、ですね。入部したバレーボール部で、自らがチームメイトに教えてたんですよね?
西田:顧問の先生はバレーボール未経験者だったので、自分がみんなに教えるようにならないと、って考えたんですよ。そこで以前所属していた小学校のバレーボールチームの練習へ顔をよく出すようにしたんです。
──それはどうしてですか?
西田:チームメイトへ教える方法を学ぼうと思って。やはりコーチが教える方法と、自分が教える方法では全然違くて。コーチは技術を分かりやすくコツとして指導してくれますが、自分は技術を感覚的にしか伝えれなくて、押し付けるような感じになっちゃったんです。
だからそれを変えたくて、ほぼ毎日のように小学校のバレーボールチームへ通ってました。
──中学生でその意識の高さにびっくりです。生徒がコーチみたいにバレーボールをチームメイトに教えることはよくあるんですか?
西田:うーん、バレーボールに詳しい顧問の先生やコーチが必ずいるわけでもないので、学校によりけりだと思います。
──プロのアスリートは子供の頃からトップレベルの教育を受けているイメージだったので、てっきり西田選手もそうだったと思っていました。
西田:この環境でも絶対に勝ってやるぞ! という志があったから今があると思ってるので、もしかすると、環境よりも気持ちが大切なのかもしれないですね。
──トップレベルの教育が受けられる環境がなくても、西田選手のレベルに辿り着けるんだよっていう、ポジティブに捉えられますね。
西田:自分はすごくシンプルな考え方をするタイプなんです。この例え方がいいのか分かりませんが、練習する器具がなかったら自分で何かを作ればいいし。どれだけ工夫して練習できるのかという考え方をしないと、前に進めなくなる感じだったので。
──何事にもDIY感覚ということですか?
西田:ジャンプ力を強くするんだったら、まずスクワットで筋力を鍛えますが、それだけでジャンプ力は上がるの? っていう疑問を持つんです。逆にジャンプの仕方を覚えたら、もっとジャンプ力は強くなるんじゃね? って。物の見方を常に変える考え方ですね。時間はかかるけど、何か尖れるものを作るように工夫をしていました。
──努力の結果、中学時代は三重県選抜チームに選ばれて、高校時代はU19日本代表としてアジアユース選手権で優勝しましたよね。過去の自分を振り返ってみるとどんな気持ちですか?
西田:プロバレーボールの世界に入ってくる人たちは、全国大会での優勝経験をしている人も多いし、全国大会にやれ何回出場したとか、優秀選手賞を何回受賞しているとか、そういった優れた選手が沢山います。
自分は春高バレー(※1)の出場経験も無いし、インターハイ(※2)は一度出場したきり。中学時代は県大会でも東海大会までなので、全国大会を経験したわけじゃない。だから他の選手の方々よりも、見れなかった世界が多かったと思います。
- ※1全日本バレーボール高等学校選手権大会
- ※2全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会
挑戦するのは俺なんだから、黙って見ておけよ。そんなハングリー精神のカタマリでした
──全国大会に出るのがプロへの登竜門というイメージだったんですが、西田選手のように積み重ねを繰り返してプロになった選手もいるって事実は、次世代の希望にもなると思うんですよね。
西田:ただ、全国大会に出ない、出れないのであれば、その分、いろんな人からコイツすごいぞって注目されないと厳しいってことも事実としてあります。自分はずっとジャンプ力を磨いたり、中学生時代の経験があったからこそだと思っています。
──王道を通らない分、それ相当の努力も必要だと。
西田:そうですね。現に自分は、高卒内定選手としてVリーグに入る時、最初は反対されてましたから。
──えっ、反対されていたんですか?
西田:バレーボールをやってる周りの人たちから、『できるわけないよ』と言われてました。でも挑戦するのは自分なんだから、黙って見ておけよって。だからもう全部がハングリー精神でバレーボールに向き合っていましたね。
──そのプロになるターニングポイントって何がきっかけでした?
西田:高校2年生の東海大会の時に、以前所属していたジェイテクト・スティングスのスカウトの方から声を掛けてもらったことですね。それから一気にバレーボールに向き合う熱量が変わったんです。そのことがなかったら、バレーボールに未練もなく、普通に就職していたと思います。
──意外な縁で変わったんですね。
西田:やはり自分が大好きなバレーボールに挑戦したいじゃないですか。失敗しても悔いは残らないし。やりたい事を仕事にする経験って、そうできることではないので。それまでの苦しさや悔しさをたくさん味わったことをバネに、プロ選手になることを選んでよかったと思っています。
──その出会いが西田選手のようなパワフルな左利きのエースを誕生させたんですね。
02
なぜこれほど世界で活躍できるのか? 西田の強みとは!
──男子バレーボールの世界では、大学からVリーグに入ることが一般的で、高校卒業からトップレベルの道を進む人は少ない印象ですが。
西田:僕はスタートがマイナスからでしたね。いきなり認められることはなかったから、最初は全員が敵に見えてました。自分ができる人間じゃないとか、高校生からいきなりプロに上がってきて、舐めてんじゃねーみたいな感じの(笑)。春高バレーも出ていない分際で、というような雰囲気もありました。まぁそれがプロの世界では普通なんでしょうけど。自分が逆にその立場だったら、そんな新人に対してライバルむき出しの感情も出すだろうし。
──プロの世界は競争が厳しいですね……。
西田:だけど、そんなことを言えるのは今のうちだからな、いつかやってやるというハングリーさで、自分の実力と存在を分からせてやるみたいな。だからVリーグで認められるためにすごく努力したし、今もまだ努力が足りないと思っています。
──西田選手のストイックさは昔から変わらないんですね。
西田:誰よりも多く練習をして、誰よりも自分が得意にできることはなにか。そういろいろと考えて、認められようと必死でしたね。今は認められ続けないといけないと思いますし、当時のハングリーさは変わっていないです。
──プロであり続けることも大変な努力が必要ですものね。
西田:スポーツ選手は他者と比較されてしまう職業なので、自分のことを認めてもらうためになにが必要なのかを常に考えています。だから自分との戦いですね。でも一番は、純粋にバレーボールが楽しいから続けているんですけどね!
──西田選手はVリーグに入ってからすぐに日本の代表選手に選ばれましたよね?
西田:あれは奇跡です。僕自身も予想していなかったですし、個人的には3年目ぐらいで日本代表選手のレギュラーになれたらいいなぐらいにしか思っていなかったので(笑)。
──代表入りしたことは西田選手の実力が認められたということだと思います。
西田:日本の代表選手に選んで頂いたからには、日本のために全力を出し尽くしたいし、代表選手としての人間像や技術レベルなどで、絶対に恥をかきたくないと言うのはありました。代表選手ではオポジットというポジションなんですが、世界一身長が小さかったですからね。
根性論はあんまり好きじゃないけど、絶対にメンタルが大切になるんですよ
──それでも海外選手と互角に戦えた自分の強みはなんですか?
西田:やはり常に“負けない”といった感情があること、気持ちの面で負けないっていう部分かな。根性論自体、僕はあんまり好きではないんですけどね。でも結局、技術よりも絶対にメンタルが大切になるんですよ。
──といいますと?
西田:ピンチに立たされた時にその人の本性が出てしまうので、僕は絶対にハングリー精神で挑んでいました。保育園や小学校のころから常にハングリーに向き合っていたのと一緒。オポジットを務める海外選手は2メートル級の身長という体格差があって、それこそ自分はビハインドな状態で対決するわけですから。
──西田選手はハングリー精神のカタマリだと思うんですが、チームメイトが試合中にメンタルが落ちてたりしたらどんな風に接しますか?
西田:仲の良いチームメイトであれば応援する意味も込めて『お前、何へばっているの?』ってストレートに言います。
だってチームスポーツなんだから、お前だけで負けたわけじゃないから。メンタルが沈みっぱなしだとそれ以上のパフォーマンスは出せないと思うし、正直、考え方とか一つで変わると思っています。それを解決するために『自分自身が前を向かないと無理なんじゃない?』っていう会話もしますね。
──少し話が前に戻りますが、ちょっと気になったのが“オポジット”というフレーズです。今回の記事をきっかけにバレーボールに注目する人もいると思うので、この専門用語についても教えてもらえますか。
西田:オポジットはいわゆるエーススパイカーと呼ばれるような攻撃特化のポジションです。
――なるほど。
西田:でも世界では2メートルを超す選手が多く、それに比べて自分は上背は足りません。その選手たちと同じプレイスタイルでオポジットをやるかといったらぜんぜん違うと思っていて。もちろん攻撃では他と引けを取らないように攻めますが、よりディフェンスのレベルも上げて、オポジットが攻撃しなくても他のチームメンバーが100%で打てるシチュエーションを作ったり、チームを守るようにディフェンスに徹することも意識したプレイスタイルでやっています。
──高く跳ぶ練習を重ねてギャップをはね返し、トップ選手の一員となった西田選手のバレーボール人生。プロになってよかったなって思える体験とは?
西田:プロになってから数えて7シーズン目ですが、一つ言えるのは以前よりもバレーボールで食べて行けるようになりました。これぐらいが天井かなって言われているプロの年棒があるんですが、その基準を越えられるようになったことは嬉しいですね。
──プロのバレーボーラーとしての立ち位置が確立した証拠ですね。
西田:プロに入りたては会社で働くことがメインだったので、バレーボールが副業みたいな感じでした。余計なことを考えないでバレーボールに向き合いたい思いが強かったんです。今はそこに対しての心配はありません。
──プライベートのことだと何かありますか?
西田:欲しいのが自由に買えるようになりました(笑)。僕はクルマが好きだし、時計も好きだし、ファッションも好きです。自分が好きな物を自由に買えるか買えないかっていう違いはだいぶ大きいですね。
──不純な動機みたいに聞こえますが、それはすごく大事なことですよね。目の前に人参をぶら下げるじゃないけど(笑)。
西田:そうそう、単純にバレーボールへ打ち込むためのモチベーションの一つです(笑)。ここを頑張ればもっと評価が上がって、プレイヤーとしてのレベルも上がるんじゃないかみたいな。
──西田選手のファンに思うことはなんですか?
西田:こんなにも多くの方に応援して頂ける選手になれたってことが素直に嬉しいです。ファンの方々から、もっと応援したいと思っていただける選手に成長していきます。この気持ちは結果で返していくので期待していてください!
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バレーボール西田有志インタビューの後編は近日公開予定!
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