01
《栄養》自分に足りない栄養素を見極めてリカバーする!
ーー カラダを作るうえで、必要な『栄養』について、特別に意識していることはありますか?
鬼塚 雅(以下、雅)「私、どの栄養素をどれくらい摂れているか? ということに関しては、大学の卒論にしたぐらい意識しているんですよ。特に海外で行くことが多い生活なので、国内と海外での食事において何が足りないのか、ということを研究していました。そのぐらい栄養バランスは意識していますね」
ーー 研究ですか! PFC(タンパク質・脂質・糖質)バランスを常に計算しながらってことですか?
雅「PFCの三要素はもちろんなんですが、例えば、鉄分やビタミン、ミネラルを何グラム摂取していて、そこから自分の運動量から差し引くと、どれだけちゃんと摂取しているかだとか。逆に足りていない栄養素は何なのか、ということを割り出していくんです」
ーー その研究は、アスリートとして活躍するために行われていたということですか?
雅「もちろんそうなんですけど、自分で課題を見つけて研究していくことが好きなんですよ。栄養に関することだけではなく、メンタル面についてもそう。もちろん、スキル向上のためにも、自分に足りているものと、足りていないものは何かを常に考えているんです」
ーー なるほど、性格的なものもあって、ということですね。それを踏まえて、鬼塚さんにとって重要な食材は何でしょう? やはりタンパク質ですか?
雅「私の場合は、朝にタンパク質よりも炭水化物をしっかりとっておくことで長く練習することができるなって感じます」
ーーそうなんですね! ちょっと意外というか……。
雅「普通の人と比較すると格段に運動量が多いので、気を抜くとすぐに体重が減ってしまうんですよ。しかも、痩せやすいタイプなので体型維持が難しいんです。だから、糖質や脂質を多めに採るように心がけていますね。分量も、食べれるときはできるだけたくさん食べていて。あえてポテトチップスだとか高カロリーなものを食べたりもします」
ーー 普通、痩せるのに苦労するものですが、逆にたくさん食べなくてはカラダ作りがうまくいかないというのがすごいです。1日の目標摂取カロリーなどはあるんですか?
雅「選手に必要なカロリー表というのがあるんですけど、それによると、女子アスリートは約3000キロカロリー摂取した方がいいんですよね。一般の方なら2000~2500キロカロリーって言われています。私の場合は、その2倍かそれ以上、4000~5000キロカロリーくらいを目安に食べています。それでも、栄養を吸収しきれないんですよ、代謝がめっちゃ良くて」
ーー 一般の成人男性で考えると、4000キロカリーは相当頑張らなくちゃ食べられないぐらいの分量ですね。そうやって維持する、自分にとってベストな体型についても教えていただけますか?
雅「これは私の主観なんですけど、細すぎず太すぎずみたいな(笑)。今日は、頑張ってカラダが少し大きくなっている状態です。結構すらっとした体型で筋肉はしっかりついてるっていう人の方が男子も含めトップ選手は多いかもしれないですね。あまり大きくなりすぎても回転しにくくなってしまうし、細すぎても力が足りなくなってしまうので絶妙なんです。自分に合った体重を見つけるのにも研究をしてきたんですよ」
ーー 体重も試行錯誤して研究を続けてこられたと。どのようにして、今のベストな体型を見つけたんですか?
雅「5年くらい前は、もっと太ろうって考えていたんです。でも、2018年に開催された世界的大会が終わった頃から、太ることが本当に自分に合っているのかな? と思うようになったんです。というのも、太って大きくなることで、回転しにくくなったりしていたんですよね。逆に痩せ過ぎると、ジャンプ後にうまく着地できなくなったり。そうやって、ベストなパフォーマンスを発揮できる体型を探していったら、結局1番キープしやすい体重だったってことに気づいたんです」
ーー そのカラダを維持するためには、どういうことをしているんですか?
雅「体型をキープするためには食事を気をつけるというよりも、筋トレをやって筋肉量を増やすことでリカバーしていますね。海外に行ってしまうと、どうしても足りない栄養素は出てくるし、日本から食材やサプリメントを持っていっても足りなくなってしまうので、現地調達できるもので、できるだけ多くの栄養を摂っています」
ーー 海外など、現地でよく口にしている食べ物はありますか?
雅「プロテインバーですね。お気に入りを日本から持っていったりもしますし、現地でも買います。スノーボードの選手って一旦練習に入ってしまうと長時間になるので、お昼ご飯を食べない人が多いんですよ」
ーー 昼食を食べないのはなぜですか?
雅「雪質や天気を考えると、練習に適した時間が限られてくるので、そこをフルに活用しようとすると、結果的に昼食の時間がなくなってしまうんです。そんなときにプロテインバーをポケットに入れておけば、リフトの上でもかじれるから楽に栄養を摂取できるんですよ」
ーー なるほど、携帯の非常食的な感じですね?
雅「そうですね。やっぱり栄養が足りてないと集中力もかけやすくなりますし、お腹が空いたときに栄養を摂って、気分的にも頑張るぞってモチベーションになるようにしています。だから、プロテインバーに限らず、おにぎりとか、食べ物をたくさんリュックに入れて持ち歩いています。もちろん、レッドブルも! 」
ーーでは、好きな食べ物は? 気持ちを上げるために食べるものなどはありますか?
雅「お肉とか、お米とか、フルーツ全般が好きです。嫌いな食べ物は特にないですね。だからバランス良く、栄養のことを考えながら食べられるのかもしれないですね」
ーー 試合前とそれ以外で食生活を変えたりはしていますか?
雅「海外と日本なので、食べるもの自体は変わるんですが、本質的な部分は大きく変化することはないですね。自分に足りていない栄養を把握して、それをどうリカバーするかを考えていきます」
ーー そこまで日頃から栄養素のことを考えながら生活している人も少ないと思うのですが、どうしたら理想の体型を作ることができると思いますか?
雅「自分が理想とする体型を作って、それを維持することってすごく難しいことだと思うんですよね。私の場合は、運動をしなくてはいけないけど、痩せすぎてしまったりする。でも、こうなりたいという理想の体型を、できるだけ具体的にイメージして目標とすることが、まずは大事だと思います」
ーー 具体的にイメージするというのは?
雅「例えば、ただ痩せたいと思っていても行動に移せないでしょうし、極端なことをしてしまったりすると思うんです。そこで、痩せるためにはどうしたらいいのかってことを具体的に考えて、そのために何をしたらいいのかを追究していけば、今、自分がやった方がいいことが見えてくると思います。それを、いきなり全部やるのではなく、やれることを1日のうちに1つでも実践していくことで、理想へ繋がっていくものだと思いますね。その目標に到達するための方法論を考えて、できる範囲でやっていけばいいって考えるようにしています」
02
《トレーニング》日々の地道な体幹トレが大切!
ーーそれでは『トレーニング』についても教えてください。毎日欠かさず行っていることはありますか?
雅「スノーボードは体幹が重要なので腹筋は毎日やっていますね」
ーー自重でシットアップやクランチをやられているんですか?
雅「それもですが、アブローラーを使っています。有名な話ですけど、腹筋から体幹までに効果的に鍛えるにはアブローラーが適していますから。それに小さくて軽いから持ち運びしやすいし便利なんですよね。アブローラーは膝をついて転がすやり方と、立った姿勢からやるものがあるんですが、当然、立ってやる方が負荷は高いです。私の場合、できるときは立ったままで、練習後に疲れているときは膝をついてやっちゃいます」
ーーアブローラー以外に器具を使ったことはやっていますか?
雅「あとは、カラダを捻って体幹を鍛えるためにバランスボールを使っています。ボールを振ったり、壁にぶつけたりっていう体幹トレーニングを毎日取り入れるようにしてます。そんな風にカラダ全体をとりあえず鍛えるわけではなく、スノーボードに繋がることを毎日やっています」
ーーアブローラーもバランスボールも自宅の筋トレで使用できる道具ですが、回数や頻度はどの程度やっているんですか?
雅「日によるんですが、1セット大体10回前後に分けて、それを3セットやっています。その3セットを5種類やるという感じですね。やる時間は日によってまちまちで、忙しいときは朝やって、お昼に戻ってきたときに続きをやって、とか分けたりもしています」
ーー 一気にやらずに朝昼で分けちゃっても効果があるものですか?
雅「全然ありです! アスリートじゃない人なら、なおさら効果的だと思いますよ。仕事や学校に行く前に少しやって、帰宅して寝る前に少しやって、というのでもいいと思います。毎日続けていれば、早い人であれば1ヶ月くらいで効果が実感できると思いますし、誰でも始められるんじゃないかな」
ーー 成長期だった頃はカラダも刻一刻と変化していたと思うんですが、その成長に応じて、何かトレーニングに関する悩みなどはありましたか?
雅「3、4年前まではカラダが変化していく年齢だったんですけど、当時も悩むということはなかったですね。その時々で何が自分に1番合っているのかを考えながら変化させていました。板もトレーニングに使用する道具もそうなんですけど。昔から、今の自分に足りないのは何かってことを常に考えながら今に至るので」
ーー 悩む前にトレーニング内容をどう変えるかを考えてきたということですか?
雅「そうですね。例えば、ジャンプしたときに高さがないって言われたら、足や太ももの筋肉を鍛えて大きくしたり。身長が伸びていく年代の頃はカラダのバランスが不安定になりやすいので、しっかりと体幹を鍛えたり。食事面と同様で、何がダメなのかってことを考える性格なので常にトレーニング内容も変えていますね」
ーー 冷静に自分を分析していくというのは、なかなかできないことだと思います。
雅「難しいことかもしれないけど、何がダメでうまくいかないんだろうってことを考えないと、それこそ逆にスランプに陥って悩んじゃったりすると思うんですよ。わからないで終わらせるのではなくて、なぜなのかを探って、それを自覚していくことで悩みも改善されていくものだと思うんです」
ーー 確かに。その考え方はアスリートだけではなく、ビジネスパーソンや学生の研究にも通じる部分がありますね。
雅「そうだと思います。ちゃんと分析して改善していく作業を毎日少しずつやっていくことで、うまくできるようになるし、悩みを溜め込んでいると、気持ちも落ち込んでいきますからね。トレーニングも同様で、自分に必要なことが何なのかを考え、自分にできることをやり続けることが大事なんだと思います」
ーー そういった自分に欠けている部分を探すときは、誰かに相談しながらやっていくんですか?
雅「大体の場合、まずは自分1人でうまくいかない理由を考えてみて、ある程度見当をつけてから、わからないことを人に相談することが多いですね。それに、周りには私から聞く前にアドバイスをくれるトレーナーさんもいるので、その意見を参考にしています」
03
《回復》より良い睡眠のためのウェアと呼吸
ーー 続いて『回復』について。カラダを休めるためにしていることや、使っている道具はありますか?
雅「今日、着ているのがリカバリー用のウェアで着てるだけで回復していくという洋服なんですよ。具体的にどれだけの効果があるのかは説明できないんですけど、やっぱりリラックスしていくような感覚はありますね」
ーー 柔らかくて着心地が良さそうですね。着ているだけでストレッチ効果があるようなものなんですか? どこかカラダをサポートするような伸縮性のある生地を使っているとか。
雅「伸び縮みしやすいウェアではあるんですけど、ゆるっとしたサイズ感でリラックスできるんですよ。運動するときはカラダにピッタリのウェアで締め付けるようなフィット感のあるものを使っているんですけど、私はもともと、ゆとりあるサイズ感のウェアが好きで。だから良いのかもしれないですね。寝るときもゆるゆるの洋服で、なおかつカラダに良いものを探して着ています」
ーー カラダを回復させるためには、何よりも睡眠が重要ですよね。寝る前に必ず行っていることはありますか? ストレッチなど。
雅「以前、スノーボードにも活かそうと思って新体操をやっていたことがあって、今もヨーガをやっているんですけど、ストレッチはしないんですよ」
ーー あら、ストレッチはあまり好きではないんですか?
雅「もともとカラダや関節が柔らかいので、ストレッチをすると筋が伸びすぎちゃうんですよね。逆に全身がゆるゆるになり過ぎてしまうという(笑)。そしたら、うまくジャンプしたり着地できなくなっちゃうので、スノーボードに支障をきたしちゃうんです。気持ち良くなるので本当はやりたいんですけど、トレーニング後に軽くやるぐらいですね」
ーー そういう場合もあるんですね、すごいです(笑)。では、リラックスするためにやることとと言えば?
雅「筋膜リリース用にHYPERVOLTのマッサージガンを使っていますね。最近話題なので知っている人も多いと思うんですが、アスリート用に開発されたというだけあって、マッサージとしてはすごくいいです。他のマッサージガンも試したんですけど、HYPERVOLTが1番効果を感じましたね。あとはヨーガで呼吸を整えるぐらいかな?」
ーー 寝付けないとか、睡眠に関して困ることはないですか?
雅「寝つきがいいタイプですし、朝昼はカラダを動かしているので、スッと寝ちゃうんですよね。寝るために何かをするということはないかもしれないです。枕が変わったら寝れないということもないので、海外でも、そこまで寝具に対して神経質になったこともないですね。リラックスできる服装で、呼吸を整えたら、寝つきが悪い人も睡眠の質が良くなるかもしれないので、オススメです」
ーー わかりました。総じて、自分のことを分析してカラダのことを考えるというのが鬼塚さんのスタイルということなのかなと思いました。
雅「はい。自分のカラダがどういう状況なのかを考えること。これが栄養面でもトレーニング面においても、回復することに対しても大切だと思います。カラダ作りのために、カラダのことを考えるのは自然なことなので、ちょっと面倒に思う人も、自分のカラダに向き合ってみると、わかる部分が見えてくるものがあるかもしれないです」
ーー参考にさせていただきます。ありがとうございました!
雅「はい! ありがとうございました! 」
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