18歳から登山を続けてきたラクパ・リタは、30年の時を経て、「カンブ最高のシルダール(Sirdar:インドで "責任ある地位の人物" を指す)」として知られている。言い換えれば、高い山に登り、命を落とさずに下山して冒険譚を語りたいのなら、彼こそが頼るべき人物だということだ。彼のリーダーシップの下、計23回・253人の登山家たちがエベレスト登頂に成功している(その中には英国人冒険家ケントン・クールも含まれる)。また、ラクパ・リタは世界七大陸最高峰全ての登頂を果たした史上初のシェルパでもある。
当然ながら、彼の仕事には危険がついて回る。これまでエベレスト登頂中に落命した人数は数百人を超えるが、その3分の1はシェルパだ。
ラクパ・リタが、厄介なクライアント、最善の準備、エベレスト登頂の予測不可能性などについて率直に明かしてくれた。
シェルパは1年のうち8ヶ月を家族と離れて過ごす
「私の仕事は登山なので、1年のうち8ヶ月以上を山の中で過ごしています。シェルパは家族や友人が恋しくてホームシックにかかりますが、これが私の仕事なので、常に自分の仕事に集中しています。この仕事は、一歩ずつ着実に進むだけです。遠い先まで考えることはありません」
聞き分けのないクライアント
「どのような人を相手にするにせよ、引率は常に困難です。最も難しいのは、シェルパの言うことを聞いてくれない時です。私たちが教える最も大事なことは自己管理です。自分自身とガイドに常に正直であって欲しいと伝えています。また、怪我のリスクを避けるために決して頑張りすぎないようにとも伝えています。ですが、私たちのアドバイスをきちんと聞いているように見えて、実は何も聞いていない人がいます」
生活を通して鍛えられた登山技術
「私が幼い頃は、車などの移動手段はありませんでした。ですので、日用品を手に入れるにも相当な距離を歩く必要がありましたし、重い荷物を背負って自分の家まで戻る必要もありました。学校へも毎日徒歩で通っていましたが、片道4時間かかっていました。このような暮らしを何年間も重ねてきたことで、フィジカルが鍛えられたのです」
「私が若い頃は、登山は今ほど商業化されていませんでした。それでも、私の地元ターメには、酸素ボンベなしで10回のエベレスト登頂を果たしたアン・リタや、幾度となくエベレスト登頂を果たした上に、インド人女性初のエベレスト登頂に成功したバチェンドリ・パルのガイドも務めたアン・ドルジェなど、著名な登山家がいました。サー・エドモンド・ヒラリー(ニュージーランド出身の伝説的登山家)も2、3年に一度は私たちの学校を訪問していました。彼らに刺激されて、私もエベレストに登頂したいという願望を持ち続けてきました」
雪崩が避けられないこともある
「雪崩が避けられないこともあります。強風が吹く嵐の中での登山には、最悪の危険が潜んでいます。このようなコンディションでは、できることなら登山は避けておきたいものです。ですが、真上から雪崩に襲われてしまえば人間にできることはほとんどありません。私は過去に3度雪崩に飲み込まれたことがあります。最初は1984年のエベレスト登頂中でした。これは私にとって初めてのエベレスト登頂でもありました。2度目と3度目は共にマナスルで、1986年と2012年です。この時はテントごと飲み込まれました」
我々は超人ではない
「エベレストのガイドは、酸素ボンベなしの登山は認められていませんので、登頂の際は必ず酸素ボンベを携行しています。ですが、他の8,000m級では酸素ボンベなしでガイドしたこともあります。ですので、酸素ボンベなしが登山に悪影響を与えるのかについては何とも言えませんね」
クライアントの大半はガイドの本質を理解していない
「登山中のシェルパは大量の荷物を背負い、ルート修正やキャンプ設営などで常に動き回っていますので、クライアントと膝をつき合わせる時間は多くありません。クライアントは、私たちガイドが自分のためにしているハードな仕事内容を見ていません。クライアントはエベレスト登頂を簡単だと思いがちで、シェルパに十分な敬意を払わないこともあります。どうか、シェルパに必要以上の負担を負わせないようにしてほしいです。シェルパがこのような危険なコンディションでどれだけの困難を強いられてきたか、そして彼らにも家族がいるということを知り、彼らを手助けし、彼らの仕事に敬意を払ってもらいたいものです」
初めてのエベレスト登頂で心がけておくべきこと
「登山の準備には多くの段階が存在します。まず、登山講座を受講し、登山技術を身につける必要があります。登山技術を身につけたら、次はジムで身体を鍛え、ランニングやウエイトリフティングで心肺機能を高めます。それから丘陵地でのトレーニングを開始し、重い荷物を持って1日4〜5時間のハイクを行います。また、低山で登山技術の向上にも取り組む必要があります。登山の知識と経験値が増えていけば、もっと高い山に挑戦できるようになるので、様々な環境に上手く対処する方法が見出せるでしょう」