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F1
F1ドライバーのトレーニング:フィジカルの鍛え方
F1ドライバーは優れたフィットネスの持ち主だが、過酷なシーズンを通じてどのように維持しているのだろうか? オフシーズンはどのような方法で肉体を鍛えているのだろうか?
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F1ドライバーはジムに通うのか?
F1ドライバーは、レースを戦うための全身の筋肉が求められるエリートアスリートだ。優れたフィットネスが長いシーズンを強く、ヘルシーで、ハッピーに乗り越える助けになる。まとめるなら、フィットネスの管理は仕事の一部なのだ。
現ワールドチャンピオンのマックス・フェルスタッペンも「父から常に “ドライビング中に疲れてはいけない。疲れるようなら鍛え方が足りないのだ” と言われていました」と語り、次のように続ける。
「鍛えること、つまりトレーニング自体が好きではないですが、自分のフィットネスを維持するために何をすべきかは理解しています。楽しくないですが、やるしかないのです」
F1ドライバーたちは、シーズンを戦い抜いて上位に立てる肉体を手に入れるためにハードなトレーニングスケジュールを組んでおり、レースに向けてフィジカル・メンタル両方をピークレベルに仕上げる役目を担うパフォーマンスコーチと一緒にそれぞれのスケジュールを消化している。フェルスタッペンのトレーニングをチェックしてみよう。
F1ドライバーとF1マシンができる限り軽量で空力性能に優れたひとつのユニットとして機能するために、F1ドライバーたちは筋肉量をなるべく増やさないように注意している。
そのため、フェルスタッペンのトレーニングも、イージーペースのランニング、フリーウエイト系エクササイズと自重系エクササイズを組み合わせているが、自重系の割合が多い。
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パフォーマンスコーチの役割
フェルスタッペンのパフォーマンスコーチを務めるブラッドリー・スケインズは理学療法士だが、パーソナルトレーナー、栄養士、精神分析医も兼ねている。パフォーマンスコーチという仕事は、アイルトン・セナが自分専用の理学療法士を雇い入れた1980年代からF1で見られるようになった。
セナのパフォーマンスコーチは、オーストリア人のジョー・レベラーが担った。彼は若きセナをレーシングマシンへ変えるトレーニングスケジュールを組んだが、同時にセナが悩みを打ち明けられる親友となり、サーキットの内外で彼を支えた。現在のF1ではすべてのドライバーがパフォーマンスコーチに支えられている。
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オフシーズンのトレーニング
F1のオフシーズンは最終戦が終わった12月からテストが始まる2月までだ。この期間はドライバーたちがそれぞれの家族や友人と過ごし、リフレッシュするために非常に重要だが、1月前半から彼らはジムに戻り、トレーニングを積んで筋力とスタミナの強化に取り組んでいく。
ビザ・キャッシュアップRBに所属するダニエル・リカルドは、オフシーズンの過ごし方を熟知しており、ジムセッションにボクシングと心肺系トレーニングを組み合わせることを好んでいる。ジムでのリカルドは、デッドリフト、スクワット、ケトルベルランジのようなスタンダードなウエイトリフティングに取り組みながら、ウエイトを背中に乗せたプランクにも取り組んでいる。
「私たちは週6日をトレーニングに充てています。1日2セッションで7〜8週間続けます。心肺系エクササイズ、ストレングスエクササイズ、高強度エクササイズを組み合わせていますね」
「オフシーズンの典型的なトレーニングでは午前中に持久系を組んでいるので、50〜70分のランニングあるいはサイクリングを行います。午後はストレングスエクササイズです」
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Gフォース対策
太い首はF1ドライバーのルックスの大きな特徴のひとつだ。彼らはコーナーで5〜6Gを体感しており、バルセロナのカタロニア・サーキットのような典型的なサーキットでは、各コーナーでこの大きさのGフォースに4〜6秒耐えなければならない。首の筋力アップは不可欠なのだ。
そこで、F1ドライバーたちは、首にウエイトをぶら下げたり、誰かにレジスタンスバンドを引いてもらったりすることで、レースでかかる負荷をトレーニングで再現している。
首は弱いのでいきなり10kgのウエイトを乗せることはありません。ゆっくりと鍛えていきます
ダニエル・リカルドは首と柔軟性の強化はゆっくり取り組むことが重要と指摘している。
「首は弱いのでいきなり10kgのウエイトを乗せることはありません。ゆっくりと鍛えていきます。最初はあお向けに寝て、頭を持ち上げてゆっくりと左右に傾けます。これを75回繰り返したら、今度は前に倒していきます。これで首を鍛えることができます」
F1ドライバーはそれぞれ好みの方法で首を鍛えている。レッドブル・ジュニアチーム時代のカルロス・サインツは、重量を増やしたヘルメットを装着してカートをドライブしていた。
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ドライビングに特化したトレーニング
F1を戦うためには首だけではなく、体幹を鍛えることも重要だ。リカルドが話を続ける。「体幹の強化に効果的なエクササイズはブリッジかプランクですね。これらのエクササイズは腰と体幹を鍛えられる上に、少し意識すれば、呼吸のコントロール方法も学べます」
セルジオ・ペレスのパフォーマンスコーチを務めるホセ・カナレスは次のように語っている。
「モータースポーツで特に強化が必要な部位があります。首、前腕、握力、体幹、僧帽筋は強化が不可欠です。F1マシンのドライビングに必要な部位はすべて強化し、ドライバーを最もフィットしている状態に持っていく必要があります」
これはもちろん簡単には実現できない。ペレスのトレーニングセッションの様子を収めた動画をチェックしてみれば理解できるはずだ。
ウエイトを使うドライバーもいるが、ペレスはステアリングホイールにウエイトを追加してドライビングに必要な筋肉群を鍛えられるようにしており、レースの準備として非常に価値の高いトレーニングを積んでいる。
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サーキットでのトレーニング
シーズン開幕後はフィットネスの維持が重要になる。サーキットが使用されていないときにドライバーとピットクルーがサーキットで走ったり、自転車に乗ったりするのはこれが理由だ。
5kmランはドライバーのフィットネスをピークに保つのに最適だ。また、パーソナルコーチと一緒にアジリティエクササイズや反射神経系トレーニングに取り組んでいる姿もサーキットお馴染みの光景だ。
リカルドは次のように説明している。「反射神経を鍛えるトレーニングはドライビングの大きな助けになります。僕の場合は、サーキットのウォールの前に立ちます。次にウォールを見つめている自分の背後からパーソナルコーチがウォールに向かってテニスボールを投げます。そのあと、ウォールに当たって戻ってくるテニスボールを片手でキャッチします。これは反射神経と周辺視野に非常に効果的です。しかも楽しいです!」
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その他の取り組み
フィットネスの維持はサーキット外でも重要だ。F1ドライバーの生活はグラマラスで、大都市への移動、夜遅くまでの外出、パーティ、美味しい食事などが含まれるが、このような誘惑はフィットネスに悪影響を及ぼす可能性がある。しかもF1シーズンは長い。
そこで、高いレベルのフィットネスと栄養価の高い食事、定期的なエクササイズがドライバーたちの集中を維持し、メンタルヘルスを向上させる助けになる。
フェルスタッペンはジムやパフォーマンスセンターでフィットネスを維持しているが、自宅でのワークアウトや屋外のランニングも取り入れている。
スケインズはレース後にリラックスすることも重要とし、次のように語っている。「24戦が組まれているシーズンでは自宅以外で過ごす時間が増えます。移動とトレーニングにかなりの時間が取られますので、レース後にビール数杯を飲み、2日くらい休んでも問題ありません!」
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