Tade Dust
© Suguru Saito
ミュージック

Tade Dustインタビュー「“自分の心に嘘をつかない” 自分なりのリアルを表現し、世界へ」

シンプルなビートの上で64小節ものあいだひたすらスピットする【Red Bull 64 Bars】。このロングヴァースに挑んだTade Dustに、ヒップホップとの向き合い方などについてストレートに切り込んだショートインタビュー。
Written by Tasuku Amada
読み終わるまで:5分Published on
— Red Bull 64Bars、挑戦してみてどうでしたか?
Tade Dust「すごい楽しかったです。いい経験になりました。
SNSで『Tade Dustの64まだ?』とかって言われてるのも見てましたし、オファーをもらって嬉しかったです。ありがとうございます」
— “64小節”書くことは大変でしたか?
Tade Dust「普段のレックと違って64小節を一気に録り切るので、息継ぎのタイミングとかも意識しながらリリックを書く必要があって。いつもと違う書き方をしたので新しい気付きもあったりしましたね」
Tade Dust

Tade Dust

© Suguru Saito

— リリックのなかで気に入ってるラインをひとつ挙げるとしたら?
Tade Dust「“人間、いつまで見られ方気にしてる/自分の心に嘘つくのはもうよそうか”ですかね。
最近よくロンドンにいて、日本人はもちろんアジア人もまわりにほとんどいないような環境に身を置いていると、これまで当たり前に思ってた価値観がいい意味で崩れていってすごい刺激をもらえるんですね。そんななかで、たとえばロンドンで普通に暮らしてると、街を歩いてる人たちの服装ってすごくラフで、逆に東京にいるときみたいに派手な格好してるとかなり目立つんですよ。それで最初の頃は、自分の見られ方をすごく気にしながら過ごしてたんですけど、そのうち、ロンドンではこの格好は派手すぎだけど、まあ、これが俺だからいいんだよなって思ったら楽になったし、しかも会う人が結構服褒めてくれたりするんですよね。だから俺は俺でいい、ってあらためて思えたっていうか。
しかもそれは俺だけじゃなくて人間全員そうだし、全人類、べつに他人にどう思われようが、その人はその人でいいんだって思いますね」
Red Bull 64 Bars - Tade Dust

Red Bull 64 Bars - Tade Dust

© Suguru Saito

— Tade Dustさんが音楽を作る上で大切にしていることは何ですか?
Tade Dust「常に等身大で、自分を偽らないことですね。
たとえばドリルっていうジャンルは元々ギャングの音楽カルチャーなわけですけど、自分がUKドリルに影響を受けて作品をつくろうと思っても、自分はギャングカルチャーには属していない、っていうことに行き当たるんですよね。彼らは彼らのリアルを歌って、リリックで描かれているように本当に人を刺してたりするわけですけど、俺は人刺したりしないんで。そもそもギャングカルチャーそのものが無い日本で、リアルなドリルってなんだろうって考えると、やっぱり自分にとってのリアルを偽りなく表現することだと思うんですよね。これはドリルに限らずですが、ウソを歌ってバズったりする奴もいるけど、やっぱりリアルを貫くことがヒップホップの根底に流れる精神なんだっていうのは忘れちゃいけないと思います。
Tade Dust

Tade Dust

© Suguru Saito

— 前回レッドブルスタジオに来てもらったのは2021年の「Red Bull RASEN」です。その後3年経って、ご自身にはどんな変化があったと思いますか?
Tade Dust「発声の仕方が大きく変わってますね。あと、歌詞の密度も違うかな。当時は音とかフロウばかりを重視していたところがあったと思います。でもそれと同じくらい歌詞にもこだわるようになりましたね」
Tade Dust

Tade Dust

© Suguru Saito

— 今の日本のヒップホップシーンに対して思うことは?
Tade Dust「新しいことに挑戦してる人が少ない気がします。それがあんまり面白いと思えなくて。それこそアメリカのラッパーのスタイルを真似ているだけのように思えてしまうラッパーも少なくないと感じています。そんなことする必要ないんじゃないかなと今は思うんですよね。
自分もかつては髪の毛をブレイズにしてて、ブレイズ自体はもちろんかっこいいしリスペクトを持っていますけど、自分がその髪型のままアフリカやアメリカのカルチャーのなかに入っていけるかというとそうではない。それで俺も髪の毛を切ったんですけど、やっぱり俺は世界に行きたくて。
日本のシーンのみんなが、日本のトップを目指すだけで満足できるならいいのかもしれないけど、俺はもっともっと高みを目指したいと思うんですよね。でも今の日本にそういう風潮があまりないのが残念ではあります。
日本のヒップホップシーンはある意味では成長しきってると思います。若い子たちの流行にもなってるし、影響力を持つ音楽になってると思いますけど、さらにその先に行くのが今みんな大変なのかなって思っていて。やっぱり国内で有名でも海外のフェスでぶちかませるラッパーって少ないと思います」
Tade Dust

Tade Dust

© Suguru Saito

— そんななかTade Dustさんはどんな風にキャリアを重ねていきたいですか?
Tade Dust「やっぱり、海外にもどんどん行ってみないと始まらないと思うんで、いろんな国に行って、いろんな国のヒップホップを体感して吸収したいし。外の世界をもっと勉強したいです。
また、今年ロンドンのレーベルと契約したので、この先1〜2年くらいはそこをしっかりやっていきたいですね。アジア人として世界のヒップホップと対等にやり合えるように、グローバルに動いていきたいし、それを日本のみんなにも見せたいです」
Tade Dust, Masayoshi Iimori

Tade Dust, Masayoshi Iimori

© Suguru Saito

Red Bull 64 Bars - INTERVIEW