経験豊かで熱心なランナーは、ストレッチが非常に重要なことを頭では理解しています。
【Wings for Life World Run】に参加したことがあるランナーや車いすユーザーに尋ねてみましょう。誰もが「ランニングで使用する主な筋群をターゲットにした包括的なストレッチルーティンを行えば可動性・柔軟性・ストレングス・パフォーマンスが向上する」と答えるはずです。
ですが、おそらくベテランランナーたちの多くは、自分たちのストレッチルーティンの見直しを一度もしたことがないでしょう。超トップクラスのランナーたちでさえも、時間が足りないときはストレッチでミスを犯しがちと言われています。
当然に思えるかもしれませんが、柔軟性を維持し、怪我を防ぎ、自己ベストを更新するための最良の方法は、自分のストレッチルーティンを正しく維持することです。
そこで、自分のストレッチルーティンを微調整や変化を加えたいと思っているランナーのために、ランナー用ストレッチを11種類ピックアップしました。それぞれの効果や、トレーニングに取り入れて走力を高める方法などと共に紹介しましょう。
注意:筋肉の可動域や柔軟性には個人差があります。また、筋肉痛や怪我が長引いているようなら、専門家や医師にストレッチやランニングフォームのアドバイスを求めるようにしてください。
ストレッチがランナーにとって重要な理由
ウルトラランナーとして活躍するレッドブル・アスリートのディラン・ボウマンとトム・エヴァンスは、数多くの恩恵が得られるという理由からストレッチを重視しています。また、スポーツ整形外科も彼らに同意しており、ストレッチは筋肉の可動性・柔軟性・バランス・強化に適しているとしています。
さらに、ストレッチには怪我のリスクを下げ、パフォーマンス全体を最適化する効果もあります。ストレッチはランニング前後のあらゆるルーティンの基礎になるべきものなのです。
01
ランナー用ストレッチの種類
ストレッチのエキスパートたちは、ランニング前のルーティンに動的ストレッチ(ダイナミック・ストレッチ)を、ランニング後のルーティンに静的ストレッチ(スタティック・ストレッチ)を取り入れることを推奨しています。
動的ストレッチとは、一連の動作を繰り返すことで筋肉または関節をほぐしていくストレッチを意味します。
一方、静的ストレッチは一定のポーズを維持しながら特定の筋肉または関節をゆっくりとほぐしていくストレッチを意味します。
02
ランニング前の動的ストレッチ 5選
動的ストレッチは筋肉を温め、血流を良くし、全身をほぐしてくれます。このようなストレッチは、1日中デスクに向かったあと全力でランニングをするときには特に重要です。また、パフォーマンス向上を求めているベテランランナーが見落としている可能性が高いものでもあります。
ウルトラランナーのジム・ウォームズリーが言っている通り、動的ストレッチを単独のセットとして用意する必要はありませんが、ウォームアップの一部に組み込むようにしましょう。パワー、スプリント、ジャンプが向上することが分かっています。
ですが、トップレベルのランナーの場合は、ただ適当な動的ストレッチを取り入れれば良いという話ではありません。Team Running USAでコーチを務めるテレンス・マホンは、動的ストレッチは "ランニング専用" の種類を取り入れることで最大の効果を発揮し、ランニングで使用するあらゆる関節と結合組織を活性化してくれると強調しています。
《足首の可動性を高めるストレッチ》
足首は “足の安定性と推進力の向上” という重要な役割を担っているにもかかわらず、ランナーたちから無視されがちです。このシンプルなストレッチで足首の可動性をサポート・強化・向上させましょう。
- 背中を伸ばして立つ。
- 膝を緩めた状態を保ちながら両足の指の付け根で立つ(つま先立ちのイメージ)。
- この姿勢を10秒間維持してから踵を地面に着ける。
- ここまでを10回繰り返す。
《サイドランジ》
サイドランジは、臀部のコントロール力を高めながら、内転筋、臀部、大腿四頭筋を鍛えることができます。サイドランジが苦手な人は、フォワードランジ、バックランジ、ダイアゴナルランジのような他のランジバリエーションを試してみましょう。
- 直立姿勢から、右脚を大きく真横へ振り出して置く。
- 置かれている右足に重心をかけながら右膝をしっかり曲げて沈み込み、右側へランジする。このときに左脚が伸びていることを確認する。
- 膝を曲げるときに膝がつま先より前に出ないようにする。また、背中は曲げないようにする。
- 直立姿勢に戻り、左脚で同じ動作をする。左右1セットで10回繰り返す。
《バットキック》
バットキックはハムストリングと臀部に効果がある有酸素運動です。ランニング前に血流を向上させる効果もあります。
- 両足を腰幅に開いて立つ。
- 尻を目がけて右足を蹴り上げてから地面に戻す(踵で尻に触れるイメージ)。左足でも同じ動作を繰り返す。
- 徐々にスピードを高めながら交互に30秒間続ける(もしくは片足交互で12回ずつ)。
《レッグスウィング》
レッグスウィングは可動性を最大限まで高めるのに効果的なストレッチです。両脚の可動域を広げつつ筋肉に刺激を与えます。
- 支えになる壁または物を用意してバランスを取れるようにする。
- 周りに十分なスペースを確保する。
- 直立して、右脚を前後方向にできるだけ大きく振る。前後10往復させる。
- 可動域を無理に超えないようにする。
- 左脚で同じ動作を同じ回数繰り返す。
《ハイニースキップ》
ハイニースキップはランニング前の股関節屈筋を活性化し、両脚を強化し、心拍数を高めてくれます。
- 前を向いて直立する。
- 右脚を上げて、胸を目がけて右膝を持ち上げる。このときに左膝を曲げて上に飛び上がる(その場でスキップするイメージ)。
- 右脚を下ろして、左脚で同じ動作をする。
- 30秒間交互に続ける。
03
ランニング後の静的ストレッチ 6選
ランニングを終えたあとはストレッチを省きがちですが、トップレベルで活躍するアスリートたちがクールダウンに時間を割いているのには理由があります。ランニング後の静的ストレッチは筋肉の緊張をほぐし、硬化を解消し、リカバリーを促進してくれるのです。また、静的ストレッチは、ランニング後に “マインドフルな時間” を獲得するチャンスにもなります。
下に紹介しているストレッチ6種はそれぞれ30秒から1分続けましょう。また、ストレッチ中は呼吸を止めないようにしてください。可能なら鼻から吸って口から出す呼吸を続けるようにしましょう。
また、静的ストレッチは筋肉を限界までプッシュすることが目的ではありません。ゆっくりと伸展させることを意識しましょう。
《腸脛靱帯のストレッチ》
正確には、このストレッチは大腿筋膜張筋(臀筋)を伸展するためのものですが、太腿の外側から脛まで繋がっている腸脛靱帯の伸展にも適しています。長距離ランナーに対して特に効果的です。
- 支えになる壁または物を用意してバランスを取れるようにする。
- 直立して左足首を右足首のうしろでクロスさせる。
- 左腕を真上に上げて、背伸びするように少し上に伸びたあとそのまま肘を曲げずに右側へ倒れていく(左腕で頭上に弧を作るイメージ)。このときに全身の左側面が伸展している感覚が得られていることを確認する。
- 必要に応じて右腕で壁か物を支えてバランスを取る。
- 30秒姿勢を維持したあと、左右を入れ替える。
《大腿四頭筋のストレッチ:立位》
大腿四頭筋はその名の通り4つの大きな筋群で構成されていますが、これらが固まってしまうと臀部や腰のバランスが崩れてしまう可能性があります。大腿四頭筋を強化すれば、膝のサポート力が高まり、臀部や腰のバランスの崩れから来る痛みを防げるようになります。
- 直立する。
- 両足を腰幅に開く。
- 右足が尻につくように右脚を背中側へ持っていく。尻に近づいたら、右手で右足をホールドする。
- 右膝を地面に対して垂直にする。次に膝・地面と垂直で並ぶように右側の尻を前に押し出す(太腿の前側が伸展している感覚が得られていることを確認する)。
- 右足が尻から離れないようにする。
- この姿勢を30秒維持したあと左右を入れ替える。
《ハムストリングのストレッチ:座位》
ハムストリングは太腿の裏側で膝から尻まで繋がっている筋肉で、股関節屈筋と臀筋、ふくらはぎに影響を与えます。
- 床に座る。
- 右足を前に出す。少し右斜め前に放り出すイメージ。左膝を曲げて持ち上げて、左足首を右太腿の上に乗せる。
- 背中は真っ直ぐ伸ばしたまま、右足のつま先の方へ腰から身体を曲げていく。
- このときに可能なら手で右足のつま先を掴む。足首やふくらはぎでも問題ない。
- 掴んだ姿勢を30秒維持する。
- 座った姿勢に戻り、脚を入れ替えて同じ動作をする。
《臀部をひねるストレッチ:座位》
臀部(尻)の筋肉は大きく3つに分かれています(大臀筋・中臀筋・小臀筋)。ランニングでは、臀部は両脚を安定させてストライドのパワーを増大させる重要な役割を担っています。
- 両膝を伸ばして床に座る。
- 左脚を右脚の上に交差させたあと左膝を立てて、左足が右膝の真横に来るようにする。左膝が右脚の上で立っている状態を確認する。
- 上半身を右へひねる。このときに可能なら左肘で左膝を引っかけてひねりが維持できるようにする。右肩越しに背中側が見えるくらいしっかりひねる。
- この姿勢を30秒維持したあと、脚を入れ替えて同じ動作をする。
《股関節屈筋のストレッチ:膝立ち》
股関節屈筋は、日常生活とランニングの両方で非常に重要です。太腿の内側から骨盤にかけて繋がっている股関節屈筋を強化すれば、膝や尻に関連する怪我のリスクを低下させると同時に臀部のバランスを維持できるようになります。
- 直立する。
- 右足を背中側へスライドさせてフォワードランジのようなポジションを取る。次に右膝をゆっくり地面の方向へ下げていく。
- 左脚と股関節を90°に維持して(左脚と地面を水平にする)、両手を左太腿の上に置く(こうすることで上半身の姿勢を正しく維持できる)。
- 骨盤の位置を固定したまま上半身を少しだけ左尻方向へ回転させる(右太腿に刺激が入ることを確認する)
- この姿勢を30秒維持する。
- 右足を前へ戻し、再び立つ。脚を入れ替えて同じ動作をする。
《ふくらはぎのストレッチ》
最後に紹介するのは、ふくらはぎ(ヒラメ筋と腓腹筋)のストレッチです。この2つの筋肉は、推進力と着地時の衝撃吸収を担います。この重要な筋肉群をストレッチすることは、シンスプリントや疲労骨折、膝の痛みを回避するために不可欠です。
- 壁と向き合って立つ。左脚を背中側へスライドさせ、左膝を少し曲げる。壁に両手をついて支える。
- 左足の踵が軽く地面に着いていて、ふくらはぎが伸展していることを確認する(無理はしない)。この姿勢を20〜30秒維持する。
- 脚を入れ替えて同じ動作をする。
04
よくある質問
ランニングのウォームアップでは何をしたら良いのでしょう?
ウォームアップのメニューはランナーごとに異なります。それぞれが経験に基づいて独自のウォームアップルーティンやストレッチを用意して、ランニングに向けてフィジカルとメンタルを調整しています。効果的なウォームアップには、血流を促進しながら重要な筋群に軽い刺激を入れられる動的ストレッチが含まれるべきです。
「ウォームアップの分数は?」もよくある質問のひとつです。この質問に対するエキスパートたちの意見は多様ですが、共通点がひとつあります。それは「動的ストレッチを必ず含むこと」です。動的ストレッチは5分行うだけでも怪我を防ぐ大きな助けになります。
ストレッチはランニングの前後どちらに行うべきですか?
ランニングの前後にストレッチを取り入れましょう。ランニング前は動的ストレッチ、ランニング後は静的ストレッチにフォーカスしてください。
ランナーが筋肉の張りを防ぐ方法はありますか?
ランナーなら誰しも筋肉の張りに悩まされます。ランニングには付きものなのです。しかし、筋肉の張りを防ぐ効果的な方法がいくつかあります。
- 走行距離600km〜800kmごとにランニングシューズを新調する。
- ランニングフォームを見直す。正しいフォームは筋肉の張りを軽減するばかりか、ランニングエコノミーとパフォーマンスも向上させることが証明されています。
- 本記事で紹介してあるすべての理由からストレッチを十分に行う。
- 水分を十分に補給する。水分を摂取すればそれだけ関節のクッションが厚くなるので、筋肉がベストパフォーマンスを発揮できるようになる。
各ストレッチを維持する長さを教えてください。
各ストレッチは、最短でも10〜30秒は維持しましょう。また、ストレッチ中は呼吸を続けてください。
ストレッチ中はマインドフルネスを意識します。限界までプッシュする必要はありません。痛みを感じるようならすぐに止めて、快適に感じられるポジションに調整しましょう。そのときの身体の柔軟性に合わせてください。
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