心拍データ(心拍数 / ハートレート / HR)はパフォーマンスの指標ではない。パフォーマンスの指標はパフォーマンスだ。
トレーニングやレースで心拍データをパフォーマンスの主指標に据えるのは一般的だ。しかし、この数値に圧倒されてしまうときは少なくなく、計測に影響を与える要素もかなり多いので、パフォーマンスの決定的な指標にするのは難しい。
というわけで、今回はオーストラリア人ライダーのエリオット・シュルツから、心拍データに影響を与える要素や、体感エフォートとパワーメーターと併用するタイミングなどについて解説してもらおう。
01
心拍データに影響を与える要素
- 緊張 / 興奮
- 気温
- 体内水分量
- 疲労
- 体調 / 病気
- カフェイン
02
緊張 / 興奮
緊張してレースのスタートラインに並ぶ、または待望のグループライドを前に興奮するなどのシチュエーションは、多くの人が経験しているはずだが、これらは有酸素摂取状態が間違って記録される原因となる。
このようなシチュエーションでの高い心拍データは、ストレスやアドレナリンに対して身体が素直に反応しているだけなので、気にしないようにしよう。ポジティブなムードのときは特にそうしよう。
このようなシチュエーションに慣れる、またはその扱い方を学ぶにつれて、心拍データが下がり、安定していくようになる。
03
気温
高温はパフォーマンスを下げる最大要因のひとつなので、正しくコンディショニングできていない、または暑さに適応する能力が備わっていない場合は、体調がどれだけ良くても、心拍データと体感エフォートが高くなってしまう。そのため、アイスベストやアイスソックスを装着しているプロライダーは少なくない。
高温環境では、低強度のトレーニングでも心拍データが上昇する。これを念頭に置いて、水分を十分補給しつつ、サウナや暑熱対策などのトレーニングセッションも取り入れていこう。たとえば、少し厚着をして10〜30分間インドアトレーニングを行って中核温度と心拍数を高めてから、通常のトレーニングに取り組もう。
尚、このようなトレーニングは安全に行う必要がある。コーチの指導を受けながら行うのがベストだ。通常のトレーニングプログラムに熱対策セッションを挟めば、適応能力が高まり、暑さに強くなれる。
一方、肌寒い朝にトレーニングを行えば、厳しい暑さに晒されずに済み、熱を上手く解放できるので、同じエフォートでもそれほど心拍データは高まらない。自己ベストを狙うときはこのような環境が理想的だ。
04
疲労度
ハードトレーニングに5日連続で取り組み、疲労を感じていると仮定しよう。身体を動かしても心拍数が上がらず、早朝に起きるのが辛く感じるようになり、トレーニングへのモチベーションが保ちにくくなっている。要するに、他の筋肉と同じように心臓も筋肉なので、疲労が蓄積するのだ。トレーニング中はこのことを強く意識しておこう。
このような疲労時は心拍データを指標にしないことが重要だ。代わりに体感エフォートにフォーカスしよう。もしくは、パワーメーターを指標に据えても良いだろう。疲れているときに心拍データを指標に据えてしまえば、疲労がさらに溜まるはずだ。
無理せず1週間も休めば、脚が回復し、心拍データも戻っていくだろう。心拍データが運動強度に合わせて迅速に反応するようになってきたら、数日かけて本格的なトレーニングに戻していこう。身体が安定してきたことが確認できるはずだ。体調が優れず、脚がないと感じたときは、心拍データまたは体感エフォートをチェックしてみよう。
05
体調 / 病気
心拍データが通常より高いがトレーニングを続けており、エフォートがいつもよりハードに感じているとしよう。このようなシチュエーションでは、賢明な判断が重要になる。病気や風邪の可能性があるからだ。
体調が優れないときに無理矢理プッシュすれば、1日休めば済むところが1週間休むことになりかねないので、自己責任で正しい判断を下そう。
06
まとめ
「イベント前で緊張している」、「疲労が蓄積している」、「高温多湿」、「体調不良」のときは、体感エフォートを優先し、パワーをチェックし、身体の声を聞きつつ、心拍データも活用して、自分のパフォーマンスについての結論を賢く導き出そう。
心拍データはあくまで自分のコンディションを判断する材料のひとつだ。複数の材料を組み合わせれば、より多くの情報に基づいて判断を下し、効率良くトレーニングを重ねて成長を楽しめるようになるだろう。
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