Red Bull Drone 1:世界最速撮影用ドローンの製造過程を知る
— あなたはしばらく秘密裏にこのプロジェクトに取り組んできましたが、プロジェクトが立ち上げられた背景を教えていただけますか?
今回のプロジェクトが始まったのは約1年前で、レッドブルから「このようなアイディアがあるのですが…」と相談を持ちかけられたのがきっかけでした。レッドブルは “サーキットを走るF1マシンを追従できるドローンを開発する” というアイディアをしばらく前から温めていたのです。
スピードはまったく問題ではなく、直線だけならF1マシンに追随できるドローンはすでに存在します。問題はコーナーでした。
— エキサイティングですが、高難度な依頼だったはずです。チームメンバーたちとは最初にどのようなことを話し合ったのでしょう?
同僚2人と私で、すぐさまブレストをしてアイディアを出し合いました。「自分たちに何ができるのか?」「ドローンの外観はどうするのか?「過去にはどのような先例があるのか?」などについて話し合いました。
時速約370kmまで出せるドローンの試みがいくつか存在していたのは知っていましたが、どれもすべてスリムなロケット形状で、最高速度を一瞬更新することだけを目的に開発されていました。このようなドローンは超軽量でバッテリーも小さく、撮影機器も搭載されていないので、私たちの参考にはなりません。
スピードが実現できることは分かっていましたが、撮影機器を搭載した上にコーナーに対応できるかどうかは未知数でした。「どのようにコントロールすれば良いのか?」という課題がありました。
— 従来のドローンデザインはRed Bull Drone 1にどのような影響を与えたのでしょう?
まず、今回のドローンでは重量ではなく、エアロダイナミクスが最重要項目になると考えました。エアロダイナミクスに優れていて極めて効率性の高いドローンを製作できれば、バッテリーも持たせられるだろうと考えていたのです。
トップスピードではなく耐久性にフォーカスすることが第二の重要項目でした。バッテリーからモーター、プロペラまでのあらゆるパーツを限界ギリギリで運用して効率性を高めつつ、オーバーパワーにならないように注意しました。
— デザイン面でオラクル・レッドブル・レーシングのF1マシンを参考にした部分はあったのでしょうか?
いいえ。挙動が完全に異なります。デザインや形状など、大まかな空気力学的側面はいくらか共通しているかもしれませんが、Red Bull Drone 1は極めて特殊なマシンで、F1マシンから応用した部分はほとんどありません。
— 最新のハードウェアはどの程度使用されたのでしょう? また、既存のコンポーネントはどの程度応用されているのでしょう?
電子機器類やモーターはごく標準的な市販仕様ですが、サプライヤーには最新かつ未発売のモデルを提供してくださいとお願いしました。たとえば、モーターには高回転に対応できるモデルが必要でしたが、サプライヤーは要望通りのモデルを用意してくれました。そのモーターは市販仕様のパーツを使用しつつ、未発売のパーツも少量組み込まれていました。
一方、ドローン本体を覆う外部構造は私たちがゼロからデザインしました。試作品と最終的な完成品の両方で3Dプリントを大いに活用しました。カーボンファイバーのCNC加工も自分たちで行いました。
— 詳細を明かせないコンポーネントもあると思いますが、Red Bull Drone 1の驚異的な性能を示すデータをいくつか教えていただけますか?
トップスピードは350km/hで、100-300km/h加速はわずか2秒です(平均的なF1マシンの0-60mph・97km/h加速は約2.6秒)。Gフォースは最大6Gで、カーボン / グライスファイバー / 3Dポリマー製のボディには平均2〜3Gの負荷がかかります。
重量はもちろん肝心ですが、なんとか1kgを切れました。ライブストリームが可能なカメラ性能を実現したいと考えていましたが、10ビットカラー出力を備えた4K60fps / 5K30fpsカメラでも良好に機能しています。
— デビッド・クルサードは「ドローンのポテンシャルを目の当たりにした。レースマシンに乗っている感覚を視聴者に伝えられる活用方法が数多くある」と語っていました。ドローンに興味を持っている人、あなたのプロジェクトに刺激を受けた人へのアドバイスはありますか?
常識にとらわれない発想をするようにしましょう。FPVコミュニティには “当たり前” と考えられているものがたくさんあります。たとえば、FPVパイロットは全員が3ブレードのプロペラを採用していますが、はたしてそれが最善のソリューションなのかどうかについて誰も疑問を持っていません。
ドローンシーンには、使われている理由や方法について徹底的に考えたときに科学的で計算された回答が得られるものが数多く存在します。ですが、真のベストソリューションは何なのでしょうか? そこから試行を進めていくのです。
長い時間をかけてやってきたことなのだから正しいと思い込むのはNGです。“常識を疑ってみる” があるべき姿勢です。