腹直筋(別名:シックスパック)の強化は効果的な体幹トレーニングメニューのひとつだと言われていますが、確かにその通りです。しかし、洗濯板のような腹筋の獲得だけが体幹トレーニングの最終目的ではありません。少なくとも機能的・パフォーマンス的な見地からは異なります。
実は、シックスパックは個人の体脂肪率(つまり食習慣)と遺伝的要素によって決まる場合が多いのです。まだ出会っていない神秘の体幹トレーニングで得られるものではないのです。
それでも、体幹トレーニングが重要であることに変わりはありません。パフォーマンスの最適化、脊柱と背筋の状態維持、長寿のために体幹トレーニングは想像以上に役立つのです。
“安定した強い体幹” の定義は様々です。なぜなら、体幹には多くの異なる運動面と多種多様な筋肉が含まれており、それらすべてが「外部からの入力時に上半身に加わる余計な力に抵抗する」、「下半身と上半身の間で力を伝達する」、「腕や脚を運動させる際の支点を作る」ために使われるからです。
今回紹介するのは、バランスの良い体幹トレーニングプログラムの正しいやり方と取り入れるべきトレーニング 9種類です。各トレーニングメニューの負荷はそこまで大きくありませんが、体幹の基礎を作り上げるためには十分です。
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1:正しい姿勢・力の入れ方・呼吸法
これは本来的な意味での体幹トレーニングではありませんが、正しい姿勢と力の入れ方、呼吸法は、今回紹介する体幹トレーニングの基礎になるので、ここから始めるのが良いでしょう。
今回の記事に出てくる「安定した強い体幹」の “安定” とは、体幹に伝わる不必要な刺激に抵抗できる能力を指します。また体幹の “強さ” はクランチ(腹筋運動)などの運動を生み出せる能力を指します。
一般的には、体幹の安定性を高めるとファンクショナル・ムーブメント(機能的動作 / 日常動作)と脊柱・背中の状態維持に多くのメリットと実効果があると言われています。体幹トレーニングに取り組む前に、以下の3ポイントを抑えておくと良いでしょう。
- “正しい姿勢” がどのような状態なのかを理解しましょう。多くの人が頭・胸郭・骨盤を串を通したように並べて直立する方法を最初に学ぶ必要があります。トレーニングでよく言われるアドバイスは「肋骨を固定する」です。胸を張ろうとすると体幹の安定と最適な呼吸を妨げる姿勢になってしまいます。
- 体幹に正しく力を入れるためには、誰かにみぞおちをパンチされそうになっている姿勢をイメージしましょう。腹部が緊張して内側に入るはずです。入れる力の強さはトレーニングメニューの難易度と比例する必要があります。
- 正しい呼吸法を学ぶには、まず背筋を伸ばし、横隔膜を正しい位置に持っていきます。呼吸法についてはそれだけで記事1本(あるいは本1冊!)が書けますが、腹式呼吸と横隔膜の使い方(体幹の安定性に大きく寄与します)を学んでおくことが重要です。呼吸は胸や肩までではなく、丹田まで吸い込んでから吐き出すようにしましょう。
以下に紹介する体幹トレーニングに取り組む前に「正しい姿勢を取り、腹部に力を入れて、腹式呼吸をする」を1セットとしてマスターし、どのポジションでもこの3アクションを行えるようにしましょう。
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2:デッドバグ
デッドバグは初心者用体幹トレーニングに最適で、アンチエクステンション(抗伸展)系に分類されます。
このトレーニングは、不要な伸長や腰部の反りを防ぐのに役立つあらゆる筋肉を強化します。腰が浮かないように腹筋を使って背中全体を床へ押し付けながら、手足を伸ばしたまま床に向けて下ろしてみましょう。体幹を動かさずに手足を動かす方法を学べる優秀なトレーニングです。
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3:プランク
プランクを経験したことがある人は多いはずです。プランクはシンプルですが、ビギナーでも取り組める優秀な体幹トレーニングです。前腕部とつま先で体重を支えながら、尻や腰が沈んだり浮いたりしないように背中を直線・水平に保ちます(前述の「力の入れ方」の姿勢を意識してください)。
負荷を強めたいなら、肘をつま先の方向へ引き下げつつ、両脚を伸ばしたまま大臀筋を引き締めていく “アクティブ” プランクにトライしてみましょう。
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4:バランスボール プランク
バランスボール プランクはプランクのバリエーションで、ファンクショナル・ムーブメント(機能的動作 / 日常動作)に多くの効果をもたらす優秀な体幹トレーニングです。前腕部を床の代わりにバランスボールの上に載せるとバランスを取るのが難しくなります。身体を支える支点が常に変化するため反応性に優れた体幹が得られます。
レップ数や時間で区切ってバランスボールを前後に転がしたり、肘でボールを動かして自分の名前やアルファベットを “書いて” みたり、時計回り・反時計回りにボールを動かしたりしても良いでしょう。
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5:バードドッグ
バードドッグは体幹の安定とコントロールを学べる優れたトレーニングです。また、デッドバグと同じように体幹を固定しつつ手足を動かす方法も学べます。
床へ四つ這いになり、背中をテーブルの天板のように水平にします。両腕両脚へ均等に荷重をかけ、背中はコーヒーカップを載せても落ちないほどまっすぐでフラットな状態にしましょう(実際にコーヒーカップを載せる必要はありません)。
この姿勢から、体幹の動きを最小限に保ちながら片腕と反対側の脚を伸ばしていきます。腰が反ったり、肩や背中が丸くなったり、身体が左右に揺れたりしないようにしてください。
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6:ベアクロール
ベアクロールは “動くバードドッグ” と呼べる体幹トレーニングです。両膝が床から離れるので、体幹を支えて安定させるための努力が必要です。動かしている間は負荷が特に大きくなります。
ベアクロールは常に変わる姿勢に対応しながら体幹を固定させていくので反応性の強化と維持に最適です。這う動き(ウォーキングとランニングも同じです)に伴う肩と腰の交互運動は神経学的にも有益で、身体の連動性を保ってくれます。
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7:サイドプランク
サイドプランクはアンチラテラル・フレクション(抗側屈)系トレーニングです。つまり、胴体を横方向へひねる(伸ばす)力に抵抗する能力を強化します。
サイドプランクは主に内・外腹斜筋と、脊柱の安定に重要な腰方形筋に働きかけます。また、サイドプランクは尻(と体幹)の安定に重要な中臀筋を強化しつつ、身体を支える腕側の肩も鍛えてくれます。
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8:アンチローテーション ホールド
名前が示す通り、アンチローテーション ホールドの主目的は回転する力に抵抗する能力を強化することです。
バーに結んだケーブルかレジスタンスバンドを握り、バーの横、またはバンドに対して90°の位置に立ちます。腕を前に押し出せば回転力や抵抗が強まります。片側ずつ20〜30秒ホールドするか、やや負荷を強くして押し引きする動作を “1セット=5〜10レップ” で複数セットこなしてみましょう。
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9:スロー バイシクル クランチ
スロー バイシクル クランチは体幹の強さと持久力の強化に優れています。またシットアップ / クランチ系トレーニングの “刺激” が好きな人には、椎間板を痛めない優れた代替トレーニングになります。
床に仰向けになって両脚を上げ、手は両耳の横に添えます(後頭部で手を組むと首が持ち上がるので推奨しません)。両脚でペダリングの動作をしながら、引き上げた膝と反対の肘を近づけてローテーショナル クランチのように動きます。
スロー バイシクル クランチは主に腹直筋(シックスパック)と腹斜筋に働きかけます。また、肩と腰を対で動かすので、脳を刺激する良質な交互運動にもなります。
10:ホローボディホールド & ハング
ホローボディホールドは背中に負荷をかけずに体幹の前側を強化できるトレーニングです。床に仰向けになってからゆっくり両脚を上げ、上背部と肩から腕を床から浮かせます。これが “ホロー(へこんだ)” と呼ばれる状態です。20〜30秒ほどこの姿勢を保ちます。
ホローボディハングはバーに掴まって行う点以外はホローボディホールドに似ていますが、脚に重力が加わり、体幹にもやや異なる刺激が入ります。
バーにぶら下がる状態は肩の安定性と可動性を高めますが、腰から中背部が重力に従おうとする力に逆らうので、体幹への刺激がホローボディホールドより強くなります。
ベン・ロングリーについて
パーソナルトレーナーとして12年のキャリアを持つベン・ロングリーはオーストラリア・メルボルンのパーソナルトレーニング / グループトレーニング施設The Fit Stopのオーナー。ストレングストレーニング、ファンクショナルムーブメント、体脂肪低下を専門にしている。